表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の光神(マロー)は、二度と夜を許さない。 〜絶望の淵にいた多種族を全員幸せにします。……でも、照れるとすぐ体がピンクに光るのは勘弁してください〜  作者: 稲盛 皆藤
【第二部:建国編 ―人魔共栄の理想郷―】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/48

第17話:光の屋台と、招かれざる「聖食」の来訪者

 神殿の静寂は、どこへ行ったのだろうか。

広場を埋め尽くすのは、三千人の空腹という名の熱気だ。


 フォトニック・エクスプレス999号の輸送力と聖女の噂が、

今朝までの三百人を十倍に膨らませた。


 私は、今すぐにでも逃げ出したかった。


「……マロー様。どうか、この光の民に、福音をお授けください。」


 カイルが真面目な顔で言うが、その背後には。

キラキラした目で私を待つ、数千人の「難民」がいる。

神として彼らの前に立ち、高尚な説教をするなんて。

社畜だった私には、あまりに荷が重すぎる。


(……そうだ。こういう時は、『裏方』に徹するに限る。)


 私は神殿の裏から、こっそり持ち出した木材と光科学で生成した鉄板を使い、

一つの「箱」を作り上げた。

そして顔には、バラムが作ってくれた「ひょっとこ」のお面を被る。


「……よし。開店準備、完了。」


 神殿の隅に、だが強烈な香りを放つ炊き出し屋台「マルオ」が。

 誰にも正体を悟られぬまま、人知れずオープンした。


「……次は唐揚げ。二個ですね。お待たせしました。」


「あ、ありがとうございます!……って、速い!?

 揚げる速度が、おかしくないですか!?」


 お面の下で、私は深夜バイトの全盛期を凌駕する、超絶的な集中力の中にいた。

光子エネルギーを熱に変換し、油の温度を一点の狂いもなく。

百八十度に完全に固定する。ジュワリ、と狐色に染まる肉。

油の爆ぜる音は、今の私には祝詞よりも心地よく響いた。


(……これだ。この、マルチタスクを淡々とこなす感覚。

 神様より、こっちの方が、よっぽど落ち着く。)


 客の動線をチラ見し、並びが乱れれば静かに指示を飛ばす。


「……三列で。詰めて並んでください。」


 その手捌きは、もはや熟練の店員そのものだった。

だが、三千人の波は、私の想像を絶していた。

休む間のない調理と接客。私の光子脳が徐々に熱を帯び。

思考が白く濁り始める。それは前世の年末商戦の悪夢だった。


「……店長さん。少し、詰め込みすぎですよ。」


 耳元で、涼やかな声がした。

ルミナがハーブティーを盆に乗せて、そこに立っていた。

彼女は私の背中に、そっと手を添える。


「……ルミナ。でも、待っている人が、まだこんなに……。」


「だからこそ、です。あなたが消えては、この街の光は、

 誰が守るのですか?」


 彼女の掌から清涼な魔力が流れ込み、私の焦りを凪いでいく。

彼女だけは、私の「神としての義務感」を正確に読み取っていた。


「……三十分だけ、代わります。配膳なら、私でも。」


「……すまない。助かるよ。」


 彼女が隣に立つだけで、屋台の空気がふわりと柔らかくなった。

彼女の存在は、私にとって何よりも確かな「アンカー」だった。


「お、おい! この屋台、何だ!?この香ばしさ……。

 聖教国では、食べたことがないぞ!」


 現れたのは、聖女セレナを連れ戻しに来た騎士ベルトラムだ。

彼は不審者である私を警戒していたはずだが、鼻を動かしている。


「……一皿、銅貨三枚です。今は無料ですが。」


 差し出したのは、サトシが送ってきたスパイスを使った唐揚げだ。

ベルトラムは、毒味だと言い訳しながら一口頬張った。


「…………っ!!」


 衝撃が彼を貫く。サクッとした衣から暴力的な肉汁が溢れ。

スパイスの刺激が、彼の脳をダイレクトに揺さぶる。


「これが、辺境の食文化!?いや、違う!

 この慈悲深き脂の輝き!救済の味ではないか!」


「……大げさですよ。ただの唐揚げです。」


 呆れていると、隣から聞き覚えのある高い声が割り込んできた。


「皆様! 見なさい!これこそがマロー様の、

 聖なる供物……。『聖食』ですわ!」


 いつの間にか、聖女セレナが私の隣でトレイを持っていた。


「……セレナ様。目立つから、やめてください。」


「神が振る舞い、聖女が配る!

 これ以上の布教が、どこにありますの!?」


「「マロー様! 聖食を!」」


 民衆のボルテージが跳ね上がり、三千人の注文が押し寄せる。


「……ちっ。揚げ方が甘いな。油の切れが、コンマ三秒遅い。」


 不意に、屋台の脇から生意気な声がした。

 奇妙な服装をし、刀を差した東方の男、ハクが立っていた。


「……何者ですか。」


「通りすがりの流れ板だ。

 名はハク。その『米』に、このタレを試してみろ。」


 ハクがおにぎりに自作の黒い液体……醤油を垂らす。

 懐かしい香りが、私の鼻腔をくすぐった。


「……悪くない。いや、美味いな。」


「だろう?

 この街には、面白い『味』がある。しばらく居座らせて貰うぞ。」


 新しい仲間(?)が厨房に陣取った時、一人の少年が走ってきた。


「マロー店長!

 あ、いや、マロー様!

 サトシさんの紹介で来ました、ポッドと申します!」


 見事な角度のお辞儀。サトシに叩き込まれたのだろう。


「サトシ君の後輩か……。よろしく頼むよ。」


 私が少しだけ、含みを持たせて微笑むと。

ポッドは感激して、顔を真っ赤に染めた。


「サトシさんからは、

『あの方は、誰よりも必死に誰かのために灯りを灯そうとする

 世界で一番かっこいい大人だ。』、と言われてきました!」


 ポッドが列を整理し、ハクが料理し、セレナが宣伝する。

ケットシーの双子、ミィとクゥが揚げたてを運んでいく。

バラバラだった個性が、不思議な調和を見せ始めた。


「ああ! マロー様の熱効率!

 フライヤーの揺らぎが、完璧な黄金比ですわ!」


 屋台の上で、フィオナが美しいホログラムを投影しながら叫ぶ。


「魔導科学と神の調理の融合!

 このデータを、舐めるように解析して……。」


「……フィオナ。怖いから、降りてきてください。」


 安っぽいジャンクな食事が、三千人の心を一つに繋いでいく。


(……サトシ。見てるか。君がくれたヒントが、国を動かしてるよ。)


 胸が熱くなり、お面の下で頬が緩む。

 ……その瞬間だった。

 隠しきれない極彩色の虹色の光が、私の体から漏れ出した。


「「「おおおっ! 神の輝きだー!」」」


 民衆が跪き、セレナが昇天しかけ、ベルトラムが号泣する。


(……違うんだ! これはただの職業的達成感というか、恥ずかしい!)


 虹色の光に包まれた、ひょっとこのお面。

 あまりにシュールで温かい光景が、街の夜を明るく照らした。

 ルミナだけは、お面越しの私に悪戯っぽく微笑んで見せた。


 だが。

 その狂騒の影、時計台の頂上に一人の老騎士が立っていた。


「……カイルの言った通りだ。この光は、あまりに眩しすぎる。」


 元騎士団副長、オーウェン。

 その眼光は、祭りに忍び寄る「無貌ノーフェイス」を捉えていた。


「……祝祭の裏で、泥を啜るのが、我ら老いぼれの仕事よ。」


 老騎士が剣の柄を叩く。

 光と影の戦いが、静かに幕を上げようとしていた。

もしよろしければブックマークや評価☆☆☆☆☆などで応援をお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ