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三度目の長生き!  作者: ゴトーゼスタ


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第1話 前世と前々世の記憶って!?

 前を歩いていた冒険者の一人が突然、叫んだ。


氷血大蛇グラキオルーベル・サーペント!? まだ冬眠中のはずだろ!」


 暦の上では春だけど、北の辺境の山肌にはまだ雪が張りついている。

 だから危険な魔物は冬眠してる、そのすきに今日は牙猪(タスクボア)を狩るんだって、道すがら冒険者たちは話してた。

 なのに、岩場の奥から現れたのは、


「シャアアアア……」


 巨大な大蛇の頭! 鱗は黒光りして、目は血のように紅い。でっかい口から吐き出される冷気で周囲の温度がぐっと下がる。

 と、ドガッと頭に衝撃が走った。


「灰ネズ、おまえはここで待機だ! 使えねー荷運びをわざわざ雇ってやった甲斐があったぜ」

「…………っ!」


 倒れ込んだ地面は冷たくて硬い。でも、痛みを感じるより先に脳裏に走馬灯のような映像が次々と浮かぶ。


 日本。東京。大きな窓の外に広がる高層ビル群。血まみれの包丁。

 剣と魔法の世界。きらめく聖光樹。白亜の宮殿。キタこれテンプレ転生――!

 (ひかる)、ルクレオン。二つの名前。


(……なにこれ?)


 その一方で、冒険者たちの捨て台詞と遠ざかる足音。


「じゃあな、灰ネズ」

「とっととずらかるぞ! 囮が喰われてる間によ!!」


 そうだ、今のオレは『灰ネズ』!

 孤児院育ちでまともな名もなく、かまどの灰かぶり。

 そして、七歳で冒険者ギルドに”出荷”された。


 だけど、蘇った記憶もオレ。

 前世と前々世のオレは……って、なんでこのタイミングで記憶戻るの!? もう人生、終わりかけてるんですけど!!


 冒険者たちの気配は完全に消えて、ズズッと地響きが迫ってきた。砂粒が跳ねて頬に触れる。

 でも、指一本動かせない。背中には重いズタ袋がくくりつけられたまま。凍てつく寒さで感覚はとっくに麻痺してるし、殴られた頭からはドクドク出血してる。

 そもそも孤児院のサイテー生活で栄養失調。手足なんてガリガリ。継ぎだらけのボロ服は薄い布切れ同然だし……って、あれ? でも、不思議と腹の底は熱いような……。


(……なんか、覚えある? これって、もしかして……!?)


 その熱の正体に気づいたとき、目に見える景色のすべてが変わった。


     ◇◇◇◇◇


 前々世のオレは日本の引きこもり不登校児だった。

 小学校受験に失敗したら、

『こんなに課金したのに! 今度こそ成功して! 負け犬なんて許せない!!』

 母親の過度な期待と過干渉がエスカレート。毎日塾とお稽古事を詰め込まれて、土日祝日・盆正月も進学塾の勉強合宿。


 で、パ―ンと飽和状態になったのは小六の夏。

 それから部屋に引きこもって、母親のターゲットが出来のいい弟に移って、通わないまま中学卒業。


 とはいえ父親が甘かった。IT企業の創業者とかで、すっげー金持ち。ネット環境も上限なしのカードもなんでも与えてくれた。

 母親もなんだかんだと衣食住サポートしてくれたし、今の灰ネズ人生からすると天国極楽なお気楽生活だった。


 なにせバストイレ付きの豪華マンションの個室で、課金ゲームし放題。アニメも映画もドラマも見放題、マンガやラノベ読み放題、お取り寄せグルメも注文し放題! ビバ親のすねマネーパワー!

 ほんっと甘やかされた最低のおぼっちゃまだったよ、前々世のオレ……。


 だけど、娯楽消費生活って、極めに極めると飽きる。

 で、AIに相談したら、高卒認定どうかって。

 小学生時代、猛勉強してたし、ちょっと対策したら合格。続けて十八歳で大学にも受かったよ。

 ほんっと人生舐めた親のすねかじりなクソガキ……。


 ところが今度は中二の弟が飽和状態になったらしく、教室で同級生をナイフでグサッと。

 幸い軽傷だったけど、半狂乱になった母親が弟を殺して私も死ぬなんて包丁振り回して家中どったんばったん。あまりの騒がしさに何事かとオレが開かずの扉を開けたのが運のツキ。


 ほら、オレ、足腰弱い引きこもりだったから。

 母親から逃げてきた弟がドアの隙間からオレの部屋に飛び込んできて、ぶつかって床に転がったのはオレ。

 続いて、飛び込んできた母親がオレにつまずいて転んで、偶然、包丁の刃がオレの心臓に刺さったみたい。


 こればっかはなー、運が悪かったんだよね。母親を恨みはしないし、むしろ巻き込まれてごめんねって言いたい。

 そもそもオレが長男としての期待に応えられなかったせいだし、オレが死んだあと、事後処理が大変だっただろうからね。父親が金の力でなんとかしただろうけど。


 でも結局、前々世のオレが引きこもったのも早死にすることになったのも、自分の努力と才能が足りなかったから。

 もっとああしてたらこうしてたらってすっごい後悔しながら死んだせいか、気がついたら前世の記憶を持ったまま赤ん坊に生まれ変わってた。

 あ、たぶんテンプレ神様には会わなかったと思う。記憶にない。


 それはともかく二度目の人生、赤ちゃん転生! しかも剣と魔法の世界できらびやかな宮殿の皇子様!!


 いえーい! ラッキー! かくなる上はスタートダッシュ! 前世の記憶アドバンテージがある以上、最初から努力すればオレだって今度こそひとかどの人間になれるはず!!

 って、すっごいはりきって努力したんだけど、なんかしすぎたみたいなんだよね……。


『……我らがテラグリウス帝国を、いや、この世界を救ってくれるか、ルクレオン』


 皇子ルクレオンは世界を救うために命を捧げることになった。

 一国どころか、全大陸の英雄。世界中から愛され、崇められ、死後も語り継がれる世界の救世主。


 だけど、享年十八歳。一度目と同い歳!

 逃げても努力しても、寿命が同じ十八年ってなんなのさ!?


 あげく今回、三度目の人生。思い返せば、食事のお祈りからして赤面モノだった。


『我らがテラグリウス帝国を守りし皇帝陛下と世界を救いし英雄皇子殿下に敬意と感謝を捧げ、この食事をいただきます』


 食後は最後のフレーズが『この食事を終わります』になるんだけど、前世のオレって世界を救いし英雄皇子。

 つまり毎日、過去の自分に敬意と感謝してたってことに! 自画自賛の羞恥プレイ!!


 しかも生まれたてほやほや、へその緒付きの灰ネズが孤児院に捨てられた日ってのが、その『英雄皇子殿下の旅立ちの日』に当たる聖光日の夜。


 あ、聖光日って一年のはじまりの日。でも、前々世の日本じゃ四月一日くらい。

 一年は四月スタート。でも、十二ヶ月じゃなくて七ヶ月。

 この暦の違い、覚えるの苦労したよ。

 てか、言語チートなかったから、フツーの赤ん坊みたいに一個ずつ単語覚えていかなきゃいけなかったしさ……。


 それはともかく、孤児院の副院長のおばちゃん曰く、


『英雄皇子殿下が世界をお救いくださった日に親から捨てられるなんて、呪われた子だこと。髪も目も汚い灰色だし、いつも熱ばかり出しているし、おまえのような者に名など必要ないわ。灰色のネズミみたいな、灰ネズ。それがおまえの呼び名よ』


 つまり、前世の英雄が死んですぐ同じ世界に転生したのに、三度目の人生は名無しの孤児!


 ギャップ! 格差、ひどいから!

 一度目だって十分恵まれてた金持ちのボンボン、二度目は尊い帝国皇子。なのに、三度目は蛇のエサ間際の孤児ってありえない!

 身分制度の三角形の一番てっぺんの輝く星からその他大勢底辺以下へ、落ちる落差激しすぎ!!


 けれど――。

 灰ネズの腹の底に渦巻く熱。それはオレが前世の皇子様時代に感じていたのとまったく同じものだった。

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