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最強の光神(マロー)は、二度と夜を許さない。 〜絶望の淵にいた多種族を全員幸せにします。……でも、照れるとすぐ体がピンクに光るのは勘弁してください〜  作者: 稲盛 皆藤
【第二部:建国編 ―人魔共栄の理想郷―】

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第27話:星降る夜の終幕、そして影

 祭りの終わりは、いつも切なさを孕んでいるものだ。

だが、この夜の終幕が孕んでいたものは、切なさなどという情緒的な

言葉では到底、表現しきれないほどの、どす黒い「絶望」であった。


「……ああ、いい祭りだった。

 サトシ君、おでんの完売、本当におめでとう。

 最後の一杯を、あのドワーフの

 お爺さんがさ、泣いて喜んで食べてたのが……

 なんだか、僕まで嬉しくて。」


 屋台の片付けを傍目におしゃべりしながら、マローは穏やかに笑う。

直径三十センチほどの光の球体であるその体は、更なる進化をした

ばかりの余韻を楽しみ、淡いサクラ色の輝きを放っていた。

 マロー・ピンク。それは彼の充足感と、仲間への親愛が混ざり合った、

夜風に心地よく溶け込むような慈愛の光だ。


「丸尾さん、

 それはこっちの台詞だよ。

 あんなに喜ぶ顔、コンビニの

 深夜シフトじゃ絶対見られなかったし。

 ……でもさ、あんまり光りすぎて、

 顔、真っ赤だぜ。照れすぎだって。」


「いいじゃないか、サトシ君!

 こればっかりは、仕様なんだから。

 ……あ、カイル!ルミナ、バラムも! 

 警備お疲れ様。

 みんなの光の加護、すごく綺麗だったよ。」


 カイルやルミナたちも、マローから授かった光の加護を、誇らしげに

その身に纏い、祭りの余韻に浸る民の家路を優しく見守っている。

 平和そのものの光景。

 だが、その安らぎは、一瞬の「瞬き」によって、あまりにも無惨に、

暴力的に引き裂かれることとなる。


「……え?」


 マローが、ふと夜空を見上げた瞬間だった。

 大通りを煌々と照らしていた、フォトニック・レールの光の街灯が、

パツン、と乾いた音を立てて弾け、唐突にその光を失った。


「街灯が……?

 おい、バラム!回路の故障か!?」


「バカ言え、カイル!

 俺の組んだ魔導回路は完璧だ!

 マロー様のエネルギー供給

 が、……止まったのか!?」


 一つ。また一つ。

 連鎖するように、街の灯火が、何者かに飲み込まれるように消える。

それは単に火が消えるという物理的な現象ではなかった。

 黒い、粘り気のある、底冷えのするような霧が、マローの放つ光を、

意志を持って「喰らって」いるのだ。


「なんだ……?

 街灯が、消えていく?そんな馬鹿な。

 僕の供給している、光子エネルギーが、

 届かない……!?

 フィオナ!状況を教えてくれ!」


「マロー様、異常事態発生ですわ!

 計測器の針が振り切れています!

 光を遮っている訳じゃない……。

 波形そのものを相殺、つまり

 キャンセルしていますわ!」


 マローの背筋に、氷のような戦慄が走った。

 視界が急速に狭まり、街は数秒前までの多幸感から、一気に奈落の底

へと突き落とされる。


(……暗い。嫌だ。この暗さは。あの時のままだ。)


 脳裏に、あの雨の日の記憶が鮮烈に、そして残酷に蘇る。

仕事帰りの、古びた公園。接触不良で明滅を繰り返す街灯。

それを直そうとして突き飛ばされた電撃の痛みと、やがて完全に冷え

切った、孤独な死の風景。誰も助けに来ない。誰にも見つけてもらえない。

元・丸尾一(まるお かず)を支配する、根源的な「夜」への恐怖が、

光の球体であるはずのその足を、ガタガタと震わせる。


「マロー様!俺の後ろへ!

 ルミナ、マロー様を守れ!」


「わかってるわ、カイル! 

 ……くっ、闇が、肌にまとわりついて……。

 精霊たちが怯えている!?」


 カイルが叫び、マローの魔力を宿した蒼い剣、『マロブルー』を闇の中へ

と力強く振るった。

 鋭い斬撃が霧を裂くが、霧はすぐに蠢いて再生し、カイルの光をじわじわと

侵食していく。


「マロー様!

 これ、ただの闇じゃありませんわ!

 光科学の波形を完全に読み取った、

 逆位相 ……アンチの対神魔術です!

 あえて理数的に、あなたを

 殺しにきていますわ!」


 フィオナが計測器を抱え、悲鳴のような、絶望の混じった声を上げる。

 モニターには、マローの存在そのものを構成する光の波形を、正確に

打ち消すための、不気味な「逆位相」の波紋が踊っていた。


「……光を、打ち消している……?

 僕という存在を、定義ごと、

 消そうとしているというのか……。」


 マローは、絶望に染まりゆく街を見た。逃げ惑う人々の影。

 暗闇の中で母親の名を呼ぶ、幼い子供たちの震える声。

それは、マローが、二度と夜を許さない」と魂に誓ったはずの光景

そのものであった。


 闇の中から、音もなく黒装束を纏った刺客たちが姿を現す。

彼らは一言も発さず、機械的な動作で民の足を狙い、恐怖を煽る。

その中の一人が、マローの足元に対し、一通の布告状を投げ捨てた。


「……っ、何だ、これ……。

 丸尾さん、これを見てくれ。

 ……この文字……嘘だろ?」


 サトシがそれを拾い上げ、消えかかった街灯の残光で読み上げる。

 そこには、この世界の共通言語とは明らかに異なる、歪な、だがマローに

とっては心臓を鷲掴みにされるような文字が並んでいた。


「……見せてくれ。

 ……っ!?

 『巴』……?そんな、馬鹿な……。

 どうして……この世界に、あの名前が……!」


 その「漢字」を視認した瞬間、マローの体から、全波長発光――七色

の輝きが、狂ったように乱反射した。

 恐怖、怒り、驚愕。整理できないほど膨れ上がった感情が、爆発的な

エネルギーとなって周囲に散らばる。


「……巴。

 僕を、部品のように使い潰して……。

 あの真っ暗な六畳一間に追い詰めた、

 あの時の取引先……。

 いや、それとも僕と同じ、日本から

 来た……別の転生者なのか?」


「丸尾さん、落ち着け!

 発光が強すぎて体が保たないぞ!

 ……おい、フィオナ!何とかしろ!」


「無理ですわ!

 マロー様の羞恥と怒りが核融合寸前です!

 七色のオーロラが暴走していますわ!」


 フィオナが必死に、震えるマローの光の球体を抱きしめる。

 だが、マローの瞳……いや、光の中心には、暗闇の中に浮かぶ刺客たちの

冷たい視線しか映っていなかった。


(……もし。もしも、君が日本人なら……。どうして、こんなことをするんだ?)


 マローは、闇の奥に向かって、震える声で叫んだ。

 それはこの世界の言葉ではなく、彼らの故郷の、懐かしくも痛ましい

言葉だった。


「そこに、いるんだろ!巴さん!

 聞こえるなら、答えてくれ!

 僕は、丸尾だ!丸尾一(まるお かず)だ!」


 沈黙。

 そして、刺客の一人が、嘲笑うように告げた。


「無駄だ。執行騎士様が、貴様のような

 魔物の呪言に耳を貸すはずもなし。

 『巴』の名は、我らが聖教国の、断罪の証。」


 その言葉に、マローの期待は、最悪の形の絶望へと叩き落とされた。

 相手は日本人ではない。ただ、自分を死に追いやったあの「名前」を、

今度は自分の愛する街を壊すための「兵器」として、奪い取った存在なのだ。


「……そうか。

 期待した僕が、馬鹿だった。」


 サクラ色の光が、一瞬で消え去る。

 代わりに溢れ出したのは、どろどろとした、地獄の業火のような、

灼熱の赤――マロレッドであった。


「サトシ君……。

 あいつら、許さない。

 俺の光を、俺の、大切にしてきた、

 この街の夜を……。

 また、あの暗闇に戻そうなんて……。

 絶対に、許さない。」


 マローの呟きは、怒りによる進化の胎動を孕んでいた。

 救済の光ではない。

 全てを焼き尽くし、貫き通す、破壊の光の誕生。


「丸尾さん、

 ダメだ!深呼吸しろ!あいつら、

 わざと君を怒らせて……!」


 サトシの必死の制止も、今のマローの耳には届かない。

 マローの周囲の空気が、異常な熱を帯びてバチバチと激しい放電を始め、

石畳を溶かしていく。

 平和な建国祭は、一夜にして、「夜」の主権を争う凄惨な戦場へと、

その姿を変えていった。


 闇の中で、巴の刻印が不気味に笑っているように見えた。

 マローは、まだ気づいていない。

 この「闇」の正体が、自身の過去から追いかけてきた、逃れられない

亡霊であることを。


「……光を、取り戻す。

 たとえ、俺の心が、粉々になっても。

 サトシ……

 俺、また、嫌な光り方、しちゃうかも

 だけど……見ててくれ。」


 七色の光を撒き散らし、マローは闇の中へと、一歩を踏み出した。

 その背中は、かつての孤独な死に顔より、ずっと、ずっと悲しく輝い

 ていた。

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