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最強の光神(マロー)は、二度と夜を許さない。 〜絶望の淵にいた多種族を全員幸せにします。……でも、照れるとすぐ体がピンクに光るのは勘弁してください〜  作者: 稲盛 皆藤
【第二部:建国編 ―人魔共栄の理想郷―】

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第26話:聖騎士と琥珀色の「おでん」

 狂乱のパレードが終わり、『ルミナス・マロー・ガイア共栄国』は。

柔らかな夜に包まれていた。

 だがその安らぎは、神聖ローデリア教国、通称聖教国の異端審問官

エレーナにとっては、おぞましい毒でしかなかった。


「……光に魂を焼かれ。

 思考を奪われた憐れな迷い子たち。 。」


 路地裏の影に身を潜め、彼女は鋭い眼光で、笑い合う民衆を睨みつける。

教国の教えでは、マローなる存在は、人心を惑わす「ピンク色の魔王」。

 その光は洗脳の波動であり、浴びた者は二度と正気には戻れないという。


 だが、視察を続けるほどに彼女の信念は、音を立てて軋み始めていた。

洗脳されているはずのドワーフも、エルフも、その瞳には確かな意思と

明日への希望が宿っている。

 何より、街に満ちる「匂い」が不自然だった。


「……これは、香草の香り?

 いえ、もっと深く。根源を揺さぶるような……。 。」


 グーウーゥ、と、彼女の腹の虫が情けない音を立てた。

潜入してからの三日間、毒殺を恐れて携帯食の乾パンしか口にしていない。

空腹は聖騎士の誇りさえ、容易く削り取っていく。


 何かに誘われるように辿り着いた広場の一角、そこには一際異彩を放つ、

見慣れぬ『屋台』があった。

**「サンチェー・マート」**と奇妙な文字で書かれた看板。

 湯気の向こうに一人の青年が立っていた。


「いらっしゃい。いらっしゃい........。

 作りたての熱々スープだよ。

 そこの綺麗なお姉さん、一杯どうだい? 。」


 サトシと呼ばれた青年が、気さくに声をかける。

 エレーナは反射的に腰の短剣に手をかけたが、その隣に座る人物を見て

息が止まった。


 そこには、透き通るような白銀の髪と、吸い込まれるような、

青い瞳を持つ美少年がいた。

 昼間のパレードで空を桜色に染め上げた、あの「光神」の受肉体、

進化を遂げたその肌は、マシュマロのように白く、「ぷるん」とした、

極上の質感を帯びている。


 (……しまった。魔王の本体と、接触してしまった! )


 逃げ出そうとした彼女を、マローが穏やかな、そしてどこか疲れ切った

眼差しで呼び止める。


「……いいよ、座りなよ。

 神様なんて。今は休業中だからさ。 。」


 マローの声は、威厳に満ちた神のものではなく、週明けの満員電車を

恐れるサラリーマンのような哀愁を帯びていた。

 毒気を抜かれた彼女は、吸い込まれるようにカウンターの端へ座った。


「サトシ君。いつもの、お願い。 。」


 マローが含みを持たせた、独特の呼び方をする。

 サトシは「はいよ」と応じ、琥珀色のスープが満ちた四角い鍋から、

見慣れぬいくつかの具材を掬い上げ、その琥珀色のスープで満たした。


「お待たせ。前世の叡智を詰め込んだ。

 特製サンチェー……いや。サトシ流・黄金おでんだ。 。」


 目の前に置かれた皿には、出汁を限界まで吸い込み、

今にも崩れそうな丸カブのような煮物、見慣れぬ茶色い三角形などなど。

 エレーナは困惑した。

 これが、魔王の食卓なのか。


 一方、マローは箸を手に取ると、祈るような手つきで何か唱えると

丸カブのような煮物を口へ運んだ。


「…………っ。 。」


 刹那、マローの瞳から、星屑のような光子がパラパラと溢れ出した。

その光は、淡い桃色から琥珀色へ。

幸福の周波数が、屋台を優しく包み込む。

頬を膨らませて、ハフハフと熱を逃がす姿は、見る者の保護欲を

無慈悲に破壊するほど、愛くるしかった。


「……生きてて。よかった……。

 本当に、よかった……。 。」

そんな歌のリズムが、マローの記憶を呼び覚ましたように流れた。


 マローの脳裏には、冷たい雨の中、一人で啜ったカップ麺や、

孤独死の瞬間の凍えるような暗闇が過る。

 だが、この出汁の温かさは、それら全ての欠落を、

全肯定するように染み渡る。


「カツオと昆布……。いや、この世界の魔導生物の干し肉か。

 サトシ君。

 これ、最高だよ。コンビニの底力を感じる。 。」


 マローの純粋な、あまりに無垢な落涙。

 それを見たエレーナは、自身の理性が敗北を認めるのを感じた。


「毒など、もうどうでもいい。 。」

 と、彼女は丸カブの煮物を頬張った。


「なっ…………!? 。」


 脳髄を直接、黄金の光で殴られたような、衝撃が彼女を襲う。

噛みしめるたびに、凝縮された旨味が熱を帯びて喉を通る。

 聖騎士としての規律。

 ローデリアの教え。

それらが、琥珀色の出汁の圧倒的な説得力の前に霧散していく。


「……おかわり。ください……! 。」


 頬を赤らめ、一心不乱に食べる彼女。

 マローはそれを見て、ふっと目を細めた。

彼の目には、彼女の衣服の下に隠された、教国の紋章と、異常なほど

洗練された魔力の流れが見えていた。


 刺客。あるいは、間者。

 普通の王なら即座に捕縛するだろう。

だが、マローはピンク色に輝く指先で、おでんの汁を啜るだけだった。


 (美味しいものを。食べてる奴に。罪はない。 )


 それは、前世の深夜。

万引きをしようとした少年に、ホットスナックを渡して更生させた

サトシの背中、それをレジから見ていた、丸尾一(まるお かず)としての確信だった。


「いい食べっぷりだ。君、ローデリアから。来たんだろう? 。」


「っ!? なぜ、それを! 。」


 エレーナが、慌てて身構えようとする。

 だが、サトシが、

「はい、牛すじ追加」

と、絶妙なタイミングで皿を差し出した。

 その香りに彼女の殺気は、またしても萎んでしまう。


「わかるよ。君みたいな真面目な人が。

 あんな堅苦しい国を、支えてるんだろ? 。」


 マローは、少しだけ真剣な瞳で彼女を見つめた。

その瞳は、全てを見通す神のそれであり同時に、後輩を労う先輩のような

優しさに満ちていた。


「あ、そうだ。ハク、君のおかげで。

 この琥珀色の奇跡は、完成したんだ。 。」


 屋台の隅で醤油を補充する、東方の商人ハクにマローは視線を向けた。


「物流と、味の追求。感謝しているよ。

 君に、相応しい名を。

 真名――『マロアンバー』。 。」


 (特色……だよな、琥珀色はインク代より。むしろ出汁の色、って感じだな。 )


 内心で世知辛い、インクコストを計算しながら指をパチンと鳴らす。

ハクの全身を、温かい琥珀色の光が包み。彼の商売道具にマローの紋章が刻まれた。


「……お、おお……!

 魂が、震える……! 。」


 ハクが手にした醤油瓶が、瞬時に琥珀色の光を帯びる。

 それは時間が凍りついたかのように、中の液体を「最も美味い瞬間」

のまま、固定する停滞の輝きいた。

 マローと何かが繋がり、発酵に欠かせない時間操作の魔法を手に入れた

ようだった。

 これで彼の運ぶ物資は、腐敗という概念から切り離されたのだ。

 しかも、ハクは見違えるように肌のツヤが「夕陽を浴びた琥珀」

のように常に健康的で若々しい輝きを放つのが分かった。


「先のパレードの立役者のミラ。

 君にも授けるよ。

 すべての光を反射する、

 真名――『マロホワイト』。 。」


 (ホワイト……、紙の色であり。最も修正が効く、修正液の色だ……。 )


 マローが手をかざすと、山車の陰で控えていたミラが純白の輝きに包まれる。

 ミラは別人のように印象が変わり、瞳の奥に「プリズムのような多色」が混じり、

何らかの光操作の魔法を手に入れ、マローと何かが繋がったのを実感した。

 彼女が指を弾いた瞬間、パレードで汚れた石畳がまるで「間違い」を

消しゴムで消すように、真っ新な白へと塗り替えられていった。

「最高ですわ!」と、彼女は狂喜乱舞した。


 これら一連の名付けの儀式を目の当たりにしたエレーナには、

もう本国の指示よりも、この目の前に居る神との対立は選択肢から

逸脱してしまっていた。


「……ところでマロー様。この、串に刺さった。

  驚くほど柔らかな肉は何ですか?

  我が国では、家畜の『残りカス』として

  捨てられる部位のはずですが……。

  悪魔的ですが、最高に美味ですわ! 。」


「あはは、それはね。異国のご令嬢。

  牛すじといってね。

  人類の食への飽くなき執念だよ。 。」


 マローの笑い声が、夜の広場に溶けていく。

神の位階は上がっても、おでんの湯気の向こう側で、彼はまだ

一人の人間として笑うことができていた。


「……丸尾さん。

 鼻から星が出てる。キラキラして、

 品がないから。少し落ち着きなよ。 。」


「うるさいよ、サトシ君!

 こればっかりは。制御不能なんだよ! 。」


 マローの体は、照れと喜びが混じり合い、綺麗なピンク色のまま

ピカピカと点滅を繰り返す。

 その光は、潜入者の心さえ、優しく、そして深く溶かしていった。

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