第11話:光、絶望の淵を暴く
それは、俺の前世に似ていたのかもしれない。俺の記憶の中では、すべてが闇に塗り潰された世界。
指先さえ見えないほどの暗闇は、存在そのものを否定するかのようだった。
深夜のオフィス街。消えた街灯。あの世界から存在が無くなった時にも、誰にも気づかれず。
俺は、まるでただの透明な粒子だった。
ルミナス・ガイアを包囲した闇。 「深淵の魔王軍」が放った結界は、視覚だけでなく、魔力探知さえも容赦なく奪った。極めて冷酷に遮断し、私を独りにしようとしている。
(ああ、また、これか……)
光の神などと呼ばれていても、中身は、あの夜の丸尾一のままだ。
誰もいない。
何も見えない。
俺の光は、誰にも届かない。
そう思った瞬間、闇の奥から、震えているようであり、けれど確かな声が響いた。
「……マロー様! どこだ!」
カイルの声だ。
いつもは冷静な騎士の彼が。
喉が張り裂けんばかりに叫んでいる。
「無駄よカイル。この闇は因果を。遮断する魔法……。
でも、私は。マロー様の『熱』を感じるわ!」
ルミナの声だった。
エルフの彼女が、目に見えない俺の、存在を信じて、闇に手を伸ばす。
「旦那! 逃げ出したりしねえよな!あんたがいないと、この街の。街灯は誰が直すんだよ!」
バラムの野太い声が、空気を震わせた。
最後に、聞き覚えのある理知的な少女の声が、俺の意識の深層へと、滑り込んだ。
「思い出してください、マロー様。光は、観測者がいて初めて、この世界に実在できるのです。
私たちが、あなたを見ています。あなたの光は、決してもう孤独ではありません!」
フィオナの叫び。
魔導学者である彼女の言葉が、俺の理論(光科学)と物理的に、火花を散らしてスパークした結果、その歯車が噛み合った。
「……みんな。ありがとう。」
声には出せない。
光の粒子である俺には、喉がない。
けれど、胸の奥が熱く焼ける。
これは、羞恥心による発光ではない。
他者と繋がるために燃える、熱だ。
前世の俺は、誰にも観測されなかった。
だから、あの暗い道で消えた。
けれど今は、俺を呼ぶ声がある。
俺を「マロー」と定義する。
かけがえのない仲間たちが居る。
「……二度と、夜は許さない。」
俺は、自身の存在を燃料にする。
孤独だった過去を、影さえ残さず。
焼き尽くすための、光子変換。
相対性理論、エネルギー等価原理。
魔法という曖昧な概念を。
光科学という、絶対的な理で上書き。
「全天……全波長照射ッ!」「ピッカ、ピッッッカ、ピッッッッカー!」
俺の体から、言葉では決して表現できない、誰にも直視などできない程の大きな光、虹色の奔流が溢れ出た。それは夜を拒絶する白き太陽と言うべきか。闇を打ち消すのではない。闇など最初から無かったかのように。世界を「正しく」塗り替える光。
光の津波が、結界を粉砕した。その余波は、崩れかけた城壁を、人々の傷ついた心身を、包む。
「修復」の属性を持った光子。かつて、壊れた街灯を直したいと、切実に願った社畜の祈りが。
これまで魔法研究者たちの常識であった、火・水・風・土・光・闇の6属性の範疇では収まらない、
新たな属性の誕生を今、みんなが見ている、感じている、世界を救う神の業、新星誕生ビッグバンを。
「……ま、眩しすぎます、マロー様!」
カイルが盾で目を覆いながら。けれど、どこか嬉しそうに笑う。
「ふふ……。やっぱりあなたは。私たちの、太陽なのね……。」
ルミナが膝をつき、祈りを捧げる。
バラムは「目が痛ぇ!」と嫌そうに笑っている。
「信じられない……全波長発光だなんて。全エネルギーが、愛に変換されて。
……あ。いえ、羞恥心ですか?なんてかわいいお方、触ってもいいでしょうか!」
フィオナは言葉を発しながらではあるが、
狂ったように、手元の、計測器を叩いて、数値を追っている。
「……まあ、触れないと思うけど、
いいよ、でも余計な分析は、やめてくれよ。」
思念波が、街全体に優しく響く。
闇は去った。
ルミナス・ガイアには今、かつての深夜のコンビニのような。
不自然なほど明るく、けれど、どこか安心する光が、満ちている。
だが、代償はあった。
あまりにも巨大なエネルギーの放出。
それは、世界の壁を薄くする。
俺の背後で、空間がガラスのようにひび割れ、奇妙な音が鳴った。
「……あ、まい。美味いな……これ。」
かつて、仲間と繋がった時の言葉。
その、ささやかな幸福の記憶が。
次元の裂け目を、無理やりこじ開ける。
光の粒子が、一点に収束し。
現世と前世の、境界線が溶け出す。
眩しさに目を細めた私の前に、一人の青年が、落ちてきた。
青と白の、どこか懐かしい、縞模様の制服。
手には、ビニール袋。
だが彼にも、俺と彼との思い出の記憶が見えていたらしい。
光り輝く玉のような俺を見上げて。
呆然と、口を開いた。
「……え。丸尾さんなの?」
その瞬間、神としての威厳も、シリアスも、すべてが、音を立てて崩れ去る。
俺は、咄嗟に、営業用の、あの情けない笑顔のイメージを。死んだ魚の目のような、微笑のイメージを。彼に向けて、浮かべていたようだった。
「……何やってんすか、こんな。キラッキラした、神様ごっこ。」
サトシ。
俺の、唯一の理解者。
そして、最強の脅威となるであろう彼が。
今、異世界に足を踏み入れた。
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