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最強の光神(マロー)は、二度と夜を許さない。 〜絶望の淵にいた多種族を全員幸せにします。……でも、照れるとすぐ体がピンクに光るのは勘弁してください〜  作者: 稲盛 皆藤
【第三部:伝説編 ―不滅の光と真の救済―】

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第44話:自由商業都市ベネト

 蒼海諸島連合に建設された海のテーマパークは、順調な立ち上げが見込まれていた。

それは俺が、前世の記憶を頼りに魔法科学の粋を集めて作り上げた、光と水の

ユートピアだ。


 夜の海を虹色に染め上げる水中ライトアップ。

 魚たちと光がダンスを踊るような幻想的なアトラクション。

 まるで、かつて日本で経験したクリスマスとお正月が、同時にやってきたような

祝祭だった。


 多種族の子供たちが、見たこともない「光のアイス」を手に取り、目を輝かせる。

それを見守る親たちの笑顔。


(……ああ、俺が作りたかったのは、こういう光景だったんだ。)


 そう確信した瞬間だった。

 最高に浮かれたその祝祭は、一瞬にして凍り付いた。


 水平線を切り裂いて現れたのは、神聖ローデリア教国の異端審問戦艦『ゴルゴタ』。

そして、その甲板から放たれたのは、かつての同胞である巴を、「異端」として

切り捨てるための、無慈悲な『絶対切断』の閃光だった。


 俺が築いた光のネットワークは、暴力的な魔力によって物理的に断ち切られ、

テーマパークの輝きは次々と闇に飲み込まれていく。


「……マドウ、ギセ。

 ウラギリ、ショケイ。

 トモエ、ムヨウ。」


 甲板から降り立った執行騎士たちを冷徹に率いるのは、異端審問官ノヴァクスだった。

彼は巴を「神の道具」としてではなく、役目を終えて汚れた「廃棄物」として、

冷酷に処理しようとしていた。


 あの死闘を経て、俺と和解し、光の共栄圏に身を寄せようとしていた巴に対し、

教国は「死」という名の理不尽な圧力を叩きつける。


(……この子も、俺と同じだ。期待され、利用され、用が済めば、

  ゴミのように捨てられるんだ……。)


 巴を狙う教国の刃を見た瞬間、俺の心臓を、あの孤独死の夜の寒さが、

暴力的に鷲掴みにした。


 誰にも見つけられず、消えた街灯の下で息絶えた、あの救いのない虚無感。

俺の膝が、ガクガクと震え出す。


 第六段階『至純光帝ルミナス・カイザー』の威光が、精神の動揺に

引きずられるように、弱々しく明滅を繰り返した。


「マロー様!。

 お下がりください!。

 ここは私たちが……っ!。」


 カイルとエレーナが前に出るが、ノヴァクスの放つ「負の波動」が、

二人の光を無慈悲に削り取る。


 最強を誇った眷属たちが、ただの「障害物」として、次々と弾き飛ばされていった。


 海上の戦端から逃れるように、俺たちは一時的に、同盟国の経済の心臓部である

『自由商業都市ベネト』へと、後退を余儀なくされた。


 そこは、運河が縦横に走り、無数の光ファイバーが石畳の底を流れる、

俺が最も愛した「光の街」だ。


 しかし、今の俺の目には、その美しいベネトの街並みさえも、冷たいモノクロームの、

廃墟のように映っていた。

 ノヴァクスたちはベネトの広場まで俺たちを追い詰め、傲慢な言葉の暴力を、

さらに重ねて叩きつけた。


「静まれい!。

 巴という不良品を、回収しに来た!。

 マローとやら!。

 貴公の放つその不浄な光は、

 我が神聖ローデリア教国の

 特許技術の盗用である!。

 今すぐ全ての権利を放棄し、

 地下牢にて終身、

 光を供給する電池となれ!。」


 それは、あまりにも理不尽な、一方的な「要求クレーム」だった。


 神聖ローデリア教国という巨大な組織が、弱者を一方的に蹂躙するための、

卑劣な、だが絶対的な圧力。

 前世のブラック企業で、身勝手な上司と、理不尽な顧客の板挟みに遭い、

魂の欠片まで摩耗していた頃の記憶が、濁流となって俺の精神を襲う。


(……ダメだ。俺じゃ、彼女を救えないし、この理不尽を跳ね除けられない。

  俺なんて、ただの、『死に損ないのサラリーマン』だ。

 神様なんて、俺には荷が重すぎたんだ……。)


 ベネトの運河に反射する光が、遠い過去の、灰色の残業風景と重なって消えていく。

 

 絶望が俺を完全に、飲み込もうとした、その時だった。


「……おいおい、丸尾さん。

 何そんな『廃棄弁当以下の顔』して、

 座り込んでんだよ。

 見てるこっちが、

 吐きそうになるぜ。」


 殺伐とした広場の喧騒を、場違いなほど「だるそう」な、だが、誰よりも聞き慣れた、

安心する声が切り裂いた。

 ベネトの古びた時計塔の影から、一人の男がフラリと歩み出る。

色褪せたコンビニの制服。

 いつものようにボタンを掛け違え、片手には「半額シール」の貼られた、

安っぽいビニール袋を提げている。


「サ、サトシ……?。」


「神様が聞いて呆れるな。

 あんたが絶望していいのは、

 新商品の発注数を、

 一桁間違えた時だけだろ。」


 サトシは刺客たちの殺気も、戦艦の砲門も完全に無視して、俺の隣にドカッと

座り込んだ。

 ベネトの賑やかな商いの音さえも、彼の前では日常のBGMに過ぎない。


 だが、その男の登場に、誰よりも激しく動揺したのは、捕らえられていた巴だった。


「……マルオ、サン……?。

 それは、呪言では……。

 ただの、名前……?。」

巴は信じられないものを見るように、俺とサトシを交互に見つめた。


 教国から「世界を滅ぼす、悪魔の呪言」として教え込まれ、忌み嫌い、恐れていた

言葉。

 それが、ただ一人の人間を、「相棒」として呼ぶための、温かく、ありふれた

名前に過ぎなかったという、あまりに純粋な真実。

 彼女を縛っていた、「神の道具」としての価値観が、音を立てて崩れ去っていく。


 サトシの投げやりな呼びかけは、巴にとっても「道具」から、「一人の人間」

へと戻るための、最強の救済となったのだ。


 サトシは袋から、少し潰れた弁当を取り出した。

 そして、割り箸をパチンと、小気味よい音を立てて割る。


「ほら、食え。

 あんたが今やるべき『業務』は、

 泣き言を並べることじゃない。

 こいつを腹に詰め込んで、

 さっさとシフトに戻ることだ。」

差し出されたのは、あの安っぽい醤油の香りがする、鶏そぼろ弁当だった。


 神の肉体は、本来、食事を必要としない。

 だが、俺は無意識に魔力を霧散させ、30センチの光球から国民的ゲームの美少年の

人型の姿へと、その姿を実体化させていた。


 震える手でそれを受け取り、一口、口に運んだ。

 喉が詰まる。

 鼻の奥がツンとする。

 けれど、そのジャンクな味が、俺の「人間としての心」に、強烈な熱を灯した。


「……う、美味い……っ。

 美味いよ、サトシ……!。」


「当たり前だ。

 俺が厳選した『廃棄』だからな。

 ……いいか、丸尾さん。

 あんたを神と崇める奴は多いが、

 俺にとっては、

 深夜のワンオペを共に戦った、

 ただの頼りない相棒だ。」

サトシの言葉が、俺の内側で、魔導科学と相対性理論を強引に、かつ完璧に融解させた。


 羞恥心なんて、もうどうでもいい。

 誰かと繋がっているという、泥臭くも温かい「信頼」のエネルギー。

 それが、俺の体を包む光子を、限界を超えて加速させる最高の燃料になった。


「……分かったよ、サトシ。」


 俺は、ベネトの広場で立ち上がった。

 だが、まだ神の姿には戻らない。

 まずは、巴を「廃棄物」扱いした、あの「クレーマー」たちを、

現場責任者として、完璧に片付ける。


「……あ、貴様ら!。

 不気味な呪言を吐きおって!。

 早くその男もろとも、

 裏切り者の巴を処分しろ!。」


 審問官ノヴァクスが、三叉の杖を振り上げた。

 三叉の杖。それは神聖ローデリア教国において「過去・現在・未来」の全てを

裁く権限を意味する、呪物に近い法具である。

 その三本の爪は、対象の魔力を物理的に引き裂き、強制的に沈黙させる機能を

持っていた。


 その次の瞬間、俺は『光子加速』を用い、物理法則を無視した速度で、

彼の至近距離まで詰め寄った。


「ッ!?。な、何を……。」


 俺は、前世で培った、

『完璧な接客角度(分離礼、最敬礼角度45度)』で、深く、深く、頭を下げた。


「……この度は、弊国の、

 光インフラが貴国様の、

 琴線に触れましたこと、

 心よりお詫び申し上げます。」


「な、何だ!?。

 急に低姿勢になりおって……。」


「つきましては、ご指摘の『特許侵害』の件ですが、

 弊国の光子定着技術は、熱力学第二法則に基づいた、

 独自実装でございまして。

 貴国様の術式とは、APIの仕様からして、

 根本的に異なります。

 法務……ではなく、賢者フィオナを通じ、

 詳細な技術仕様書を、十分以内に送付いたします。」


 俺の声は、もはや神の宣告ではなく、何万件もの悪質なクレームを

捌き続けてきた、「ベテランの店長」のそれだった。


 ノヴァクスが何か言おうとする度に、俺は超高速で先回りし、

「不備への謝罪」と、「代替案の提示」を、マシンガンのように浴びせかける。


「あ、いや、しかし、

 電池としての義務が……。」


「あいにく、弊社……いえ、

 弊国はホワイトな労働環境を、

 モットーとしております。

 強制労働という非効率な外注は、

 コンプライアンス的に、

 検収不合格。

 お取引不成立とさせて頂きます。」


 俺の放つ「完璧な接客(分からせ)」に、聖騎士たちは、見たこともない

化け物を見るような目で、一歩、また一歩と後退りした。

 暴力でも魔法でもない、理屈を超えた「対応力」の前に、彼らの傲慢なプライドが、

音を立てて崩れ去っていく。


「……ば、化け物め……。

 引け!。一度撤退だ!。」


 ノヴァクスたちは俺の気迫に押され、クモの子を散らすように逃げ帰る。

静寂が戻った海面で、俺は呆然と立ち尽くす巴に、静かに歩み寄った。


 俺の腕が、淡い桃色に発光する。

 それは羞恥心の発露であり、魂からの、嘘のない慈愛の輝きだ。


「巴君。

 君の苦しみも、先代の無念も、

 全部俺が『検収』する。

 だから……もう、

 独りで戦わなくていいんだ。」


 巴の瞳から、ついに大粒の涙が溢れた。

 一人の人間として、彼女の孤独を受け入れる。

 俺の白銀の光が、彼女を縛る凍てついた鎖を、優しく、溶かしていった。


「ふふ……頼むよ、サトシ君。

 これからの共栄圏の物流、

 君の『棚割り』に、

 全てを任せたいんだ。」


「……ちっ。

 調子のいい店長様だ。

 いいぜ、その代わり、

 俺の残業代は、

 高くつくから覚悟しとけよ。」


 サトシはニヤリと笑い、空になった弁当の容器を、器用にゴミ箱へ放り投げた。


 俺たちは、自由商業都市ベネトの街に差し込む、暖かな朝陽を眺めていた。


 それは、偽りの神としてではなく、一人の「人間」として勝ち取った、

初めての夜明けだった。

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