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最強の光神(マロー)は、二度と夜を許さない。 〜国民的ゲームの主人公になって、絶望の淵にいた多種族を全員幸せにします。……でも、照れるとすぐ体がピンクに光るのは勘弁してください〜  作者: 稲盛 皆藤
【第一部:黎明編 ―光神の目覚めと仲間たち―】

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第4話:穢された聖域

 ルミナに導かれ、私たちはエルフの隠れ里がある『静謐の森』へと足を踏み入れた。本来であれば、ここは世界でも有数の清浄な気が満ちている場所だという。だが、視界に飛び込んできたのは、そんな期待を裏切るどす黒い光景だった。


「……ひどい。これじゃ、まるでゴミ捨て場だ。」


 思わず呟いた言葉に、ルミナが悲しげに瞳を伏せる。かつては瑞々しい緑を湛えていたであろう巨樹は、どす黒い霧に巻かれて腐りかけ、地面には粘り気のある闇の残滓が、まるでヘドロのようにこびりついていた。


 それは私にとって、単なる自然破壊ではない。前世、深夜残業の帰り道に見上げた、今にも消えそうな街灯。誰にも顧みられず、ただ朽ちていくのを待つだけの、あの孤独な光景と重なって見えた。


(……壊れてる。ここも、あのアパートの街灯と同じだ。)


 放置された絶望が、私の光核をチリチリと灼く。修復しなければならないという強迫観念に近い使命感が、内側から突き上げてくる。


「マロー様、見てください! あそこから、何か来ます!」


 フィオナの叫びと同時に、腐った木々の影から無数の黒い影が這い出してきた。それは生物ですらない。この大陸に満ちる魔力が変質し、実体化した「負のエネルギーの澱」――『虚無の浸食ヴォイド・イーター』だ。


 奴らは知性も意思も持たない。ただ周囲の生命力を吸い出し、この世界を「無」へと塗り替える、いわば世界のバグのような存在だ。奴らには、対話の余地すら存在しない。


 バラムがつるはしを構え、ルミナが防護の呪文を唱え始める。だが、浸食の速度は圧倒的だった。一匹の影が、震えるフィオナの背後から鋭い爪を振り下ろそうとする。


「……やめろ。」


 その瞬間、私の内側で何かが弾けた。前世で理不尽な要求に耐え、ただ消えていくだけだった自分への怒り。そして、今目の前で懸命に生きようとする仲間を傷つけようとする存在への拒絶だ。


「俺の目の前で……。勝手に壊してんじゃねえぞ!」


 私の身体が、これまで見たこともないほどに激しく明滅した。オーロラのような繊細な輝きが、一瞬にして極太の光の柱へと収束する。


「消えろ!」


 狙いは定めなかった。ただ「邪魔だ」という意志のままに、全方位へと光子エネルギーを叩きつける。ただ照らすだけの光ではない。それは闇を物理的に焼き切る、光科学の法則に基づいた破壊の奔流だった。


 絶叫すら残さず、影たちが一瞬で消滅していく。森を覆っていた黒い霧が、私の光に焼かれて霧散し、一瞬だけ、かつての清浄な空気が戻った。


 その直後だった。


 ――パパパパッパーン!  頭の中で、どこか懐かしく、けれど今の状況にはあまりに不釣り合いな、チープで軽快なファンファーレが鳴り響いた。


(……え? いま、鳴ったよな? 確実に。)


 困惑する私を置き去りにして、無機質な、それでいて妙に荘厳な「天の声」が脳内に直接響き渡る。


『おめでとうございます。

 経験値が規定値に達しました。

 レベルアップ。

 全ステータスが上昇し、光子エネルギーの最大出力が解放されます。』


(……ちょ、ちょっと待て。いまの変な音、みんなに聞こえたのか!?)


 あまりの恥ずかしさに、私は慌てて仲間の顔を伺った。だが、バラムは武器の手入れをし、ルミナは聖域の方角を凝視している。


「……二人とも。いま、変な音しなかったか?

 ほら、こう、景気のいいラッパの音みたいな……。」


「音ぉ? 聞こえねえな。闇の連中が消える時の断末魔なら聞こえたが。」  


 バラムが怪訝そうに眉を寄せる。やはり聞こえていない。この精神的攻撃に近い祝福は、私だけに向けられたものらしい。


 安堵したのも束の間、追い打ちをかけるように天の声が告げた。


『個体名称「マロー」の称号が更新されました。

 称号:【光の粒】から【光の集積体ルミナス・クラスター】へと進化しました。』


(……ルミナス・クラスター!? なんだその、急に強そうな、絶妙にこっ恥ずかしい名前は!)


 平社員から、いきなり「主任」か何かに昇進させられたような気分だ。さらに、身体から制御不能なエネルギーが溢れ出した。赤、青、黄、緑……あらゆる色彩が繊細なオーロラのように混ざり合い、高速で明滅しながら周囲を塗り替えていく。


「……素晴らしい! これほどまでに神々しく、全波長を網羅した美しい光……。

 光子密度が理論値を越えています! 周囲の空間の屈折率が変化している……

 これぞ究極の発光現象です!」


 フィオナが目を輝かせ、魔導学者としての好奇心を爆発させて絶賛する。ルミナもまた、その輝きに圧倒され、祈るように手を合わせていた。


「これが、神の真なるお姿……。なんて、破廉恥なほどに美しい……。」


(やめてくれ……! 神々しいとかじゃないんだ! これ、めちゃくちゃ恥ずかしいんだよ!)


 前世の感覚で言えば、これは「派手すぎる電飾を全身に巻きつけて、自分にしか聞こえない爆音のBGMに合わせて踊っている」ようなものだ。社畜時代、目立たないことだけを信条にしてきた私にとって、このレインボー発光は精神的苦行でしかない。


「品がない……。ああ、もう、消えてしまいたい……。」


 私は七色に激しく点滅しながら、羞恥心のあまり、地面にめり込まんばかりの勢いで急降下した。レベルが上がり、力がみなぎる実感はある。だがそれ以上に、私は自分の存在そのものを呪いたくなっていた。


「……マロー様? そんなに激しく色を変えて……。やはり、お加減が悪いのですか。」


「……ほっといてくれ。頼むから、誰も俺を見ないでくれ……。」


 私は、七色の残光を尾のように引きずりながら、逃げるように聖域の奥へと進んだ。


 だが、そこで消滅した影の跡に、幾何学的な「術式の断片」が浮かび、消えるのを私は見逃さなかった。


(……なんだ、今のは。ただのバグじゃない。誰かが、意図的にこれを「組んだ」のか?)


 背筋が凍るような感覚。だが、今はそれ以上に優先すべき事態が起きていた。ルミナが顔を強張らせて駆け寄る。


「マロー様、大変です。聖域の『世界樹の苗』まで、この浸食が届いています。

 苗が枯れれば、この森のすべての住人は、行き場を失います。」


 誰かの悪意か、それとも天災か。今はまだ分からない。


「……案内してくれ。消えそうな街灯(ターゲット)を直すのは、俺の得意分野だからな。」


 私は、震える光をグッと強く押し殺し、森の最深部へと加速した。

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