第13話:光の揺らぎ、人の体
お待たせしました、【第二部:建国編 ―人魔共栄の理想郷―】開幕です。
サトシを送り出す前夜だった。
俺は、 広大な荒野に「光の神殿」を一夜にして顕現させた。
指先から漏れる光子エネルギーを、一般相対性理論に基づき、重力子と干渉させ結晶化させる。
乳白色の柱が夜空を突き刺し、周囲の闇を暴力的なほどに、清浄な輝きで塗り替えていった。
「マロー様、これは……! 我がドワーフの建築技術すら過去の物とする、完璧な構造だ。
この梁の曲線、神の業としか言いようがありませぬな。」
バラムが柱を撫でて震える中、 私は人型の姿で、 忙しなく手を動かしていた。
「……ただのシェルターだ。 サトシを送り出す前に、 温かい飯を食える場所が、
どうしても欲しかっただけだ。」
完成した広間には、前世の記憶を頼りに「修復」した円卓を並べた。
瞬く間にパーティルームの完成である。
この世界には、太陽が東から昇り西へ沈む常識はなかった。
だがマローの光は、街灯を共鳴させ時の概念を刻む。
「……マロー様。街灯が、橙です。」
カイルが顔を上げて、空を仰ぎみてマローに告げた。
彼は本日、到着予定であるゲストの時間を気にしていた。
「……ああ、もう、そんな頃か。」
前世の、納期のような、重圧にも感じ、一瞬顔をしかめたので、
どす黒い発光を予見させたが、すぐに聞いていたアポイントメントのことを
思い出したので、慌てて今の時刻と同系色の橙色へと戻った。
丁度そこへ、カイルの紹介で現れた大商人ゼノスの一行が到着したのだった。
黄金の刺繍を纏うゼノスの後ろには、一癖も二癖もありそうなプロフェッショナルたちがいた。
「……隙がない。 この神殿の主、底が見えん。
私の剣筋すら、 光に呑まれるのが予見できる。」
隻眼の剣士ザザが、低く呟く。 彼は常に剣の柄に手をかけ、 私の「人としての揺らぎ」を射抜くような目で見つめていた。
「ザザ、剣を収めろ。 マロー様は、我々の 新しい顧客になられるお方だ。」
ゼノスがたしなめるが、 ポンドという文官は手元の計算機から目を離さない。
「計算が合いませんな。 この建築物の質量に対し、 放出されているエネルギー量。
概算見積もりが書けませんよ。 資産価値の概念が崩壊しておりますな。」
「ふふ、ポンド。 数字で測れるお方ではないわ。
金の匂い以上に、 清らかな魔力の香りがする。 あぁ、抱かれたいほどの光……。」
魔法士リナが、 熱っぽい視線を私に送る。
俺は、その過剰な視線にたじろぎながらも、完成した料理を円卓へ運んだ。
「……皆さん、どうぞ座ってください。 今日は、サトシの門出です。
不器用な料理ですが、 味だけは保証します。」
円卓に並ぶのは、 私が再現した鶏の唐揚げだ。
「……これ、あの駅前の コンビニのホットスナックか?」
サトシが驚きの声を上げる。
私は誇らしげに、 だが少し照れながら頷いた。
「油の温度は百八十度だ。 二度揚げのタイミングを、 光子演算で完璧に管理した。」
私は、猫舌の誰かさんのように恐る恐る肉を口にした。
「……美味いな。 本当に、美味い。」
瞳が虹色に潤む。 涙が流れだすのを必死に我慢した。
人型の姿で感じる「味覚」が、 凍えた心を解かしていく。
(……残業帰りの、 あの冷え切った、 コンビニ弁当とは違うんだ。)
(誰かと囲む食卓が、 こんなに、胸を、 熱くさせるなんて……。)
幸せを感じた瞬間、 私の体は正直に反応してしまった。
頬が、ぼうっとピンクに光る。
「マロー様、口の横にタレが。 ……ふふ、神様も案外、 可愛らしい食べ方をなさる。」
ルミナが布でそっと拭うと、 私の全身が鮮やかなピンクに発光した。
「ち、違うんだ、これは 代謝が急激に上がっただけで!」
(……恥ずかしい! 消えたい! 光だけど消えたい!)
ゼノスが面白そうに、ワイングラスを傾けた。
「ほほう、感情が発光に直結。 これは交渉の際、 嘘がつけませんな、マロー様。」
「……ゼノス、 マロー様をからかうな。 失礼だぞ。」
カイルが窘めるが、 ザザもわずかに口角を上げた。
「……面白い。 神というより、ただの、 不器用な男のようだ。」
夜が更け、宴が終わる。
翌朝、サトシが機械に乗り込む。
「丸尾さん。自分を見失いそうになったら、これを思い出せよ。」
手渡されたのは、インクの切れた、 安っぽいプラスチックのペン。
「……ありがとう。大切にする。」
機械が去った後、私は 誰もいない神殿の影で、 そっとペンを強く握りしめた。
「……またな、サトシ。」
その呟きと共に、私は ロイヤルブルーの光玉へと戻る。
青い光の奥で、折れたペンが 小さな星のように輝いていた。
(……明日を、明るくする。 今度は私が、街灯になる番だ。)
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