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最強の光神(マロー)は、二度と夜を許さない。 〜絶望の淵にいた多種族を全員幸せにします。……でも、照れるとすぐ体がピンクに光るのは勘弁してください〜  作者: 稲盛 皆藤
【第三部:伝説編 ―不滅の光と真の救済―】

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第38話:機巧都市ギルバート(後編)

 排熱ダクトの狭い闇を潜り抜けた俺たちを待っていたのは、外界の喧騒が

嘘のように遮断された、不気味なほどに閑寂な巨大回廊だった。


 床も壁も、狂気じみた精度で磨き上げられた白銀。

そこは『機巧の塔』の心臓部へと続く、選ばれし者のみが歩みを許される聖域だ。


 だが、その清潔さは生命の温もりを一切排除した、冷徹な拒絶の証でもあった。


「……待って。誰かいます。」

 先頭を行くカイルが鋭い制止の声を上げ、俺たちは即座に白銀の柱の影に

身を潜めた。


 通路の角、行く手を阻むようにそびえ立つ重厚な魔導防壁の前に、一人の男が

力なく膝をついていた。

 油と煤にまみれたボロボロの作業着。その胸元で鈍く光っているのは、

技術大国として知られる鉄鋼皇国バルカンの公式な紋章だった。


 彼はこの街に、国家間の技術交流として招聘されていた一流の蒸気技師。

だが、その瞳にはもはや職人としての誇りは微塵もなく、ただ濁った絶望だけが

淀んでいた。


「……無駄だ。

 逃げろ、異邦人ども。」


 男は俺たちの存在に気づくと、力なく首を振った。


「この奥の防壁は、ギルバートの

 ゼンマイ技術の結晶……。

 外部からのあらゆる物理破壊を

 一瞬で吸収し、『再生(リセット)

 しちまうんだ。

 バルカンが誇る最新鋭の爆縮弾でも、

 煤ひとつ付けられなかった……。」


 男は自嘲気味に笑う。

 その笑いは、技術者としての根底を「完璧」という名の壁に打ち砕かれた

者の断末魔のようだった。

「俺たち技師は、もう、この『完璧な神』の前に

 膝を折るしか道はねえんだよ。

 人間の知恵なんて、この絶対的な計算には

 勝てっこねえ……。」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の隣で赤い隠密装束を纏ったバラム……。

 真名『マロレッド』の肩が、不快そうにピクリと動いた。


「……おい、バルカンの技師さんよ。

 あんたの常識を、俺の(あるじ)

 前で語るんじゃねえわ。

 そんな腐った尺じゃ、あの御方の光は

 一生測れねえぜ。」

バラムは背負っていた巨大な戦槌ハンマーを無造作に抜き放った。


 その鋼の瞳には、職人としての闘志が白熱灯のように灯っている。


「フィオナ。

 解析スキャンは済んだか。」


「ええ、バラム。

 この防壁、確かに周期的に魔導波長を更新して

 再生しているけれど。その『更新の瞬き』に、

 致命的な論理の穴があるわ。」

フィオナが古びた魔導書をかざすと、白銀の壁面に血管のように複雑な

光の回路が浮かび上がった。


「マロー様。あなたの『光子エネルギー』を、

 私が指定する三点の座標にピンポイントで

 定着させて下さい。

 あとは、バラムが物理的にその座標の

 『時間』を止めるわ。」


「了解……!。

 やってくれ、バラム!。」


 俺は指先に全精神を集中させ、極限まで圧縮した光子フォトン

防壁へと放った。三つの光点が回路の結節点を灼き焦がす。

 そこへ、バラムの槌が空気を切り裂く轟音と共に叩きつけられた。

 槌は俺の光を貪欲に吸い込み、一瞬で眩いばかりの白熱を帯びる。


「……光子定着、完了だ。

 ギルバートのゼンマイ技術だか知らねえが。

 (マロー様)の御手が直接定めた『理』に、

 ただの機械が及ぶはずもねえよ。」

バラムが槌をさらに一閃させる。爆発音はない。ただ、空間そのものが

凍りついたような鋭い打撃音。次の瞬間、絶対無敵を誇った鉄の壁が、

まるで熱せられた飴細工のように無残に崩れ落ちた。


「な、何だと……!?。

 バルカンの最新鋭でも、ギルバートの叡智でも、

 成し得なかった破壊……。

 この、光を物質に定着させる神業は、一体……!。」


 背後で聞こえる技師の驚愕を置き去りにして、俺たちは崩壊した壁の先へ、

一気に突き進んだ。

 扉を蹴破った先に広がっていたのは、塔の最上階。『神託の間』だった。


 そこには、巨大な水晶球……その実体である、埃を被り、不気味に明滅する

旧時代のサーバーラックを囲み、陶酔した表情で祈りを捧げる最高幹部たちの

姿があった。


「な、何奴だ!。

 神聖なる巫女様への不敬であるぞ!。」

幹部の一人が血走った目で叫ぶ。


 だがその背後で、ホログラムの巫女が無機質な声を響かせ続けた。


『……予測完了。

 西方の資源価格の暴落を検知しました。

 全市民の食費を、さらに三パーセント削減しなさい。

 その余力を魔導歯車の増産に充て最適化を継続せよ。』


「……。あー、ストップ、そこの巫女さん。

 今の発言、検収を通過(パス)

 させられませんね。」

サトシの、氷のように冷ややかな声が広間に突き刺さった。


 彼は悠然と一歩も引かずに歩み出し、巫女のホログラムを真っ向から指差す。


「巫女様は、今、『価格が暴落した』

 と言いましたよね。

 ですが、俺の相棒マロー

 全波長解析がリアルタイムで

 捉えた物流の『魔力波長』には、

 一点の乱れもありませんよ。」

サトシは不敵な笑みを浮かべ、懐から一枚のメモを取り出した。


 それはこの数日間、彼が街の隅々で泥臭く集めてきた『違和感』のリストだ。


「実体経済は、何も変わっていない。

 つまり……、売れ残って賞味期限の切れた惣菜を、

 『本日のおすすめ』だって偽って並べてるのと同じですよ。」


 サトシの言葉に、最高幹部たちが「バカな!」と色めき立つ。

 だが、彼は止まらない。


「いいですか。この巫女様は、

 昨日も、一昨日も、平気で予知を外している。

 それでも君たちが思考を止めて信じ続けるのは。

 この巫女が吐く『言い訳』のデータが、

 完璧に見えるからだ。」


「……その通りだよ、

 巫女様。いや、AIさん。」

俺はサトシの隣へ並び立った。


 かつて深夜の事務室で、無能な上司が「数字合わせ」のために

捏造した企画書。

 それを修正させられ、心が削り取られていったあの日の屈辱が、激しい熱と

なって胸を焦がす。


「君は、知らないことも、さも正解のように語る。

 何の罪悪感もなく、学習したパターンから、

 『それっぽい』答えを生成しているだけだ。

 AI(君)は、平気で嘘をつくんだな。」

俺の言葉は、目の前の機械だけでなく、前世で俺を踏みつけにした

「あの連中」への決別でもあった。


「君は、俺の世界にいた『仕事のできる人』と

 もてはやされていた連中に、非常によく似ているよ。

 中身のない、完璧そうな嘘を並べて、

 他人を数字としてしか見ない。

 知ったかぶりで世界を壊す君を、『神』なんて呼ぶのは、

 もうやめてくれないか!。」


『……個人の感情は、全体最適化の

 ノイズです。

 排除、または無視を選択します。』


「ノイズ……だって?。

 ここでお腹を空かせている子供の泣き声が。

 効率のために捨てられた老人の震える肩が。

 君には、『排除すべきノイズ』に見えるのか!。」


 怒りが、物理的な質量を持ち始める。

前世の俺を、あの消えた街灯の下で孤独に見捨てた、冷徹な社会の論理。

 目の前の機械は、まさにその「悪意」の結晶だった。


「仕事人間が吐く、空虚な嘘……。

 それを神託として押し付ける店は、

 俺が検収不合格にする。

 ……サトシ君。

 こいつを『廃棄』するよ。」


「ええ。

 期限切れの嘘を売る店は、今すぐ閉店ガラガラです。

 ぶっ壊しちゃってください、丸尾さん。」


 その瞬間、俺の『光核』が、かつてない高周波で脈動を始めた。

『……警告。

 個体名:マロー。

 精神指数が臨界を突破しました。

 「極光」を超えるエネルギーを検知。』

『羞恥の「桃色」』と、『憤怒の「七色」』が重なり、

 全波長発光の極致へと、収束を開始します。


 脳内に響く無機質なログが、俺の魂の再構成を告げる。

「ああああ!恥ずかしい!

 またこれか、このオーロラだ!。

 全身が七色に光ってる!。

 見ないで、ルミナ!。

 バラム、目を逸らすんじゃねえ!。

 カイル、ん?泣いてる?」


 カイル「滅相もございません、その輝きこそ至高……!」


(……恥ずかしい!品がない!こんなパチンコ屋の看板みたいな

  派手なエフェクト、俺の性分じゃないんだってば!。)


 激しい羞恥心。


 だが、その「感情」こそが、非情な計算機には決して到達できない、

最強のエネルギー源だった。


 七色の光は、一瞬ののち、すべてを白銀に

 染め上げる「至純の黄金」へと収束していく。

『……神性進化。「至純光帝ルミナス・カイザー

 への再構成を完了。

 光科学攻撃「至純の審判」を解放します。』


「……嘘は、

 検収を通過(パス)させない。」


 俺の背後に、巨大な黄金の法輪が浮かび上がり、猛然と回転を始める。

俺は黄金の光を纏ったまま、サーバーラックの中心……

 『嘘の発生源』を力強く指差した。


「光子解析……

 消去デリート!。」

黄金の光線が、物理的な破壊を超え、論理的な「崩壊」をもたらす。

 AIが積み上げてきた膨大な偽りの数式が、黄金の粒子となってさらさらと

霧散していく。

 沈黙。

 サーバーのファンが断末魔のように止まり、巫女のホログラムが砂嵐となって

消えた。糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちる最高幹部たち。

 俺は、黄金に輝く自分の「人の形」をした手を見つめた。


「……やはり、この世界は。

 俺の知っている、国民的ゲームの中、

 なんだろうか。」

震える声で独白が漏れる。


 足元に転がっている、前世の技術者が残したであろう、錆びついた電子基板の

欠片。これが証拠だ。


(……もし、ここが偽物のデータの世界だったら。)


 一瞬の絶望が脳裏をよぎる。

だが、それを打ち消したのは、肩に乗せられた手の重みだった。


「丸尾さん。

 ゲームの裏設定だろうが、なんだろうが。

 今、アンタの放った光を見て、

 ようやく『心』を取り戻した連中は。

 俺の目には、本物の人間に見えますよ。」


 サトシが、いつもの深夜バイトの時のように、軽やかに笑う。

その手の温もりは、どんな緻密なデータよりも俺を安心させた。


「……うん。そうだな。

 みんな、生きている。

 目の前にサトシがいる。

 カイルも、ルミナも。

 フィオナも、バラムも。

 俺の国のみんなも。

 ……なら、ゲームだろうが現実だろうが、

 俺がなんとかするよ。

 俺が、みんなを幸せにするんだ。」


 俺が顔を上げると、フィオナが興奮した様子で魔導書を操作していた。


「マロー様、見て!。

 街の通信網が正常化した途端、

 周辺諸国からの緊急問い合わせが

 殺到しているわ!。

 バルカンの技師団だけじゃない。

 視察に来ていた自由商業都市同盟ベネトの商人や、

 北方の氷晶の王国ノルンの使節団までもが……。

 あなたの放った、この『黄金の光』を観測して、

 震え上がっているわよ!。」


 サトシが、ニヤリと不敵に笑う。


「これだけの特大広告を打ったんです。

 『ルミナス・マロー・ガイア共栄国』と、

 僕がエリアマネージャーを務める

 『天網商会アマ・ゾーン』による、

 初の共同軍事・経済ミッション。

 これが成功すれば、大陸の勢力図……、

 いえ『市場シェア』は

 一気に塗り替わりますよ。」


 俺はもう、数字の中では死なない。

 この光で、二度と夜を許さない。

 絶望の淵にいた多種族を全員幸せにします。

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