表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の光神(マロー)は、二度と夜を許さない。 〜絶望の淵にいた多種族を全員幸せにします。……でも、照れるとすぐ体がピンクに光るのは勘弁してください〜  作者: 稲盛 皆藤
【第三部:伝説編 ―不滅の光と真の救済―】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/48

第45話:天空都市セレスティア

 白亜の塔が雲海を突き抜け、どこまでも冷たい虚空へと伸びる。


 天空都市セレスティア。


 ここは大陸の情報を一手に担う、魔導演算の巨大な心臓部だ。

 相対性理論に基づき、空間の歪みさえも浮力に変える。


 あまりにも高度な魔法科学が、地上の喧騒を「誤差」として切り捨て、

絶対的な静寂を作り出していた。


 俺の隣で、巴が跪いている。

 その指先は、血を洗っても落ちぬ罪の記憶にかすかに震えていた。

 だが、その瞳に宿っているのは、改心した者の輝きではない。


「……マロー様。

 何故、私を殺さないのですか。」


 巴の声は、極地の氷壁のように冷え切っていた。

 しおらしいのではない。

 彼女は、自分という個体を「修復不能」と定義づけ、ただ廃棄(死)を

待っている。

 それは、神聖ローデリア教国というシステムに魂を最適化しすぎた、

壊れた部品の最期に似ていた。


「教義を裏切り、主君を、同胞を手にかけた。

 そんな不良品を側に置くなど、

 貴方様の光を汚すだけです。」


 巴の言葉には、一ミリの慈悲も、自分への甘えもなかった。

彼女は今もなお、教国のロジックで、自分の心を斬り続けている。


 その時、空間を焼き切るような高熱を伴い、フィオナの周囲に、

無数の光ファイバーが展開された。


「……不良品。

 その言葉は、

 こちらのセリフですわ。」


 フィオナの指先が、セレスティアのメインサーバー……世界の「ソースコード」

へと、光速のハッキングを開始する。


「マロー様。

 神聖ローデリア教国のデータベースを、

 完全に掌握いたしました。

 巴殿、貴女が後生大事に守り、

 貴女を縛り続けてきた、

 その教義の正体をご覧なさい。」


 空中に出現したモニターに、膨大なログが滝のように流れる。

それは神の言葉などではない。


「これは……高次元存在による、

 初期設定の書き換えログです。

 教義とは、観測エラーを正当化するために

 後付けされた、ただの不完全なパッチ。

 システムの不具合を神の意志と呼んでいるに、

 過ぎないのです。」

フィオナの冷徹な指摘。


 巴の瞳に、激しい困惑と、それを拒絶するような恐怖が走る。

 人生を捧げてきた信条が、単なる「バグ」だと突きつけられた人間の、

根源的な拒絶反応だ。


「……嘘だ。

 私のしてきたことは、

 あの苦しみは、

 ただの不具合だと言うのか!。」


「そうです。

 教国は、仕様書さえまともに読めない

 無能なエンジニアの集団ですわ。

 貴女はその被害者に過ぎない。」


 フィオナは残酷なまでに、巴の拠り所を根こそぎ奪っていく。

絶望に崩れ落ちそうになる巴。


 俺は、三十センチの光球として、彼女の視線の先へと浮かび上がった。


 サラリーマン時代、「もう無理です」と泣く部下を、何度も見てきた。

そして、無茶な仕様変更で現場を壊す、上層部の無能さも。


「……フィオナ。

 セレスティアの全広報回線を、

 大陸全土へ解放しろ。

 教国の本部に、直通のチャンネルを繋ぐんだ。」


「承知いたしました、マイマスター。

 全光学プリズム、強制開放。」


 天空都市の巨大な結晶が、俺の姿を、数千メートル級のホログラムとして

大空へと投影した。


 その輝きは、遥か彼方のドラゴニアにも届く。

 隠れ住む古龍たちが、俺の中に眠る「帝」の覚醒を感じ取り、

本能的な畏怖を込めて、一斉に首をもたげた。


 俺は神聖ローデリア教国の本部、そして大陸のすべての人々へ、

腹の底からの宣告を放つ。


「神聖ローデリア教国。

 お前たちが神託と称して

 現場に押し付けてきた仕様書は、

 あまりにバグが多すぎる。

 論理破綻したゴミ同然だ。」


 全大陸に、俺の「現場責任者」としての怒声が響き渡る。


「そんな欠陥品システムで、

 俺の部下を……巴を、

 勝手に不良品扱いするな。

 ――検収不合格だ。

 全面的なやり直しを命じる。」


 神の裁きなどではない。

 不当な労働環境(世界)に対する、サラリーマンの魂を込めた、

最大級の「リテイク」の突き返し。


 だが、その熱い瞬間に、セレスティアの下層……

極彩色の楽園エデンから、下世話な歓声が湧き上がった。


「マロー様!。

 上空からのパワハラ宣告、

 最高にエモいですわー!。」


「隠し撮り生中継、

 同時接続数が大陸人口を超えました!。

 神のガチギレ、大バズりです!。」


 エデンの住人たちが、光子カメラを俺に向けている。

 画面の端には、【最強の光神・ドヤ顔宣告なう】という最悪なテロップ。


 さらに、不在のはずのサトシから、割り込み通信が入った。


『……よお、マローの神様。

 いい顔してるじゃない。

 今の宣告、共栄圏のプロモーションに、

 逆利用させてもらったよ。』


 サトシは、物流会議の合間に、ニヤニヤと端末を叩いている。


 彼は、俺が恥をかくことを確信した上で、教国の嘘を暴くための

「限定公開」のスクープとして、この配信を世界にバラ撒いたのだ。


「サトシ……お前、

 マローって呼ぶ時は……

 ロクなこと考えてないだろ!。」


『感謝しろよ。

 これで教国の求心力はゼロだ。

 あんたの人間臭いドヤ顔が、

 一番の説得力なんだからさ。』


 全世界に、見られている。

 俺がカッコよく決めたつもりで、実はサトシにハメられていた滑稽な姿が、

リアルタイムで中継されている。


(……うわああああああ!。死ぬ!。恥ずかしさで、蒸発してしまいそうだ!。)


 前世で、深夜に書いた「仕事の美学」が、翌朝の朝礼で音読された時のような……。


 致死量を超える羞恥心が、俺の心をズタズタにする。


「品がない……。

 本当に、恥ずかしい……!。

 検収不合格なんて……

 何言ってるんだ、俺は……!。」


 俺の肉体から、制御不能なピンク色の光が、暴力的なまでに溢れ出した。

 だが、その「羞恥」こそが、光科学が到達し得なかった、

究極の感情エネルギー変換。


 恥ずかしさにのたうち回るほど、光子加速は次元を超え、

俺の光は『白銀の虹』へと昇華していく。


「素晴らしいわ、マロー様!。

 羞恥心によって、相対性理論が、

 愛おしいほどに崩壊していく!。」

通信越しに響く、フィオナの科学的絶賛が、さらに俺の羞恥心を抉る。


 その、あまりにも情けなく、あまりにも真摯で温かい、「恥の虹」の光が、

巴の全身を優しく貫いた。


 巴の心に、呪いのようにこびりついていた、教国のロジック。

 自分を罰しようとする、冷たく尖った心の氷が、俺の「情けない発光」に触れ、

ドロドロに溶け出していく。


「……ふっ、ふふっ……。」


 巴の唇から、乾いた、けれど柔らかな笑いが、こぼれ落ちた。

泣きながら笑う彼女の姿は、壊れた人形ではなく、血の通った一人の女性のものだった。


「……マロー様。

 貴方様は、本当に……。

 格好良くて、

 最高に、格好悪い方ですね。」

巴が、初めて自分の意志で、俺を見上げた。


 彼女の壊れていた心が、「全修」された瞬間。

 俺はピンク色に明滅し、涙目で彼女に手を差し出す。


「巴。

 教国の道具(不良品)など、

 もう辞めてしまえ。

 君を、『ルミナス・マロー・ガイア共栄国』の、

 警備主任に任命する。

 ……ホワイトな職場環境は、保証する。」


「……はい、主君。

 この、拾っていただいた命。

 貴方様の光のために。

 そして、貴方様がこれ以上、

 恥をかかないために、

 この盾を捧げます。」

巴は、主君をからかうような悪戯っぽい笑みを浮かべ、新たな騎士の誓いを立てた。


 天空都市セレスティアに、ピンクがかった虹が架かる。


 サトシが構築するインフラを通じ、この光は、孤独な夜に震えるすべての人々へ、

温かな予感として届いていく。


 孤独な死を遂げた俺には、まだ、わからない。

 この「恥ずかしい虹」が、やがて大陸から全ての夜を消し、誰もが温かいおでんを

囲める、優しい世界への第一歩になることを。


 ただ、巴の横顔が、かつての氷のような冷たさを失い、春の陽だまりのように

綻んだこと。

 それだけで、今日のリテイク(戦い)には、十分な価値があったのだ。

もしよろしければブックマークや評価☆☆☆☆☆などで応援をお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ