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最強の光神(マロー)は、二度と夜を許さない。 〜絶望の淵にいた多種族を全員幸せにします。……でも、照れるとすぐ体がピンクに光るのは勘弁してください〜  作者: 稲盛 皆藤
【第二部:建国編 ―人魔共栄の理想郷―】

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第20話:光の調味科学、無血革命

「ルミナス・マロー・ガイア共栄国」の朝は、今や魔導列車の汽笛と共に始まる。

 

 シフト制の導入から一週間。

メイのクマもようやく薄くなり、街の歯車は、驚くほど滑らかに回り始めていた。

 

 だが、組織が安定すれば、次に芽生えるのは「欲」である。

 

 「……マロー様。

  贅沢を言うつもりはありませんが、そろそろ、その……。

  『味の刺激』が、欲しくありませんか?」

 

 バラムが、乾いた干し肉を齧りながらぼやいた。

 

 エルフの菜食や、ドワーフの保存食。それらは命を繋ぐには十分だが、

「娯楽」としては、あまりに乏しかった。

 

 そんな時だ。建国祭の喧騒に紛れて、この街に居座っていた

東方出身の流浪人ハクが、不敵な笑みを浮かべて一つの木樽を差し出したのは。

 

 「神様、あんた。美食を説くなら、こいつを試してみな。

  俺の故郷じゃ『黒い宝石』と呼ばれている代物だ。」

 

 ハクが蓋を開けた瞬間。

執務室に、強烈な「暴力」が吹き抜けた。

 

「ッ……!?この、芳醇で、どこか尖った、香ばしい……。」

 

 俺の鼻腔を突き抜けたのは、紛れもない、大豆が発酵したあの香り。

 

 (……しょ、醤油だ。)

 

 前世の記憶が、津波のように押し寄せる。

 

 深夜、誰もいない事務所で、冷えた心に染みたコンビニの「幕の内弁当」。

焼き魚の端っこに添えられた、あの赤いキャップと魚の形をした、

名前すら知られていない小さな容器ランチャームから溢れる、

わずか数滴のその黒い液体の正体。

 

 バイト上がりにサトシが半分くれた、唐揚げの下味に染み込んだ

あのじゅわっとした塩味の正体。

 

「あ、あああ……。」

 

「マロー様!?大変です、波長が、精神波オーラが、

 臨界点を超えて……!

  また全身が、どピンクに明滅していますわ!」

 

 フィオナが叫びながら、観測機器を振り回す。

だが、止められない。

 

 俺の身体は、羞恥心と郷愁、そして食欲の混濁によって、

熟れすぎた桃のような、卑猥なまでのピンク色を放っていた。

 

 「ち、違うんだフィオナ!

  これは光学的な郷愁であって、決して卑しい感情では……!」

 

 「言い訳はいいから、とりあえず一口舐めな。

  話はそれからだ。」

 

 ハクに促され、俺は震える指先で、その「黒い液体」を口に含んだ。

 

 ――瞬間。

 脳内で光子演算が暴走した。

 

 「……美味ーーーい。」

 

 塩味の奥にある、深いコクと旨味。それは、単なる調味料ではない。

 

 「ハク。これは素晴らしい。だが……熟成が甘い。

  塩気が角立っているし、旨味の抽出が不完全だ。」

 

 俺は指導者の顔を作り、無理やりピンクの発光を

ロイヤルブルーへ上書きした。

 

 「なんだと?俺が十年かけて磨いた技に、ケチをつける気か?」

 

 「いや。提案だよ、ハク君。」

 

 「『光科学』による、超高速発酵管理……。

  これを、この国の基幹産業にする。」

 

 私はフィオナを招き寄せ、空中に数式を展開した。

 

 「いいかい、フィオナ。

  発酵とは、微生物による有機物の分解だ。

  私の光子フォトンで分子運動を加速させ、

  最適な温度と湿度を、『永遠に』固定する。

  時間の概念を、光で塗り替えるんだ。」

 

 「……ゾクゾクしますね、はい。

  神の光を菌の増殖に使うなんて。

  世界中の賢者が、卒倒するような贅沢です。」

 

 フィオナの目が、マッドサイエンティストのそれに変わる。

 

 そこからの三日間、私は神殿の地下に籠もった。

 

 大豆と小麦、そして塩。

それらを樽に詰め、私の指先から放たれる繊細な黄金の光で包み込む。

 

 「……マロー様。少し、楽しそうですね。」

 

 差し入れを持ってきたルミナが、クスクスと笑った。

 

 「そう見えるかな?」

 

 「ええ。かつて孤独に、街灯を直していた時のような……。

  誰かのために、何かを修復しようとする、慈愛の光を感じます。」

 

 「……修復、か。そうかもしれないな。

  俺は、みんなの『味気ない日常』を、直したいだけなんだ。」

 

 食事はただの栄養摂取ではない。心が、ふと凪ぐ瞬間。

明日も生きてみようと思えるための、静かな祈りのようなものだ。

 

 「……さて、光子加速発酵、フェーズ・コンプリート。」

 

 完成の時は来た。

 

 樽から溢れ出したのは、ハクの『黒い宝石』よりも遥かに澄み渡り、

濃厚な琥珀色の液体。

 

 名付けて、『特選マロー醤油』。

 

 広場に集まった、三千人の民の前で、俺はバラムが作った

巨大な鉄板に火を灯した。

 

「いいか、これを『テリヤキ』と言う。」

 

 焼いた肉に、『特選マロー醤油』と甘味を混ぜた特製ダレを回しかける。

 

 ――ジューッ!!

 

 爆ぜるような音と共に、広場を埋め尽くす、抗いがたい香ばしさ。

 

 「……なんだ、この匂いは!」

 

 真っ先に身を乗り出したのは、犬鼻の獣人少年、ロロだった。

 

 「腹の底が、掴まれたみたいだ!」

 

 「俺たちの知ってる干し肉が、別の生き物の肉になっちまった!」

 

 筋骨逞しいドワーフの職人たちも、仕事の手を止めて群がる。

 

 一口食べたメイは、目を見開いたまま固まった。

 

 「……マロー様。これは、反則ですわ……。

  こんなに温かくて、心が満たされる味がこの世にあるなんて。」

 

 「はは、だろう?」

 

 俺は満足げに頷いた。

 

 だが、その傍らでハクが、『特選マロー醤油』に浸した肉を

真剣な顔で見つめていた。

 

 「……神様。

  認めざるを得ねえな。あんたの光は、最高の蔵人だ。」

 

 「だが……、

  この醤油を完全に受け止めるには、

  今のこの国の飯じゃあ、まだ弱い。」

 

 ハクは懐から、一粒の「白い種」を取り出した。

 

 「俺の故郷の『米』だ。

  こいつを、あんたの光で、黄金の稲穂に変えてみな。」

 

 「そうすりゃあ、この国は本当に、無敵の理想郷になるぜ。」 


 「米、か……。」

 

 新たな課題。

 それは同時に、前世でサトシと分かち合った、

 最強のパートナーの登場を予感させた。

 

 「ああ。次は『農業革命』だな。」

 

 「夜を許さないこの街で、

  太陽の恵みを、二十四時間与え続ける。」

 

 俺は、少しだけ赤らんだ光を放ちながら、民の笑顔を眺めていた。

 

 「……サトシ。君が言っていた通り。」

 

 「お腹が膨れると、みんな良い顔をするよ。」

 

 空に浮かぶ月は、マローの放つ光に気圧され、淡く輝いていた。

 

 行政の次は、食。

着実に、最強のコンビニ国家への土台が固まっていく。


 この出来事は後に、周辺諸国にまで影響を及ぼす、

食による無血の革命と呼ばれることとなるのだが。

 

 しかし。その幸福な香りを断ち切るように。

街の外縁部から、一筋の「冷たい影」が、忍び寄っていることに。

 

 まだ誰も、気づいてはいなかった。

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