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最強の光神(マロー)は、二度と夜を許さない。 〜絶望の淵にいた多種族を全員幸せにします。……でも、照れるとすぐ体がピンクに光るのは勘弁してください〜  作者: 稲盛 皆藤
【第三部:伝説編 ―不滅の光と真の救済―】

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第46話:古代竜国アルカイア

 ここは古代竜国アルカイア。

 世界の最果て、永久氷壁アイスバーグの地である。


 視界の全てを埋め尽くすのは、荒れ狂う純白のブリザード。

 この地においては、魔力(マナ)の粒子さえもが、熱を奪われて沈殿し、

時間の流れすら凍てついている。

 この極寒に耐えうる鱗を持つ竜人族の足跡さえ凍りつく、

 生命の鼓動を一切許さぬ、「絶対零度」の死の静寂であった。


「……寒い、な。」


 俺は、震える声で零した。

 骨の髄まで凍てつくような、この暴力的なまでの冷気。

それは俺にとって、単なる物理的な現象ではない。


 前世で、丸尾一(まるお かず)という男が、深夜残業の帰り道、

消えた街灯の下で孤独に死んだ夜。

 誰にも見つけられず、ただ体温だけが奪われていった、あの圧倒的な

絶望の記憶そのものだ。


 消えた街灯、凍えた指先、届かなかった助けの声。

 あの夜の「寒さ」が、いま目の前の吹雪と重なり、俺の魂を暗闇へ引き摺り

込もうとする。


「マロー様、お気を確かに!。」


 隣で、巴が俺を庇うように立つ。

 彼女は警備主任として、震える俺の盾になろうとしていた。


 だが、その彼女の吐息すらも、瞬時に白く凍りつき、砕け散っていくほどの極寒。


「この冷気、異常です。

 物理現象を超えています!。」


「マスターのバイタル、低下。

 深層心理の傷痕が、

 外部環境と共鳴しています。」

エレーナが冷徹に告げる。その瞳は、もはや騎士のそれではなく、

最優先保護対象の異常を検知した精密なセンサーのように、

マローの揺らぎを捉えていた。

 だが、その分析ですら、吹雪の咆哮に掻き消されそうだった。


「マロー様、お下がりを!。」

カイルが重厚な大剣を抜いた。


「我が神の歩みを止めるなど、

 この騎士道が許しはしない!。」


「防壁が凍りついていきます!。

 俺の建築術をもってしても、

 この冷気は防ぎきれません!。」

バラムが叫び、即席の障壁を築き上げるが、それすらも瞬時に砕け散る。


 彼の誇るドワーフの技術さえ、この地の絶望の前には無力だった。


「光の粒子が停止していますわ!。

 光科学の理論値を超えた、

 負のエネルギーです!。」

フィオナが観測器を抱え、焦燥の声を上げる。


「ああ、慈悲深き神よ……。

 どうか、あの方に、

 一筋の温もりを……!。」

ルミナが膝をつき、懸命に祈りを捧げる。


 俺たちの前には、アルカイアの守護神、最強の古龍がそびえ立っていた。

 それは絶望の化身。

 一切の対話を拒絶し、ただ世界を凍らせるためだけに存在する「終焉」の象徴。


「……グルルルォォォッ!。」

 咆哮が、大気を物理的に砕く。

 言葉の通じない絶対的な暴力。

 巴が必死に前に出るが、彼女の剣も、決死の言葉も、この凍てつく虚無には届かない。


(……駄目だ。寒い。)


 死の記憶が、俺の足を縫い留める。

 俺はまた、あの暗闇の中で独り、凍えて死ぬのだろうか。

 誰にも看取られず、冷たいアスファルトの上で――。


 その時だった。

『――おい、丸尾さんよ。』

不意に、俺の脳内通信に、サトシの呆れたような声が響いた。


「……サトシ?。」


 同じ頃、遥か遠く離れた世界最大の物流結節点――

天網商会(アマ・ゾーン)中央物流管理センター。

 そこには、かつての深夜バイト仲間のサトシが不敵な笑みを浮かべ、

巨大なコンソールの前に立っていた。


 その異常な現場対応力を買われ、いまやエリアマネージャーから、

世界の物流と情報を統べる管理センターの管理者(トップ)へと昇進した。

彼がこの異世界で培った権威は、もはや一国の王に匹敵する。


「全回線、強行接続。

 ジャック範囲は大陸全土。

 あの情けない神様の目を、

 強制的に覚まさせてやれ。」


「了解っす、管理者(トップ)!。

 物流網の帯域、

 全て通信に回します!。」


 サトシが直接鍛え上げた、「天網商会(アマ・ゾーン)」の若き精鋭たちが、

猛烈な速度で指を走らせる。

 彼らもまた、サトシを慕い、この世界のインフラを支える、新しい時代の

旗手たちだ。


「……よし、繋がったな。」

サトシは特注のマイクを握る。


 唯一、俺を「丸尾さん」と呼ぶ、前世からの、そして今世の腐れ縁。


『聞こえてるか、丸尾さん。』


 サトシの声は、俺の耳だけでなく、全大陸の広場、全ての端末に乗って、

高らかに響き渡った。


「な、なんだよ。

 いま、死ぬほど寒いんだ……。」


『なんだその、

 廃棄直前の弁当みたいな、

 しけた面はよ。』

その言葉は、かつての激闘で限界を迎えた俺を、容赦なく現実に引き戻した、

あの最低で最強の叱咤だった。


 さらにサトシは、天網商会(アマ・ゾーン)の管理権限をフル活用し、

信じられない「爆弾」を投下した。


『みんな、よく聞いてくれ!。

 あの光り輝く神様の正体はな!。』


「おい、サトシ、やめろ……!。」


『深夜のコンビニで、

 半額シールの弁当を、

 必死にレジへ運んでた、

 くたびれたおっさんなんだよ!。』


「なっ……お前、全世界で何を!。」


 俺の悲鳴は、非情にも全大陸へと拡散される。


『しかも、会計の時に、

 ポイントカードを出し忘れて、

 後ろの客に舌打ちされて、

 半泣きで謝ってたんだぜ!。』


「やめろぉぉぉっ!。

 サトシ、本気でやめろ!。」


『さらに、給湯室の隅っこで、

 「僕の心はルミナス」とか、

 キツいタイトルのポエムを、

 手帳に書き殴ってたんだ!。』


「死ぬ!。物理的な死より、

 社会的抹殺の方が痛い!。

 もう、俺を殺してくれぇ!。」


 全世界に響き渡る、俺の黒歴史。

 致死量を超える羞恥心が、凍りついた俺の魂に、爆発的な業火を灯した。


 その瞬間、俺の脳内に、世界の理を司る、荘厳にして無機質な声が響いた。


<< 告知。 >>

<< 個体名『マロー』。 >>

<< 許容量を圧倒的に上回る、 >>

<< 究極の羞恥エネルギーを観測。 >>

(羞恥エネルギーってなんだよ!。

 もっと高潔な神の力とかに、

 書き換えてくれよ!。)

<< 否定。 >>

<< 羞恥という名の人間性を、 >>

<< 至純なる聖属性へと完全変換。 >>

<< 最終進化条件を達成しました。 >>

<< 個体進化を強制開始します。 >>

 ドォォゴォォーン!。

 という無音の衝撃。


 俺の全身から、可視光線の全波長を網羅した白銀と、

濃密なピンク色のオーロラが、爆発的に溢れ出した。


 空をピンク色に染め上げる、圧倒的な多幸感と熱量の波動。

 それは見る者すべての、闘争心という概念を蒸発させ、ただ「愛おしい」という

感情を、魂に刻み込む、究極の光。


<< 進化、完了しました。 >>

<< 種族:『天冠無極光神』。 >>

<< (ルクス・エテルナ) >>

<< 特殊権能、 >>

<< 『至純の慈光ピュア・ハグ』 >>

<< ――を獲得しました。 >>

<< 称号:『寒夜の灯し火』。 >>

<< ――を獲得しました。 >>


(天冠無極光神……!。名前は最高にカッコいいのに、

 なんで『マロー・ピンク』の、光がさらに濃くなってるんだよ!。)


 光の中に現れた俺の姿は、三十センチの光球でありながら、より鮮明に、

マシュマロのように、『ぷるん』とした質感を帯びて、情けなくプルプルと

震えていた。


 宇宙の真理を体現する神々しさと、保護欲を極限まで掻き立てる、

究極の可愛さの融合。

 俺が呼吸するたび、周囲には淡い桜色の光子が舞い、凍てつく大地を春へと

変えていく。


 そのピンク色の絶対的な熱量が、最強の古龍を優しく包み込んだ。

言葉の通じない、古龍の荒ぶる精神世界。そこに、俺の魂が直接触れる。


(……寒かっただろう。独りで、この果てを、ずっと見守り続けるのは。)


 俺は『魂の回廊』を通じて、言葉ではなく、温もりを伝えた。


(俺もな、あの夜、独りで死んだからわかるんだ。

 冷たいのは、もう終わりにしよう。これからは、俺がそばにいる。)


 俺の放つピンク色の光は、威圧的な神の審判ではない。

 深夜のコンビニで、冷え切った手を温めてくれた、レジ横の肉まんのような。

 泥臭くて、どうしようもなく、嘘のない真実の温もりだった。


 古龍の瞳から、ポロポロと大粒の涙が零れ落ちる。

 絶対的な暴力の象徴が、たった一つの温もりに触れ、その魂が氷解していく。


「……グルォォォ……。」


 最強の古龍が、ピンク色に染まる俺の足元に、恭しく巨大な頭を横たえた。

 氷壁の影からは、祈るように姿を現した民たちの姿があった。


「マロー様、この龍に、

 新たな名と役割を……!。」

 巴が、熱烈な眼差しを向ける。

 俺はピンク色の光を明滅させ、龍の額に、静かに触れた。


「……お前の名は、ヴェルザード。

 この地の氷を溶かすのではなく、

 温かい冬を守る『白氷竜』だ。」


 その瞬間、俺が指を鳴らすと、白銀の虹から、数千通りの柔らかな、

音色(ねいろ)が、雪のように古龍へ降り注いだ。


 それはかつて、数千の魔物たちに、音楽用語(ダイナミクス)の名を冠し、

重複バグなく定義した、完璧な個体管理プロトコル。

 一頭の最強竜のためだけの、至高の交響曲シンフォニーが、

氷壁の地に鳴り響く。


「……ヴェルザード。

 強弱、速度、奏法、感情表現……。

 全ての音楽要素を内包した、

 完璧な名ですね。

 さすが、マロー様ですわ。」


 フィオナが、手元のデバイスに登録される、膨大な魔力波形を見て、

満足げに口角を上げた。


 その時、偵察に来た妖精たちが、俺の頭の周りを、羽音を響かせて飛び回る。


「わあ、

 大きいランプ!。

 とっても、明るいランプね!。」


「ランプ……。

 まあ、間違ってはいないけれど。」


 苦笑いしながら肩をすくめた。

 神としての威厳は、このピンクの光のせいで、どこかへ消え去っていた。


(人は一人である。けれど、灯りに集まる虫のように、

  誰かの熱を求めて、隣に座ることはできる。)


 それは、静かで、けれど逃れがたい、命と命の連帯の肯定だった。


「救っていただいたこの命。

 『ルミナス・マロー・ガイア共栄国』のために、

 すべてを捧げます。」


 アルカイアの民が、規律正しく、深く跪いた。


「マロー様。」


 巴が、俺の裾をきゅっと掴んだ。

 その頬は、俺の光に照らされて赤らんでいる。


「その……ピンク色のお姿。

 とても、可愛らしいです。

 もう、どこへも行かないで……。」


「……からかうな、巴。」


 俺は、七色に光り始めた自分を、涙目で激しく後悔した。


『ははっ、いいツラだぜ店長。

 流石天網商会(アマ・ゾーン)の回線だ。

 バッチリ全世界に届いたぞ。』


 通信の向こうで、サトシがニヤリと笑う。


「……覚えておけよ、サトシ君。」

俺はたっぷりと含みを持たせ、執念と情愛を込めて名を呼んだ。


「あとで、たっぷりお礼するよ。」


 孤独な死の記憶は、もうない。

 隣には俺を信じる巴がいて、見上げる空には、俺が名付けた白氷竜が舞っている。


 夜を許さない最強の光神は、羞恥に身を焼きながらも、この極寒の地を、

確かな温もりで満たしていった。

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