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最強の光神(マロー)は、二度と夜を許さない。 〜絶望の淵にいた多種族を全員幸せにします。……でも、照れるとすぐ体がピンクに光るのは勘弁してください〜  作者: 稲盛 皆藤
【第三部:伝説編 ―不滅の光と真の救済―】

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第41話:静謐なる森のエルフ領

またまた気合が入ってしましました。

2話分あるので、お時間のある時にお楽しみ下さいませ。

 エルフの森の空気は、肺の奥まで緑色に染め上げてしまいそうなほど

に濃く、そして湿っていた。


 木々の隙間からこぼれる陽光は、俺の「光科学」で解析するまでも

なく、ただそこにあるだけの、無垢な物理現象として完結している。


 ルミナス・マロー・ガイア共栄国の主として、俺は今、この深い

沈黙の中に立っていた。


「……マロー様。どうかされましたか。

 足元のシダが、あなたの輝きに

 驚いているようです。」


 隣を歩くルミナが、鈴の鳴るような声で俺を呼ぶ。

 彼女はこの国の精神的支柱だ。

 多忙を極める建国業務の中で、「人間」としての心を擦り減らして

いく俺を、エルフの慈愛で包み込んでくれる唯一の存在。


「いや、少し考え事をね。」


「考え事?……神様も、悩み事を

 なさるのですね。」


 ルミナの問いに、俺は答えに窮した。

彼女たちの瞳に映る俺は、全波長の光を統べる全知全能の存在だ。

 けれど、この『神』という外装を一枚剥げば、そこにあるのは

深夜のコンビニで弁当の温め時間を待つ、ただの男の残滓だ。

 その乖離が、時折、砂を噛むようなザラついた違和感として、

俺の胸を通り過ぎる。


 特に、あの、(ともえ)との邂逅以来、その孤独は底なしの深淵

となって俺を苛んでいた。

 神聖ローデリア教国、通称聖教国の最高位執行騎士。

黒髪を結い上げた、凛とした佇まいの彼女の名を初めて耳にした時、

俺はどれほど胸を高鳴らせただろうか。


 (ともえ)。それは紛れもなく、俺の故郷の言葉だ。

彼女こそが、サトシ以外でこの孤独な異界に現れた同郷の日本を知る

理解者であるのでは?。同時に俺が前世で知っていた、あの(ともえ)

ないことを願う気持ちも確かに同居していた。

 だが、現実は残酷だった。


 先日、あの、石畳の上で対峙した彼女に、俺は震える声で日本語

を投げかけた。

「君も、日本人なのか?」と。

 返ってきたのは、言葉ではなく、光を断ち切る冷徹な刃と、

「魔道の呪言を吐く偽神め」という、氷のような拒絶。


 彼女は生粋の異世界人であり、その名は数百年前の『先代勇者』から

受け継がれただけの、空虚な記号に過ぎなかったのだ。


 この世界に、俺の言葉が届く相手にはまだ出会えていない。

サトシという例外を除けば、俺は永遠の異邦人だ。

 そんな絶望が、俺の光を内側から食い破ろうとする。


「悩みというよりは……。

 そうだな。ピントが合わない

 カメラのような、もどかしさだよ。」


「かめら。……また、マロー様の

 故郷の難しいお話ですね。」


 ルミナは分かったような、分からないような顔をして、

ただ穏やかに微笑んだ。


 エルフ領の境界を越えた先には、『深緑の迷宮国フォレスト』という

名の、出口のない樹海が広がっている。

 そこは、生きた森が意思を持ち、迷い込んだ者の方向感覚という概念

そのものを食い潰す場所だ。

 ふと、森の奥から、湿った風に乗って微かな、けれど鋭い震えが届い

た。それは音というよりも、空間の密度が不自然に歪んだ時に生じる、

光子の乱れだ。


 俺は、意識を『至純光帝(ルミナス・カイザー)』の位階へと、

静かにシフトさせる。


「ルミナ、下がって。

 フォレストの迷宮が、こちら側に

 滲み出してきている。」


 俺の言葉が終わるより先に、森の色彩が反転した。

鮮やかだった緑はどす黒く変色し、視界を覆う霧が、物理的な質量を

持って肌にまとわりつく。

 隣接する『フォレスト』から溢れ出した魔力的迷彩――。

それは、エルフの幼い子供たちを、その深淵へと引きずり込もうとする

巨大な(あぎと)のようだった。


「あ……。あそこに、子供たちが。」


 ルミナが指差す先、霧の向こうに、小さな影がいくつか見えた。

彼らは、自分がどこにいるのかも分からず、ただ、親の温もりを

探すように、頼りなく手を伸ばしている。

 その姿に、あの夜の自分の記憶が重なった。

巴に拒絶され、孤独を再確認した今の俺にとって、その切実な

渇望はより一層激しく胸を焦がす。


「見つけてあげるよ。

 ……二度と、夜の中で

 迷わなくて済むように。」


 俺は、右手を空へと掲げた。

それは攻撃のための光ではない。

 ただ、そこに『道』があることを示すためだけの、純粋な可視光線の

増幅。羞恥エネルギーを燃料に変え、光子を直線状に加速させる。


 フィオナが理論化した、相対性理論と魔法を混合させた未知の

魔導科学。「全波長発光」――。

 だが、今のそれは、七色に騒がしく輝くものではなく、どこまでも

透き通った、白銀の糸のような輝きだった。


 光の柱が、フォレストの闇を鋭く切り裂く。

 霧は蒸発し、迷宮の意思が悲鳴を上げて後退する。

 子供たちの足元に、温かな、陽だまりのような道が真っ直ぐに

伸びていった。


「こっちだよ。」


 俺の声は、森全体の空気を震わせ、子供たちの鼓膜に直接届けられた。

光の道標を辿り、一人、また一人と、エルフの幼子たちが、暗闇の淵

から這い出してくる。

 彼らが俺の元に辿り着いた時、その瞳に宿っていたのは、恐怖では

なく、言葉にできないほどの法悦だった。


「ひかりの……かみさま……っ。」


 一人の少年が、喘ぐようにそう呟き、俺の裾をギュッと掴んだ。

その指の震えが、俺の掌に、生々しい命の温度を伝えてくる。


(ああ、まただ。また俺は、彼らにとっての『神様』になってしまった。)


 ただ、寂しかっただけなのだ。

誰かに自分の存在を、その光を、証明して欲しかっただけなのに。


「マロー様、見てください。

 世界樹が……。

 あなたの光を吸い込んで、

 歌っています。」


 ルミナの言う通り、枯れかけていた巨大な世界樹が、俺の放った

光子の余波を受けて、瑞々しい輝きを取り戻していた。

 可視光線の増幅が、植物の細胞を活性化させ、死にゆく森を蘇生

させていく。それは美しい光景だった。


 けれど、俺の心は、どこまでも凪いでいた。

光に満ちた世界で、俺だけが、自分自身の光によって作られた影の中に座

り込んでいるような孤独。


「素晴らしい……。

 これほどまでの純粋な光を

 放つお方は、エルフの悠久の

 歴史の中でも類を見ませぬ。」


 森の奥から、静かな、けれど圧倒的な威厳を湛えた声が響いた。

現れたのは、黄金の糸で刺繍された法衣を纏う、見目麗しい女性。

 だが、その瞳に宿る知性は数千年の時を物語っている。

万国諸王会議:主要12カ国の王の中でも、最も古く、最も偉大

とされるエルフの長――『長耳様』と皆に慕われる、その人であった。


「長耳様……。マロー様の光が、

 フォレストの侵蝕を押し返したのです。」


 ルミナが膝を突き、長耳様もまた、俺に向けて深く優雅な礼を捧げた。


至純光帝(ルミナス・カイザー)マロー様。

 我らエルフの森は、貴殿を『全き友』として

 歓迎いたします。

 ……そして、貴殿らが望まれた『新しい風』も、

 既に受け入れておりますよ。」


 長耳様が指し示した先。

 世界樹の広大な根元、かつては静寂だけが支配していた聖域に、

およそこの世界には不釣り合いな「明かり」が灯っていた。

 それは、景観に配慮したログハウス風の外装でありながら、全面が

透明度の高い魔導ガラスで覆われた店舗。

 軒先には、見覚えのある三色の看板を模した紋章が、俺の魔力を動

力源とした魔導光で淡く輝いている。

 『サンチェー・マート エルフの森・第1号店』。

 唖然とする俺の前に、一人のエルフの少女が駆け寄ってきた。

緑色のエプロンを身に付け、髪をポニーテールに結った、活発そうな

少女だ。

「マロー先輩! いらっしゃいませーっ!

 ただいま、揚げ物全品20%引き

 セール開催中でーす!。」


「……あ、私、ここでバイトリーダーを

 任されてるエルナです!

 エリアマネージャーから

 マロー先輩のお話はいつも

 伺っておりました。

 どうぞよろしくお願いしますっす!。」


 「......あっ、サトシ君からかぁ。

  一体何を吹き込んでんだか、

  まあ、先輩には違いないか、な?。

  そういうことで

  エルナさん頑張ってね。」


 「あっ、ありがとうございます。

  どうぞごゆっくりお買い回り

  下さいませー。」


 バイト。エルフ。揚げ物割引。

 あまりにも前世的で、けれど徹底的に「今」を生きる熱量。

 長耳様が微笑む。


「サトシ殿というお方が、

 先日こちらにいらしてね。

『神様を支えるには、胃袋と利便性

 を押さえるのが一番だ』と仰って、

 あっという間にこの『こんびに』を

 作り上げていかれました。

 今では若者たちの憧れの職場ですよ。」


 あの男、食えないやつだ全く。

 しばらく顔を見せないと思っていたら、既に俺の孤独の先回りをし、

退路を断つように「日常」を植え付けていたのだ。


「サトシ君……。本当に、

 君という人は。」


 俺は、前世で流し見していたテレビから漏れ聞こえる、

悪だくみをするお代官様と悪徳商人の「お主も悪よのー。」の一説を

思い出しながら、不在の相棒の名を呟いた。

 まあ決して悪いことをしているのではないのだが。


 その瞬間、俺の背後から次々と聞き慣れた足音が近づいてくる。

 フォトニック エクスプレス999号が走り去る音が微かに聞こえた。


「マロー様! ご無事で何よりです!。」


 声を上げたのはカイルだ。治安維持の要として、既に周辺の警戒を

終えたらしい。

 傍らには、彼の師であるオーウェンが、静かに影を潜めている。


「ふむ、光科学による植物細胞の

 活性化……。マロー様の理論は、

 やはり次元が違います。」


 眼鏡を押し上げたのはフィオナだ。

 彼女は既に店舗の魔導棚を観察し、効率的な魔力供給について

ブツブツ呟きながら計算を始めている。


「マロー様! 世界樹の根元に、

 2×4住宅の量産拠点を

 計画しましょう!

  資材の調達は済んでいます!。」

バラムが鼻息を荒くして図面を広げる。


 その隣では、白狐のハクが用意した重箱を掲げた。


「マローさま! これ、ハクが企画して

 作った『こんびに弁当』っす!

  じょうゆ味、たっぷりっす!。」


 セレナは、神聖な祈りを捧げるように両手を胸の前で固く組みながら、

分厚い革張りの手帳に羽ペンを走らせていた。

 至純光帝が「こんびに」の弁当を前にして見せる人間らしい表情を、

広報の仕事として、恍惚とした顔で書き留めている。


 専属従者のメイは、エプロンの裾を気立たしげに握りしめ、

「神としての食生活の乱れ」について小言を言うべく、早くも説教の

準備を始めている。彼女にとって、マロー様の健康管理は信仰よりも

重い使命なのだ。


 そしてアイリスは、カチャリと銀色の懐中時計を閉じ、全てが計算

通りだとばかりに静かに頷いた。


 サトシが仕掛けたこの「日常」が、マロー様の擦り減った精神を回復

させる、最も正確で効率的な処方箋であると、彼女の頭脳は弾き出して

いたのである。


 誰も、俺を「遠い神」として敬遠していない。

 誰も、俺を「孤独のまま」にしておいてはくれない。


「マロー様、お顔が赤いです。……

 また、そんなに照れて。」


 ルミナが顔を覗き込んできた。

 子供たちに「キラキラしてて綺麗」「あったかい」などと無垢な瞳で

囲まれ、エルナたちバイト店員から


「先輩、あ、神様、これまかないっす!」

と賞味期限の近い(けれど美味しい)おにぎりを差し出され――。


 俺の中の人間性が、猛烈に悲鳴を上げた。


「……っ、いや、これは、

 ただのエネルギー循環で……。」


 弁解も虚しく、俺の身体は繊細なオーロラのような、逃げ出したくな

るほど鮮やかなピンク色にポッと発光してしまう。


「マロー様……っ。

 なんて尊い、

 慈愛のピンク光……。」


 子供たちも、長耳様も、うっとりとそのピンク色の光に跪いた。


 違うんだ。これはただの羞恥心なんだ。

俺の心に蠢く孤独感、それが、サトシが残したこの「がさつで温かな日常」

によって、音を立てて溶かされていく。


(……ああ。助かった。)


 もし彼女が、日本語の通じる「(ともえ)」であったなら。

俺はこれほどまでに、この騒がしい仲間たちの声に救われなかった

かもしれない。

 孤独な死を迎えたあの日。消えた街灯の下で俺が最後に見たのは、

果てしない闇だった。

 けれど、今は違う。こんなにも多くの笑顔がある。


「……ありがとう、みんな。」


 俺は、そっと肩の力を抜いた。

ピンク色の輝きは、穏やかな陽だまりのような色に落ち着いていく。


 エルフの森に、再び静寂が戻ってくる。けれど、もうそれは以前の

沈黙ではなかった。

 マローという光を知ってしまった、熱を帯びた、新しい夜の始まり

だった。

 俺は仲間たちと共に、エルフの少女が差し出す「まかない」の

おにぎりを頬張りながら、眩い未来へと足を踏み出した。

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