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最強の光神(マロー)は、二度と夜を許さない。 〜絶望の淵にいた多種族を全員幸せにします。……でも、照れるとすぐ体がピンクに光るのは勘弁してください〜  作者: 稲盛 皆藤
【第二部:建国編 ―人魔共栄の理想郷―】

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第21話:聖教国の影、見えない「夜」

「特選マロー醤油」の芳醇な香りが、三千人の胃袋を掴んでから数日。


「光の街」は、かつてないほどの活気と多幸感に包まれていた。

広場ではドワーフと獣人が、醤油の焦げる香りに誘われて、

種族の垣根を超え、笑いながら杯を交わしている。


 だが、光が強まれば強まるほど、その背後に伸びる影もまた、

 より濃く、深く、冷たくなっていく。


「……マロー様。

 例の『鼠』どもですが、少々、数が増えてまいりました。」


 神殿のバルコニー。

夕闇が迫る街を見下ろす私の背後に、音もなく一人の男が立った。

オーウェン。

かつての**『信号機爆破計画』**を未然に防いだ功労者であり、

今は「光の街」の自警団を率いる、信頼厚き影の掃除屋だ。


「やはり、聖教国か?」


「ええ。『無貌(ノーフェイス)』。

 顔を持たず、信仰の名の下に汚れ仕事を完遂する暗殺集団。

 彼らにとって、夜を否定するこの街は、神への冒涜そのものなのでしょう。

 『神は夜を安らぎとして与えた』。それが奴らの教義ですから。」


 オーウェンの報告は、事務的で、それゆえに冷徹だった。

俺は、手元の手すりを強く握る。


「……カイルには伝えたのか?」


「あ奴は光が強すぎる。この手の『生臭い』仕事は、

 私のような男が似合いですわ。

 信号の時と同じように。泥を啜るのは、古い兵隊だけで十分でしょう。」


 ……かつての俺と同じだ。


 理不尽なトラブルを未然に防ぎ、誰にも気づかれずに、

 静かに事務所のゴミを片付けていたあの孤独な深夜残業。


 (……いや。今の俺は、一人じゃない。)


 俺は、指先から微かなロイヤルブルーの光を放った。


「オーウェン。

 君にすべてを背負わせるほど、私は慈悲深い神ではないよ。

 一人で残業デッドワークをさせるつもりはない。」


「フィオナ!準備はいいかい?」


「もちろんです、マロー様!『光ファイバー魔導通信網』。

 街中の街灯を繋ぐ情報の血管……。

 これを動かす時が来ましたね、はい。」


 神殿の奥から、フィオナが巨大な魔導板を抱えて現れた。


 かつて俺が修理し、配置した街灯。

 それらは今、光子エネルギーで結ばれた巨大な監視ネットワークとなっていた。


「いいかい。これが現代の……いや、『神の防犯カメラ』だ。」


 魔導板に、街の裏路地の映像が透過ディスプレイで浮かび上がる。


 そこには、光を吸い込む漆黒の布を纏った不審な一団が、

 怪しげな筒状の魔道具――『闇の魔導兵器』を担いでいた。


「……光を消すつもりか。」


「そのようです、マロー様。あの兵器は、周囲の光子を

 強制的に反転、相殺させる代物。

 発動すれば、この街の一部は、永遠の闇に閉ざされるでしょう。」


 フィオナが、数式を宙に走らせながら分析する。


「……させないよ。

 オーウェン。君は現場で奴らの退路を。

 カイル!聞こえるか?」


 俺は通信魔法を通じ、巡回中のカイルに語りかけた。


「マロー様!?はっ、カイル、ここに!

 ……街灯に私の顔が、浮かび上がっているのですが!?」


「演出だよ、気にするな。

 今から君の魔導鎧に、最短の迎撃ルートを送信する。

 第三居住区の路地裏に、迷える羊たちが入り込んだ。


 彼らに、この街の最高の『おもてなし』を、教えてやってくれ。


 ただし、血は流すな。……わかっているね?」


「承知いたしました!我が主の慈悲のままに!騎士団、突撃ーーーッ!」


 作戦は、一瞬で決着がついた。


 暗闇に紛れようとした「無貌(ノーフェイス)」の工作員たちは、

 逃げ込んだ先で、突如として真昼のように輝きだした街灯に

 目を焼かれ、オーウェンの仕掛けた粘着性のトラップに絡め取られた。


 そこへ、カイル率いる警備隊が、物理演算を無視した速度で現れたのだ。


「……っ!? 馬鹿な、なぜ我らの位置が……!

 この闇の外套を、見通せるはずがない!」


 工作員のリーダーが、動揺して声を荒らげる。


「悪いな。この街の神様は、サービス残業で鍛えた

 『異変への嗅覚』が、人一倍鋭いんでね。」


 建物の屋根から飛び降りたオーウェンが、

 工作員の喉元にナイフを突きつける。


「それに、お前たちの担いでいるその鉄屑だが……。

 フィオナ嬢が、『旧時代のゴミ』だと、鼻で笑っていたぞ。」


 だがその時、捕らえられた工作員の一人が、不意に鼻をひくつかせた。


「……なんだ、この匂いは。」


 路地裏の食堂から漂う、醤油の焼ける香ばしい香り。


 それは、「神罰」を覚悟していた彼らの極限の緊張を、

根底から瓦解させるに十分だった。


「……ふふ、腹が鳴ったか?」


 カイルが、兜を脱ぎ、苦笑しながら一包みの包みを差し出す。


 中身は、先ほど私が試作した「特選マロー醤油のおにぎり」だった。


「毒など入っていない。我が主は、空腹の者に

 言葉を尽くすより先に、飯を食わせろと仰る方だ。

 ほら、熱いうちに食え。」


 工作員は、カイルを疑いながらも、その茶色い塊を口に運んだ。


「ッ……あまい?、いや、しょっぱい……!?

 なんだ、この、白い粒の、一粒一粒に染み込んだ

 暴力的なまでの幸福感は……!」


 信仰と任務のために、何日も乾パンだけで過ごしてきた

 彼らの、干からびた肉体に、「旨味」という名の光が

 血管の隅々まで染み渡っていく。


「……我らは、何を消そうとしていたのだ。

 この温もりを、この光を、俺たちは冒涜と、呼んでいたのか?」


 工作員のリーダーの目から、一筋の涙が溢れた。


 ――これが、私の目指す「光の統治」だ。


 武力で制圧し、恐怖を与えるのではない。

圧倒的なインフラと、胃袋を鷲掴みにする圧倒的な文化で、

敵を、一瞬で「客」へと変えてしまう。


「……マロー様。捕虜たちは全員、『特選マロー醤油の虜』となりました。

 今や彼らは、聖教国の内部情報を、おにぎり一個で、

 洗いざらい話しております、はい。」


 フィオナの報告を聞きながら、俺はバルコニーで、

「ふう」、と長くため息を吐いた。


「……神様も、楽じゃないな。」


 俺は、羞恥心で少しだけピンク色に染まった手を、夜風に晒して冷やす。


「……なあ、サトシ。君の言った通りだ。

 『万引き犯を捕まえるより、万引きしたくなくなる店を、自分の手で作れ』……。

 少しは、君の理想に、近づけているかな?」


 暗闇を照らす街灯の下。

改心した工作員たちが、カイルに連れられて教育施設へと運ばれていく。


 夜はまだ始まったばかりだが、「光の街」の夜明けは、

もう、誰にも止められなかった。

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