第25話:神様パレード、羞恥のレインボー
ルミナス・ガイア大陸の、歴史に刻まれるべき一日。
『光の共栄圏』の建国祭は、絶頂を迎えようとしていた。
だが、その中心人物であるマローの精神状態は、絶望の淵にあった。
「ねえ、フィオナ。これ、布じゃなくて。
光の屈折率を、弄っただけの何かだよね。」
「左様ですわ、マロー様!
特製『光子透過礼装』。貴方の光を吸収し、
輪郭だけを美しく、透過させる神秘の衣……。
最高に萌え……いえ、神々しいですわ。」
鼻息を荒くするフィオナ。
演出家ミラの指示により、用意された衣装は、ほぼ「全裸に近い何か」だった。
前世の社畜、丸尾一として培ってきた慎み深さが、内側から悲鳴を上げる。
「露出狂か、俺は……。」
その呟きと共に、マローの体は激しいピンク色に発光した。
羞恥心が物理的な光子エネルギーとなって、漏れ出している証拠だ。
豪華な魔法山車に乗せられ、パレードが開始される。
大通りを埋め尽くした数万の多種族の民。彼らが一斉に山車の上を見上げた。
「マロー様だ!」
「なんて、可愛いお姿……!」
「ああ、光が。光が私を癒やしていく。」
ドワーフの男たちが涙し、エルフの乙女たちが祈る。
熱狂的な歓声が、物理的な圧力となってマローを襲う。
(やめてくれ……。そんなキラキラした目で。半裸の元サラリーマンを。
見ないでくれ!)
民の感謝の念と、自身のどす黒い羞恥心。
相反する二つのエネルギーが、マローの核で混ざり合い臨界点に達した。
「あ、もうダメ……。
恥ずかしすぎて。
爆発する……! 」
その瞬間、マローの脳内に無機質な、それでいて荘厳な
『天の声』が響き渡った。
<< 告知。 >>
<< 個体名『マロー』。 >>
<< 許容量を上回る、 >>
<< 羞恥エネルギーを観測。 >>
(羞恥エネルギーって何だよ!もっと格好いい魔力とかにしてくれよ! )
<< 否定。 >>
<< 感情エネルギーを、 >>
<< 属性変換……成功。 >>
<< 条件を達成しました。 >>
<< 個体進化を開始します。 >>
ドォォゴォォーン!という無音の衝撃。
マローの全身から、桜色のオーロラが爆発的に溢れ出した。
空をピンク色に染め上げる、圧倒的な多幸感の波動。
それは見る者すべての、闘争心を削ぎ落とし、ただ愛でることだけを、
強いる究極の光。
<< 進化、完了しました。 >>
<< 種族:光稚神。 >>
<< (マロー・ピンク) >>
<< 特殊スキル、 >>
<< 『桃色吐息』 >>
<< ――を、獲得。 >>
<< 称号:『慈愛の化身』。 >>
<< ――を、獲得。 >>
(マロー・ピンクって……。それってもう、戦隊ヒーローのヒロイン枠だろ……! )
光の中に現れたその姿は。より鮮明に、光なのにマシュマロのように、
『ぷるん』とした、質感を帯びて震えている。
神々しさと、保護欲を極限まで、掻き立てる究極の可愛さ。
マローが呼吸するたび、周囲には淡い桜色の光子が舞う。
民はその慈愛の光を浴び、我先にと平伏した。
この世の苦しみ全てが、その桜色の光の中に溶けていくようだった。
「……くっ。エネルギーが。
止まらない……! 」
進化の反動で、有り余った光子が行き場を求めて暴走する。
マローは無意識に、山車の四隅を守護する仲間たちへ手を伸ばした。
「説明は後だ、君たちに、授ける……!
俺の光を。受け取ってくれ!」
それは、魂の契約。
マローの脳裏に、前世の記憶が光の法則が浮かび上がる。
彼は半ば自暴自棄に、その名を叫んだ。
「カイル! 君は最短波長。
闇を裂く鋭き青。真名――『マロブルー』。」
「おおぉ……!我が剣に、主の光が。」
カイルの剣が青白く輝き、一振りで雲を散らす。
「ルミナ! 君は可視光線。
世界を潤す癒やしの緑。真名――『マログリーン』。」
「マロー様……。この温もり。忘れません。」
ルミナの周囲に、枯れることのない緑の奇跡が吹き荒れる。
「バラム! 君は最長波長。
熱源となる情熱の赤。真名――『マロレッド』。」
「がははは!力が、力が漲るぞ。」
バラムの鍛冶槌が、太陽のような赤熱を帯びる。
そして最後の一人。期待に目を輝かせすぎて、
光って見えているフィオナに、マローは内心焦るが、
(やべぇ。三原色が切れた。ええい、四原色って何かあった筈だ。考えろー俺!)
「フィオナ! 君は……。
その、光を吸い込む黒。真名――『マロブラック』。」
「……黒!?」
一瞬、周囲が凍りついた。
光の神が授ける「黒」。マローは「やらかした」と、
ピンクなのに真っ青の光を放つのだが。フィオナは狂喜に震えた。
「光の全波長を内包し。解析し、無へと帰す。
『事象の地平線』……。理の到達点ですね!?」
「あ、そう! それだ。」
適当な相槌と共に、フィオナの魔導書が、
全てを呑み込み、漆黒の輝きを放ち始める。
パレードは多くの民の大歓声と共に、大成功に終わった。
マローたちは、静まり返った神殿へと戻った。
神座の柔らかなクッションに、ようやく腰を下ろしたマローは、
跪く四人へ視線を送る。
「……さて。パレードの最中に約束した、説明をしようか。」
四人の肩が、期待と緊張で、同時に跳ね上がる。
「……急に君たちを、
『マロブルー』だとか、『マログリーン』『マロレッド』
『マロブラック』などと、変な名で呼んだことだ。」
「変な名などと……!
我らには、至高の福音に聞こえました。」
カイルが、熱を帯びた声で遮る。
マローは苦笑しつつ、本題を切り出した。
「……あの時、俺の身体の中では、制御不能なエネルギーが、
溢れ出そうになっていた。
そのまま放出すれば、街の一つや二つ、消し飛ばしていただろう。」
四人の顔から、一気に血の気が引く。
「……だが、ふと思い出した。
君たちが、俺からの『褒美』を、望んでいたことをね。
……だから、
空に捨てて無駄にするより、そのエネルギーを、
君たちの魂へ直接、繋ぐことにしたんだ。」
実際は、爆発寸前の光子を、「名付け」という回路で押し付けた排熱処理だ。
「……その名は、俺の光を君たちが直接引き出せる、
『魂の回線』。
……俺の所有物ではなく、半身だと認めた証だ。」
「……マロー様……!」
ルミナが、瞳に涙を溜めて伏せる。
フィオナにいたっては、「神の半身」という、重すぎる言葉に、
過呼吸気味で震えていた。
(……よし、何とか形にはなった。……まさか、『捨て場がなかったから、
君たちに流し込んだ』なんて……。死んでも言えないな。)
あまりの罪悪感に、マローの頬は、本日何度目か分からない、
ピンク色に染まっていった。
それからさらに、奥の控え室に戻った、
マローは真っ白に燃え尽き、床に転がっていた。
「丸尾さん、お疲れ様。ピンク色の魔法少女。
最高に似合ってたよ。」
久々のサトシが、出張でパレードを見に来てくれていて、
家の炬燵に転がり込んでいる友人のごとく、そこで、
試作中のサンドイッチを、差し出しながら微笑んだ。
「魔法少女言うな……。
しかも何だよ。マロブラックって……。
俺、プリンターのインクの。残量思い出してた、
だけなんだぞ。」
「知ってるよ。
でも、フィオナさん。自分だけ対をなす色だと。
勘違いして泣いてたよ。罪な男だねぇ、神様は。」
「うるさい……。
もう一歩も外に出ない。光りすぎて消滅したい……。」
マローはサンドイッチを、
「う、まい……」と、噛み締めながら。
自身の体がまだ、淡い桜色に点滅しているのを。
枕に顔を埋めて隠した。
これが、後に『桃色の福音』と呼ばれる伝説の、
誰も知ってはいけない裏側の真実であった。
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