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最強の光神(マロー)は、二度と夜を許さない。 〜絶望の淵にいた多種族を全員幸せにします。……でも、照れるとすぐ体がピンクに光るのは勘弁してください〜  作者: 稲盛 皆藤
【第三部:伝説編 ―不滅の光と真の救済―】

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第40話:獣王開拓領フィング

 機巧都市ギルバートを解放し、塔の「棚割り」をサトシに任せてから数日。


 俺たちが次に向かったのは、大陸南西に広がる荒野と巨岩の地——

『獣王開拓領フィング』だった。


 ここは、力こそが正義とされる獣人たちの楽園。

だが、その実態は、急激な人口増加に伴う深刻な食糧不足と、原始的な

物資配分による物流の停滞に喘いでいた。


「……暑いですね。マロー様、

 この地の砂塵はエルフの肌には

 少々刺激が強すぎます。」

ルミナが、魔法で生み出した微かな清涼の風を纏い、困ったように

細い眉を寄せた。


 俺は、人の形を維持しながら、照りつける太陽を見上げる。

至純光帝(ルミナス・カイザー)』へと進化した今の俺にとって、

この程度の熱量は、もはや心地よい微熱程度にしか感じられない。

 肉体が、世界から切り離されていく。

その感覚の乖離が、俺を少しだけ深い孤独の淵へ突き落とそうとする。


 俺は、本当にまだ、丸尾一(まるお かず)なのだろうか。


「大丈夫だよ、ルミナ。

 ……おっと。どうやら、

 来たみたいだね。」


 地響きと共に、砂煙の向こうから巨大な影が現れた。

身長三メートルはあろうかという巨躯。

 獅子の頭部を持つ屈強な戦士——

この地の主、獣王ガウルだ。

 彼は俺の前に立つと、値踏みするような鋭い眼光を向けた。


「……貴様が、ギルバートの

 偽神を消したという

 『光の神』か。

 随分と、ひょろりとした

 小僧に見えるがな。」


「見た目で人を判断するのは、

 損をしますよねー。

 サトシ君。」

俺が少し含みを持たせて彼の名を呼ぶと、機巧都市ギルバートでの塔の

「棚割り」のお仕事はサッサと天網商会(アマ・ゾーン)の部下に丸投げして

同行していたサトシが、待ってましたとばかりに俺の横からひょいと

顔を出した。


「ええ、その通り。

 丸尾さんは、これでも全波長を

 束ねるガチの神様ですからね。」

サトシのあまりに現代的な緊張感のなさに、獣王の側近たちが一斉に

殺気を放つ。

 だが、当のガウルは、サトシの背後にある『ある物』に目を奪われていた。


「……その、鼻をつく奇妙な香りは何だ。

 血の匂いではない。

 だが本能がそれを美味だと叫んでいる。」


「お。流石ですね、

 野生の勘。

 ハク、出番だよ。」


 サトシに促され、光の街から同行していた白狐のハクが、トテトテと

前に進み出た。

 彼女は小さな手に、琥珀色の液体が入った瓶を大事そうに抱えている。


「マローさま……。

 これ、ハクががんばって、

 しこみましたっ。

 じょうゆ、っす。」

ハクが一生懸命に瓶を差し出す。


 潤んだ瞳でこちらを見上げるその愛らしさに、殺気立っていた獣人戦士

たちの表情が、一瞬でふにゃりと緩んだ。


 俺はハクの柔らかな頭を優しく撫でる。

 

 その時、俺の指先が微かにピンク色にポッと光った。


(……ああ。ハクの頭、あったかいな。

  俺も、こういう小さな温もりに救われているんだ。)


 神としての威厳を保とうと必死なのに、ハクの可愛さに当てられて

頬が緩んでしまう。

 そんな自分を「品がない」と自嘲しながらも、俺はガウルへ向き直った。


「獣王ガウル。

 これは、俺たちの国で開発した

 発酵調味料、醤油だ。

 君たちの主食である

 獣肉の塩焼きに、

 革命を起こすよ。」


 ルミナが優雅な手つきで、獲れたての巨大な猪肉を焼き始めた。

 

 パチパチとはぜる脂の音。

そこに、ハクが持ってきた醤油を数滴。ジュワッ。

 その瞬間、暴力的なまでに香ばしさに満ち満ちた芳醇な香りがフィングの

荒野に広がった。

 あの焦げた醤油の香ばしさは、飢えた獣人たちの理性という鎖を、

一撃で引き千切る。


「……っ!?。

 この香りは……。

 なんだ、初めての......。

 この深みは!。」


 ガウルが、我慢できずに肉を掴み、口に放り込んだ。

 咀嚼。

 静寂。

 次の瞬間、彼は咆哮した。


「旨い……!。

 ただの塩味ではない。

 大地の滋味と、時の積み重ねを感じるぞ!。

 マロー神よ!。

 この黒い滴があれば、

 味気ない干し肉すら御馳走に変わる!。」


「気に入ってもらえて何よりだよ。

 でも、ガウル。

 食文化の改善はまだ入り口に過ぎない。」


 俺はサトシに目配せをした。

彼は頷くと、慣れた手つきで空間に指を走らせる。


 彼は、俺の放った光の門を潜った際、その身に高純度の魔力を浴びていた。

 カイルが紹介した大商人ゼノスの元で魔導の基礎を叩き込まれた際も、

その規格外の魔力量で周囲を驚かせた。

 さらに彼は、学んだ魔導を過去の経験と織り交ぜ、独自の『店舗運営魔術(オペレーション・マギ)

へと昇華させていたのだ。


 サトシは広場に簡易的な棚を魔法で作り上げ、物資を並べ始める。


「いいですか、獣人の皆さん。

 力任せに積み上げるのは廃棄の元です。

 まず、視線の高さには、

 すぐ必要な即食糧を置く。

 重い物は下段。

 これを、『棚割りの黄金律』

 と呼びます。」


「サトシ君。

 この看板、

 光らせればいいかな。」


「ええ。

 お願いしますよ、丸尾店長。

 あ、失礼。マロー様。」

俺が指を鳴らすと、「おすすめ品」の看板が、絶妙な照度で黄金色に輝いた。


 ライトアップ。

かつて深夜のコンビニで商品を照らしていたあの蛍光灯の光を、今は俺自身の

神性エネルギーで再現している。


 サトシは、前世のコンビニバイトリーダー時代に培った知識を、

獣人たちの市場に次々と叩き込んでいく。


「マロー様、見てください。

 獣王様が、サトシさんの言葉に

 熱心に頷いています。」

ルミナが感銘を受けたように呟く。


 俺は、熱狂する市場の真ん中で、しれっと獣人たちと和解していく光景を

眺めていた。


(……俺は今、神として振る舞っているんだろうか。

  それとも、ただの便利な街灯付き店長なんだろうか。)


 ふと、胸の奥を通り抜ける、あのザラついた違和感。

完璧な神様として、期待された以上の正解を出し続けてしまう自分。


 誰も、「丸尾一(まるお かず)」という摩耗した人間など

見てはいないのではないか。


「……丸尾さん、

 また変なこと考えてるでしょ。

 ほら、ハクちゃんが

 『マローさまも食べて』って、

 一番いいとこ持ってきましたよ。」

サトシが、俺の肩をポンと叩く。


 その感触だけが、俺をこちらの世界へ繋ぎ止めてくれる。

振り向くと、口の周りを醤油でベタベタにしたハクが、尻尾をブンブンと

振りながら、串刺しの肉を差し出していた。


「マローさまっ、

 あーん、ですっす。」

その無邪気な瞳に射抜かれ、俺の思考は停止した。


 あまりの可愛さに、耐えきれなくなった羞恥心と愛しさが臨界点を突破する。


「……ふふ、

 ありがとう、ハク。

 いただきます。」


 肉を口にした瞬間、俺の金色の身体がこれまでになく鮮やかなピンク色に

ポッと発光した。

 美味しい。

 ただそれだけの単純な感情が、俺を神の座から引きずり下ろし、

一人の人間へと戻してくれる。


「おっ、出た。

 マロー様の、大満足ピンク発光だ。

 皆さん、これが見えたら

 今日の商売は大吉ですよ。」

サトシの冗談に、市場全体がどっと沸く。


 俺は赤面し、羞恥をエネルギーに変えて、さらに輝きを増してしまった。



 だがその喧騒から遠く離れた、大陸北方の『神聖ローデリア教国』。

再建された教皇庁の窓から、レオンは南の空に浮かぶ淡いピンク色の

残光を、冷ややかな目で見つめていた。


「……やはり、あれは毒だ。

 民の心を安寧ではなく、

 高揚という名の狂気で満たす、

 桃色の毒だ。」

レオンの手の中で、聖典がみしりと音を立てる。


 教国の人々は、絶対的な白き光の中にこそ、真理と救済があると信じている。

彼らにとって、マローの放つ太陽のような、そして時にピンク色に揺らぐ

奔放な全波長発光は、秩序を土足で踏み荒らす暴力に他ならなかった。


「……マロー神よ。

 貴殿の光は、あまりに不純すぎる。

 その輝きが届かぬ静寂こそが、

 真の平穏であることを、

 教えて差し上げよう。」


 レオンの背後の暗がりには、月を崇める『静寂の湖畔ルナ』の

使者が、音もなく傅いていた。

 彼らは先日、自由商業都市ベネトにおいて、マローの奇跡を

「古代兵器の暴走」と偽る情報捏造事件を画策し、

失敗に終わったばかりの工作員だ。


 太陽のごときマローの光を「傲慢な不純物」として敵視する

彼らもまた、教国と結託し、次なる「光の否定」を密かに

画策し始めていたのだ。


 そんな不穏な殺意が迫っていることも知らず。

俺はフィングの市場で、サトシに言われるがまま、「特売」の看板を、

一生懸命に七色に輝かせていた。


「……なあ、サトシ。

 これ、やっぱり

 恥ずかしいよ。」


「何言ってるんですか。

 神様直筆の電飾看板なんて、

 前世なら億単位の

 広告宣伝費ですよ。

 ほら、もっと景気よく

 パァーッと光って。」


「うう……。……全波長……

 増幅……っ。」


 羞恥のピンク色と、使命感の黄金が混ざり合い、

フィングの夜明けを、不器用なまでの優しさで照らし出していく。

 それが、俺たちが作る共栄国の日常。

 けれど、この温かな光が、次に訪れる『エルフの森』の深い孤独を、

より一層、際立たせることになるのを。

 この時の俺はまだ知る由もなかった。

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