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最強の光神(マロー)は、二度と夜を許さない。 〜国民的ゲームの主人公になって、絶望の淵にいた多種族を全員幸せにします。……でも、照れるとすぐ体がピンクに光るのは勘弁してください〜  作者: 稲盛 皆藤
【第一部:黎明編 ―光神の目覚めと仲間たち―】

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第6話:流浪の騎士と、桃色の

 宿屋兼食堂『安らぎの灯火亭』。 その名の通り、 店内は温かな橙色の魔導灯と、 人々の熱気に満ちていた。 かつての俺にとって、 こういう場所は最も縁遠い、 眩しすぎる異世界そのものだった。


「マロー様、見てください! このエール、 泡が虹色に輝いています!」


 フィオナが尻尾を激しく振り、 ジョッキを差し出してくる。 バラムは既に、 山盛りの串焼きを頬張っていた。


「……美味いな、これ。」


 ふと口から出た独白に、 自分でも驚く。 先日、世界樹の果実を食した時、 魂に刻み込まれた「味覚」。 それは今も熱を持って、 俺という存在を繋いでいた。


 深夜のコンビニ。 冷たい蛍光灯の下で、 一人、味気ない弁当を 胃に流し込んでいたあの夜。 あの時の俺に教えてやりたい。 お前は数年後、 仲間と笑いながら、 温かい湯気を囲んでいるぞ、と。


(……ああ。 俺は、もう……。)


 光核の芯が、 じんわりと心地よく拍動する。その時だった。 隣のテーブルから、 氷を噛み砕くような、 不穏な噂話が耳に届いた。


「……西の村の騎士カイル、 まだ諦めていないらしい。」


「無茶だ。 あの村はもう、 『闇の浸食』に呑まれた。 独りで守り切れる訳がない。」


「死に場所を探しているのかもな。 あんな清廉な男に、 この世は暗すぎるのさ……」


 光の核が、 鋭く、冷たく、収縮した。 「カイル」……その名に心当たりがある。 前世でやり込んだゲーム、 『レジェンド・オブ・ライト』。 その隠しイベントで、 孤立無援のまま散っていく、 悲劇の美騎士の名だ。

  「死に場所」という言葉が、 雨の夜のあの街灯と重なる。 誰にも気づかれず、 ただ役目を終えて消える。 ……そんな絶望を、 俺は一番よく知っている。


(……見過ごせるわけがない。 俺が、その『結末』を書き換える。)


 俺は仲間を促し、 席を立った。


 西の村は、 既に死の静寂に包まれていた。 空を覆うどす黒い雲が、 太陽の光を完全に遮っている。 村の中央、広場へと続く道。 そこに、その男はいた。


 月の光を束ねたような金髪。 女性と見紛うほどに 端正な顔立ちの少年騎士。 だが、その銀色の鎧は砕け、 返り血で赤黒く汚れ、 右腕は力なく垂れ下がっている。


「……まだです。 光が完全に消えるまでは、 私は……膝を突きません。」


 その声は、 鈴を転がすように澄んでいた。 銀色の鎧はボロボロに砕け、 返り血で赤黒く汚れ、 右腕は力なく垂れ下がっている。 それでもその声の主は、 背後の壊れかけた納屋に 身を寄せた子供たちを守り、 折れた剣を構え、 迫りくる影を睨み据える。


 その目は、 死を覚悟した者のそれではない。 ただ、明日を信じる 真っ直ぐな意志だけが宿っていた。 その姿があまりに高潔で、 そして痛ましかった。


(ゲームと同じ……いや、 それ以上に痛ましい。 お前を、独りで消させはしない)


 俺は広場の中央へと急降下した。


退け!!」


 純白の衝撃波が爆発し、 闇の影を一瞬で焼き切る。 静寂が戻った広場に、 俺はゆっくりと降り立った。

 カイルは目を見開き、 震える唇を噛み締めていた。 「……ああ。 なんて……神々しい……」

 彼は折れた剣を落とし、 泥の上に、優雅に跪いた。 その仕草一つが、 まるで舞台劇の一幕のように美しい。


「……本当に、 いらっしゃったのですね。 暗闇の底で……、

 ずっと、貴方を探していました」


 カイルの瞳から、 一筋の涙が頬を伝う。


「……貴方こそ、 私が生涯をかけて仕えるべき、 真の光、私の主……」


 真っ直ぐな、 崇拝の眼差し。 前世で「透明人間」だった俺には、 あまりにも、眩しすぎる。


 ボフッ!!!


 純白だった俺の身体が、 爆発的な音と共に、 どぎついほどの 鮮やかなピンク色に染まった。


「……マロー様!? なんという慈愛に満ちた輝き!

 聖なる桃色の波動が、 村全体を包み込んでいます!」


 フィオナが水晶板を叩きながら絶叫する。


「これは光学的に見て、 高潔な騎士の誓いに、 最大限に共鳴した反応です!

  ああ、神々しすぎて目が……!」


 カイルもまた、 桃色の光に照らされ、 恍惚とした表情で頭を垂れる。


「……なんという慈悲。 この未熟な私のために、

 これほどまでに…… 頬を染めてくださるとは……」


(ち、ちがう!! そんな高尚なもんじゃない! ただ恥ずかしくて、 ゆでダコみたいになってるだけだ)


 叫びたいが、声が出ない。 ピンク色の光が、 ドクンドクンと脈動し、 廃墟のような村を、 気恥ずかしい空気で満たしていく。


「……マロー様。 また……ピンクですね。」


 ルミナが口元を押さえ、 小さく肩を震わせて笑う。


「……うるさい。 これは、その、 大気の散乱による、 一時的な分光現象だ!」


 俺はピンク色の残光を引きずり、 闇が晴れ始めた夜空へと、 逃げるように舞い上がった。


(……ああ。 神様なんて、 やっぱり向いてないのかもしれない)


 それでも。 俺を見上げるカイルの瞳は、 あの雨の夜、 俺がどうしても見たかった、「救われた街灯」の輝きに よく似ていた。

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