第12話:神様はピンクに光って再会する
静寂が、戦場だった広場を、重苦しく支配していた。カイルたちが剣を握り直し、ルミナが矢を番え直し、乾いた衣擦れの音さえ、今は不吉な予兆に聞こえた。
無理もないことだった。
全波長照射という神の権能。
その眩い光の渦の中から。
この大陸のどの種族も纏わぬ。
青と白の縞模様の装束を着た。
一人の男が現れたのだから。
「何者だ、貴様。!」
「その汚らわしい手を。マロー様から退けろ。!」
カイルの鋭い怒声が飛ぶ。彼は騎士としての本能で、マローという「完璧な神」を、守ろうと必死に間合いを詰める、その剣気は、本物だった。
だが、青い縞模様の制服――。コンビニのバイトリーダー、サトシは殺気などどこ吹く風で、小指で耳をほじりながら、眩しそうに「光の球体」である、俺をじっと見つめていた。
「誰っすか、マロー様って。。」
「これ、どう見ても。。」
「丸尾さんでしょ。。」
「その追い詰められた時に出す。。」
「絶妙にキモい。営業スマイルの波動。。」
「なっ……! 貴様、今。!」
「マロー様を。キモいと言ったか。!?」
カイルが驚愕で目を見開く。崇拝の対象を侮辱された。彼のプライドが音を立てて軋む。
「カイル、落ち着いて。!」
「でも、マロー様の。光が乱れているわ。。」
ルミナが困惑しながら俺を見る。
俺は必死だった。
思念波をサトシだけに絞り。
全力の懇願を叩きつける。
(サトシ! お願いだ。。) (声が、デカい。!) (空気を読んでくれ。!)
「空気読むも何も。。」
「丸尾さん、あんた。。」
「なんでそんな。電飾みたいな姿。?」
「新手のコスプレ。?」
(コスプレじゃない。!) (これでもこの世界の。八百万の光を束ねる神なんだ。!)
(お願いだ、今は。話を合わせてくれ。!)
「神様ねえ……。。」
「あ、そういえば。。」
「丸尾さん、あんた。。」
「昔、店の裏で。。」
「俺はいつか光になる、って泣きながら。。」
「おでん食って、ましたよね。?」
「やめてええええ。!!」
俺の絶叫が思念波となって。
広場全体に響き渡った。
孤独な夜にノートへ綴った。
自作の痛いポエム。
その断片を白日の下に晒され。
俺の光子エネルギーが暴走する。
俺の体は、一瞬で、どぎついピンク色に染まった。
「おお、なんという慈愛。!」
「マロー様が。桜色に輝いて……。。」
「勝利を。祝っておられるわ。!」
ルミナが感激で涙を流す。
「違うわ、ルミナ。!」
「この波長は。慈愛なんかじゃない。。」
「隠し事が見つかった。拒絶反応よ。!」
フィオナの計測器が。火を噴かんばかりに回転する。
「余計な分析はやめろ。!(泣)」
俺はピンクに明滅しながら、必死に抵抗を試みる。だが、その間にもサトシは、俺が酔って語った、設定の数々をバラそうとする。
「おい、縞々の男。!」
「マロー様と、どんな。知り合いだ。!」
「正直に話せ。!」
バラムが重い槌を肩に担ぎ。一歩、サトシへ詰め寄った。
「知り合いっていうか。。」
「この人、俺の元先輩。。」
「あ、最後、先輩就職する前に、俺の方が先にバイトリーダーになったから。。」
「俺の元部下っすね。。」
「ぶ、部下ぁ。!?。世界を救った神が。貴様の部下だと。!?。」
カイルの剣先が震える。「神」という崇高な存在が、「コンビニの部下」という概念に上書きされていく。。。
(待てカイル! 落ち着け。!) (彼は、異世界の。。) (インフラ整備の。最高責任者なんだ。!)
「また、さらっと。嘘つきましたね。?」
「俺、店員っすよ。。」
「弁当やサンドイッチの廃棄の管理なら。まあ負けませんけど。。」
サトシは呆れ顔で、手に持っていたビニール袋を、ひょい、と差し出した。
「ほら、これ。。」
「丸尾さんが俺に取り置き頼んでた。新発売のからあげ弁当。。」
「冷めてますけど。食います。?」
からあげ弁当。その響きが、凍りついていた俺の意識を、優しく溶かしていく。
深夜のオフィス街、消えた街灯の下で、俺が最後に求めていたのは、ただ、この安っぽい食事と、「お疲れ様」の声だった。
(……サトシ。。) (お前、それを。持ってきてくれたのか。?)
「たまたま持ってた。ら、穴が開いて。。」
「気づいたら、ここ。。」
「運ぶの、苦労したんすからね。。」
俺は、決意した。
神としての威厳よりも、友人が差し出したその弁当を受け取るべきだと、光を一点に収束させ、球体の輪郭を、解く。
眩い光の中から。一人の男が、姿を現した。
「マロー様……。?」
仲間たちが息を呑む。そこに立っていたのは。前世の、疲れ果てた、丸尾一の姿ではなかった。
かつて俺が、唯一の趣味で、死ぬほどやりこんでいた。シミュレーションRPG。その理想の主人公。 人魔共栄圏を築き上げる、気高く、美しい「英雄」の姿だった。
銀色に輝く、光科学の意匠を凝らした装束、均整の取れた高い背丈、怜悧ながらも、どこか慈愛を感じさせる、彫刻のように整った顔立ち。
カイルたちが、ひれ伏しそうになるほどの威風堂々たるその姿は、まさに、光り輝く神の受肉。
しかし、その完璧な「英雄」の顔には、あまりにも似つかわしくない、死んだ魚の目をした、情けない営業スマイルが張り付いていた。
そして、伝説の宝具でも握るような神聖な手つきで、彼は油の染みた、コンビニ袋を受け取った。
蓋を開け、からあげを口にする。衣は少し湿気ていて、脂は白く固まりかけていた。けれど、涙が出るほど、懐かしくて温かい味がした。
「……あ、まい。。」
「美味いな……これ。。」
「でしょ。?」
「あんたが、死ぬほど。楽しみにしてたやつ。。」
サトシが少しだけ、不器用そうに口角を上げた。彼は、俺が英雄の姿だろうが、神様だろうが、全く気にしていないようだった。
「丸尾さん、あんた。。」
「ここで神様やるなら。作っちゃえばいいでしょ。。」
「まず看板、レジ、カウンター、什器、ゴミ箱。。」
「それから。ホットスナック。。?」
「コンビニを。?」
「当たり前でしょ。。」
「俺が。リーダーなんですから。。」
カイルたちが呆然とする中、俺とサトシの、奇妙で、けれど誰よりも確かな再会が果たされた。
救世主の正体は、憧れの姿を纏った、社畜。けれど、その横に、弁当を差し出す友がいれば、二度と、夜を恐れることはない。
「あ、丸尾さん。。」
「あの『闇の堕天使』。。」
「続き、楽しみっすね。。」
「……お前は。今すぐ消しておく。。」
弁当を食べ終えたマローは、また元の光の姿に形を変えて、ピンク色の光で周囲を照らした。
「マロー様、また愛らしい。。お姿に。。。触っても。。いいですか?。」
「いえ、マロー様。。私のおそばに。。」
フィオナとルミナが、いつもの取り合いを始めたようだった。
賑やかな仲間の声と共に。
ルミナス・ガイアの夜を。
どこまでも明るく。
けれど少しだけ。
照れくさそうに照らし続けた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
これにて第一部「黎明編 ―光神の目覚めと救済の灯―」完結です!
暗闇の中で一人、誰にも気づかれずに消えた「丸尾一」が、異世界で信頼できる仲間を得て、
ついに前世の孤独を知る唯一の友・サトシと再会を果たしました。
理想の英雄の姿を纏いながらも、その中身は冷めた弁当一つに涙する、かつての青年のまま。
そんなマロー(丸尾)の歩みをここまで見守ってくださり、心から感謝申し上げます。
第二部からは、いよいよ舞台は「建国編」へと移ります。
マローが前世で夢見た「人魔共栄の理想郷」を築くため、サトシがもたらす現代の知恵と
マローの光科学を融合させ、夜の来ない都を創り上げていく物語が始まります。
神として崇められながらも、相変わらず照れてはピンク色に光ってしまうマローの受難(?)
にも、ぜひご注目ください。
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皆様の応援こそが、マローが世界を照らし続けるためのエネルギー源です。
第二部も、どうぞよろしくお願いいたします!
ご精読誠にありがとうございました。m(__)m




