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最強の光神(マロー)は、二度と夜を許さない。 〜絶望の淵にいた多種族を全員幸せにします。……でも、照れるとすぐ体がピンクに光るのは勘弁してください〜  作者: 稲盛 皆藤
【第二部:建国編 ―人魔共栄の理想郷―】

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第15話:透明な軌道と、非晶質の心

 神殿の最上層、天空に最も近い「聖域」と呼ばれる広大な工房。

そこには、マローが創造した純白の作業台が並んでいる。


 開け放たれた窓からは、造成が進む「光の街」の眩しい活気が一望できた。


 かつては瓦礫の山だった場所。

今は、バラムの弟子たちが建てた石造りの家々が整然と並び、

煙突からは夕餉の煙が昇っている。


 ドワーフが石を切り出し、エルフがその壁に緑を這わせ、狐の獣人たちが、

その間を機敏に駆け抜ける。


 300人の民が、それぞれの言葉で、それぞれの「生」を謳歌する音。

それは、前世のオフィス街には決してなかった、泥臭くも生命力に満ちたオーケストラだ。


 だが、工房に響く音は、行き詰まったような鈍い響きだった。


「……だめだ。どうしても、

 強固な魔力を練り込むほど、

 レールの透明度が損なわれる。」

バラムが、煤けた手で試作された金属の塊を放り出した。


 それは、フォトニック・エクスプレス999号の軌道となるはずの、特殊な魔導合金だった。


 本来、空中に固定されるレールは、景観を損なわないように、

「透明」であることがマローの理想。

 しかし、硬度を高めようと圧縮された素材は、どれも泥のように濁り、光を遮ってしまう。


「それは、物質の分子間力が、

 光に干渉しているせいなんだ。」


 ロイヤルブルーの光玉から、静かに人型へと戻ったマローが、作業台の前に立った。

彼は指先を金属に触れ、その内部構造を透視するように、静かに目を閉じる。


「バラム。分子同士が強く

 引き合い、完璧に並ぼうとすれば、

 それは結晶になるんだよ。」


「結晶……。それが、

 強さの証ではないのですか?」


 フィオナが、眼鏡を押し上げ、不思議そうに首を傾げる。

 マローは、空中を指でなぞり、光の粒子で三次元の格子構造を、

ホログラムのように描き出した。


「規則正しく並びすぎた構造は、

 その境界で光を散乱させてしまう。

 ……まるで、強すぎる絆が

 他者を拒絶する、壁になるように。」


(……かつての私は、その壁の外側で、ただ消えゆく街灯を見上げていた。)


 ふと、前世の孤独が、胸の奥をチリリと焼く。


 深夜、誰とも言葉を交わさず、陳列棚を整えていたあの時間は、

 分子の並びを整える作業に似ていた。


 整然と並ぶ商品。

 完璧な角度で揃えられたラベル。


 そこには美しさがあったが、誰かの体温を感じる隙間は、どこにも存在しなかったのだ。


 マローは、模型を崩し、わざと不規則な粒子の群れを作った。


「透過率を高めるには、

 あえて非晶質、つまり

 バラバラの状態が必要だ。」


 マローの視線の先。広場では、種族の違う者同士が、互いの習慣に戸惑いながらも、

一杯のスープを分け合っている。


(……この街と同じだ。バラバラなまま、同じ場所で固まっているから、光が中まで届くんだ。)


「バラバラのまま……固める?

 それでは、強度が保てぬのでは!」 

バラムが叫ぶ。


 マローは、その言葉を待っていたかのように、物理学と魔法学を混ぜ合わせた、

新たな式を提示した。


     E=φ(mc²)   


「……マロー様、この φは何ですか?」

フィオナが数式の一部を指差す。


「それは、僕たちの『意志』や『魔力』が物理法則に干渉する割合

 ……魔力干渉定数だよ。

 物理的な質量(m)を、**魔力干渉定数 φ **によって、

 光子エネルギーへと等価変換し、分子の隙間に充填するんだ。」


「……マロー様、これは!もしかして、エネルギーの透過率を上げることで、

 物質の質量を等価的に、光へと変換する術式ですか!?」


「かつての物理学では、質量とエネルギーは不変の法則に縛られていた。

 だが、この世界では「魔力」という接着剤が、

 本来なら崩れてしまうバラバラな分子を、

 強固に、そして透明なまま繋ぎ止める。」


 フィオナが、興奮で、狐の尻尾を激しく左右に振りながら、

マローの描いた数式の説明に食いついた。


「……ああ、まあ、そんな感じ。

 フィオナ君、ちょっと、

 顔が近いよ。落ち着こうか。」


 マローは、たじたじと後ずさり、バラムへ向き直った。

かつての深夜バイトリーダー、サトシ君に無茶振りをされた時のような

懐かしい感覚が、背中を通り抜ける。


「バラム、君の技術が必要だ。

 分子が固まるその瞬間に、

 僕の光で構造をフリーズさせる。」


「……やってみせましょう。

 このバラム、神の御業を

 形にできねば、ドワーフの名が廃る!」


 バラムが巨大な槌を振り上げる。

 マローが中心に立ち、両手から眩いばかりの、純白の光子を放射した。


 槌が振り下ろされると同時に、光が金属の奥深くまで浸透する。

熱と光が、ミクロの世界で物質の絆を再構築していく。

 それは、バラバラな個性が、一つの目的のために重なり合う、

この街のあり方そのもののようだった。


 やがて、光が収まった時。

そこには、まるで夜空を切り取ったかのような、透き通る一本のレールがあった。


 透明でありながら、触れればダイヤモンドよりも硬く、虹色の光を内側に閉じ込めている。


「……美しい。

 これが、フォトニック・

 エクスプレス999号の道、ですか。」


 ルミナが、その輝きに打たれたように、そっと触れる。

 マローもまた、完成した道を見つめていた。


(……繋がるんだ。この透明なレールが、孤独だった誰かを、運んでいく。)


 神殿の広場に身を寄せ、怯えていた300人の民。

彼らがこのレールの上を走る鉄の獣を見た時、初めてこの場所を国と呼べる。


 そう思った瞬間、彼の心に温かな達成感が満ち、無意識のうちに反応が出る。

 

 ポッと、頬が。そして全身が、柔らかなピンク色の光に包まれていった。


「あ……。マロー様、また、その……素敵な色が。」


「……違うんだ!

 これは、急激な魔力消費による排熱現象で、決して、その!」


「マロー様。神様がそんなに真っ赤になっては、

 隠し事ができませんな!」


 バラムが豪快に笑い、フィオナは熱心にその発光現象をメモ帳に書き込んでいる。


「恥ずかしい……!今の科学的な説明、

 全部アーカイブから消してくれ!」


(……神様なのに、全然威厳が保てない。でも、この賑やかさが……。

 消えない街灯よりも、ずっと明るい。)


 マローは、顔を覆いながらも、心の中では、二度と来ないはずだった

温かな夜を噛み締めていた。


 まだ数メートルの試作レール。

けれど、その向こう側に、300人の、そしてまだ見ぬ多くの民の笑顔を、彼は確かに、

予見していたのだ。

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