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最強の光神(マロー)は、二度と夜を許さない。 〜国民的ゲームの主人公になって、絶望の淵にいた多種族を全員幸せにします。……でも、照れるとすぐ体がピンクに光るのは勘弁してください〜  作者: 稲盛 皆藤
【第一部:黎明編 ―光神の目覚めと仲間たち―】

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第5話:光の処方箋

 七色の残光を無理やり押し殺しながら、私はルミナに導かれ、森の最深部にある『聖域』へと辿り着いた。

 そこに鎮座していたのは、ガラス細工のように繊細な『世界樹の苗』だった。

 だが、その根元はどすぐろい『浸食』に深く侵され、苗の周囲の空間そのものが、まるでお湯に落としたインクのように不自然に歪み、波打っている。


「……マロー様、見てください。」


「苗の周囲の『マナ』が異常な高圧状態で固定されています。」


「これでは苗が窒息してしまう!」


 ルミナが悲痛な声を上げる。だが、傍らで観測用の水晶を覗き込んでいたフィオナが、銀色の耳をピンと立て、鋭い叫びを上げた。


「……違います、ルミナ様!」


「これは単なる魔力の圧力じゃない。」


「浸食の負エネルギーが疑似的な質量を持ち、局所的な重力異常を引き起こしています。」


「……信じられない。苗の周囲だけ、時間の流れが極端に遅滞しているんです!」


 フィオナの言葉に、私は自身の核が震えるのを感じた。時間の遅滞。それは前世、孤独な深夜に読み耽っていた物理学の概念そのものだった。


(質量が時空を歪め、時間が遅れる……。アインシュタインの一般相対性理論か。

 もし稀代の天才の言う通りなら、この歪みを「修復」する方法は一つしかない。)


 私は、羞恥心でまだピリピリと痺れる光核を、一点へと凝縮させた。レベルアップによって【光の集積体ルミナス・クラスター】へと進化した今の私なら、物理的な干渉力を行使できる。


「……フィオナ、よく見抜いたな。」


「エネルギー、質量、そして光の相関関係……。」


    E = mc2


「この公式の逆を行く。」


「重力による時空の歪みを、俺の光子エネルギーによる逆位相の干渉で相殺する。」


「公式……?イー・イコール・エム・シー・スクエア……?」


「マロー様、今のは一体!?」


「まさか貴方は、世界の理を数式で理解されているのですか!?」


 フィオナの銀色の尻尾が、驚愕と興奮でこれまでにないほど激しく波打つ。その速度はもはや、周囲に風を巻き起こすほどの学術的パッションに満ちていた。


「重力によって曲げられた時空に、光速の振動で干渉し、波形を打ち消す……!」


「マロー様、それは神業を超えて、宇宙の設計図そのものです!」


 私は全波長の発光を、極限まで絞り込んだ「青白い高密度コヒーレント光」へと変換した。


「……光子共鳴、開始。」


「事象の地平線に、俺の光を叩き込む!」


 私の叫びと共に、聖域を真っ白な閃光が包み込んだ。それは魔法による浄化よりも、物理法則を書き換える精密な手術だった。

 光が時空の歪みを「中和」し、苗を縛っていた「遅い時間」を無理やり正常な流れへと引き戻していく。

 空間がひび割れるような高周波の音が響き、次の瞬間、黒い澱が弾け飛んだ。

 浄化された苗は瞬く間に成長し、 聖域全体を包み込むような 温かな緑の結界を張る。


 そしてその枝の先に、一つだけ。 真珠のように白く、 この世のあらゆる穢れを 遠ざけるような、 究極の果実が実っていた。


「……マロー様。 それは世界樹の慈悲、 『星降の雫』です。」


「どうか、貴方が。」


 ルミナに促され、私は「光の玉」 のまま、その果実にゆっくりと 近づいた。

 今の私は光だ。独りで食べ、 力を増すこともできる。 だが、私の記憶がそれを拒んだ。


 それは、深夜のコンビニ。 サトシが少し得意げな顔で 差し出してきた、 値引き限界の『半額シール』が 貼られた二つの弁当を、 「防犯カメラ映ってるから、ちゃんと金払ったからな」と 笑って分け合ったあの夜の。

 胃袋を満たすためではなく、 心の飢えを分かち合った 、あの温かな記憶。


「……いいや。」


「これは、俺たち 全員の勝利だ。」


 私は念動力で、そのたった一つの 果実をふわりと浮かせた。

 そして慈しむように、 それを四つの等分に 引きちぎった。

 溢れ出す果汁が光の粒子となり、 聖域を黄金色に染めていく。 私はその一片を、戸惑う三人の 口元へと優しく届けた。


「みんなで、 分けよう。」


 私もまた、最後の一片を 自身の光の中に包み込んだ。 果肉が光子レベルで分解され、 私の核へと吸収されていく。


「…………っ!」


 その瞬間、脳裏に強烈な 感覚が奔った。 光の身体の内側で、一瞬だけ、 かつての「丸尾一(まるお かず)」としての 味覚が鮮明に蘇る。

 世界樹の精髄が持つ強大な 生命力は、一時的に私の魂を 「肉体」へと接続させたのだ。

 口の中に広がったのは、 コンビニの安っぽい甘味料ではない。 味の濃いソースで誤魔化した 半額弁当の記憶でもない。

 脳が震えるような、 圧倒的に瑞々しい甘み。 そして、鼻を抜ける 清涼な大地の香り。


「……あ、まい。」


「美味いな……これ。」


 ふと横を見ると、バラムが髭を 揺らし、 「……こりゃあ、酒より 五臓六腑に染みるぜ」 と相好を崩している。

 フィオナにいたっては、 銀色の尻尾を激しく振りながら、 溢れ出す涙を拭おうともせず 果実を噛みしめていた。

 味気ない都会の片隅で、 一人で食べていたあの夜とは違う。

 誰かと一つのものを分け、 「美味い」と言い合えることが、 こんなにも胸を熱くさせるなんて。

 それは味覚を取り戻した感動か。 それとも、ようやく誰かと 繋がれたという安堵からか。

 私は、消えかけの街灯の下で 死んだあの夜には 決して味わえなかった 「生きてる味」を、 大切に噛みしめていた。


「……さて。」


 私は、まだ核に残る甘みの余韻を 惜しみつつ、再び光の球体として 宙に浮いた。


「里の連中も、 待たせているからな。」


「ルミナ、バラム、 フィオナ。 帰ろう、俺たちの街へ。」


 エルフの里に再び光が戻り、 私の背後ではフィオナが必死に 「果実の等分割による エネルギー勾配の変化」について まくし立てている。


 その騒がしさが、今の私には 何よりも心地よい音楽に 聞こえていた。

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