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最強の光神(マロー)は、二度と夜を許さない。 〜国民的ゲームの主人公になって、絶望の淵にいた多種族を全員幸せにします。……でも、照れるとすぐ体がピンクに光るのは勘弁してください〜  作者: 稲盛 皆藤
【第一部:黎明編 ―光神の目覚めと仲間たち―】

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第1話:光の中に死し、光の中に目覚める

 足元を照らす街灯は、 切れた電球を晒して沈黙していた。 丸尾一(まるお かず)の意識は、 冷たい地面の上で薄れていく。 深夜二時。街は寝静まり、 助けを呼ぶ声も届かない。 削り取られた精神には、 恐怖よりも納得感があった。


 思えば、ずっと、 この街灯のようだった気がする。 誰かの帰路を照らすために立つが、 誰もその存在を意識しない。 当たり前にある風景として、 ただ日常の一部に溶けている。 電球が切れてようやく、 「不便だ」と疎まれるだけの存在。 役目を終えれば、 見向きもされないただの鉄の塊だ。


 週休一日。連日の深夜残業。 上司の機嫌を伺いながら、 無意味な修正を繰り返す日々。 「代わりはいくらでもいる」 その言葉通り、 俺の人生は誰かに消費されるため、 用意されただけの部品だった。


 俺が今日ここで死んでも、 世界は何一つ変わらないだろう。 明日の朝には、 別の人間が俺の椅子に座る。 その人間もまた、 誰にも気づかれずに働く。 世界が何事もなく動く「正しさ」が、 ひどく冷たく、残酷だった。


(……ああ。疲れたな)


 そんな乾いた生活の中で、 唯一の呼吸が、国民的RPGだった。 『レジェンド・オブ・ライト』

人魔が共栄する理想郷を目指し、 光の勇者が仲間と歩む物語。 暗いワンルームの部屋で、 画面の輝きだけが俺の居場所だった。


 ゲームの中の俺は、 誰かに必要とされ、感謝された。 傷ついた街を直し、 孤独な多種族に手を差し伸べた。 (……本当は、俺だって。 あんな風に、誰かを照らしたかった。) その願いは、 キーボードを叩く指と共に、 深夜の静寂に沈んでいく。


 鏡に映る自分の顔は、 もう数年も直視していない。 いつからか、 表情を殺して微笑む癖がついた。 本心を隠し、都合よく笑う。 そうしていなければ、 心が摩耗して壊れてしまうから。


 見上げた夜空には、 星も月も、救いの光もない。 壊れた街灯の無機質な輪郭が、 闇の中にぼんやり浮かんでいる。 それは自分を見捨てた世界の、 冷酷な象徴のように見えた。 救いのない孤独と、 寄る辺ない絶望。そして、怒り。


 自分を照らさなかった、 この暗闇への静かな拒絶。 (俺は……消えたくない。 誰かに、見つけてほしい。) 視界が完全にブラックアウトし、 最後の一息が漏れ、鼓動が止まる。 俺の人生は、何一つ残せないまま、 ここで終わったはずだった。


 ――だが。 次に彼を襲ったのは、 暴力的なまでの熱と輝きだった。


「……っ!? まぶし……、え?」


 目を細めようとして、 自分にまぶたがないことに気づく。 自身の内側から、 見たこともないエネルギーが溢れる。 それは枯れ果てた魂のひび割れを、 慈しむように、隅々まで満たす。 温かくて、それでいて、 恐ろしいほどの密度を持った力。


 体を見ようとして息を呑む。 そこにはもう、肉体などなかった。 手も、足も、 残業で重かった肩も消えた。 漂っているのは、 一粒の高密度な「光の粒子」だ。


 それは中心に核を持ちながら、 外側はぷるんと弾力がありそうな、 柔らかな光に包まれている。 まるで光でできたスライムのような、 不思議な愛嬌を放っていた。


「俺は……光になったのか?」


 周囲を見渡すと、 そこは見覚えのある場所だった。 唯一の心の支えだった、 あのゲームの神殿の廃墟だ。 始まりの地、『黎明の神殿』。 かつての栄華は見る影もなく、 石造りの柱が虚しく倒れている。


 近くには、 崩れ落ちた大理石の石柱があった。 かつては美しかった彫刻も、 今は苔むし、無残に砕け散っている。 地面に打ち捨てられた、 その「放置された欠損」が、 あの夜の街灯と重なり、 光核の芯が熱く脈動した。


(誰も直さないのか。 誰も、これを見ないのか。)


 胸の奥が、言葉にならない、 鋭い熱を持って震えだす。 壊れたまま放置されることの、 耐えがたい悲しみと、憤り。 それは前世の俺が、 誰にも言えなかった叫びそのものだ。


「……もう、壊れたままなのは嫌なんだ。」


 マローとして目覚めた彼の意思が、 純白の波動となって弾ける。 光の触手が石柱に触れた瞬間、 周囲の空気がキィィィィィンと震えた。 世界に無視されてきた男が、 初めて世界に干渉し、色を塗り替える。 光子エネルギーが石柱を包み込み、 時間を巻き戻すように再構築する。


 砕けた破片が吸い寄せられ、 深いヒビが眩い光で埋まっていく。 物理法則を無視した、 圧倒的な「修復」の権能。 かつての姿よりも、 さらに白く、滑らかに、神々しく。 柱は、闇を切り裂くような、 銀色の輝きを取り戻した。


 あまりの神々しさに、 瓦礫の陰から、一人の少女が、 震える声を漏らした。


「……神様……? 本当に、光の神様なの……?」


 ボロボロのローブを纏った、 一人の獣人の少女が歩み寄る。 彼女の瞳に映っているのは、 暴力的な破壊の光ではない。


 神々しいほどに白く輝きながらも、 どこか、ぽよぽよとしていて、 思わず触れたくなるような、 可愛らしい「光の塊」だった。


「……あの、光の……神様?」


 震える声で問いかけられ、 俺は激しく動揺した。 何せ前世では、話しかけられるのは 怒られる時くらいだったからだ。


「あ、えーと。俺は……」


 名乗らなければ、と思う。 だが、今の俺に名前なんてあるのか? とっさに、前世の自分の名字が、 ノイズ混じりの思考に浮かんだ。


「まる……、お……」


 光の粒子が震え、 音というよりは精神波として、 彼女の脳裏に響く。 だが、うまく発音できなかったのか、 少女はパッと顔を輝かせた。


「……マロー様。 マロー様とおっしゃるのですね!」


(いや、丸尾なんだけど……。 マロー。……まあ、いいか。)


 暗い部屋で一人、ゲームをしていた あの頃の俺はもういない。 「マロー」という響きは、 この世界に新しく生まれた、 俺自身の名前のように感じられた。


「……ああ。俺は、マローだ。」


「マロー様……。 ずっと、お呼びしていたのです。 私たちの……光に……」


 少女は涙を浮かべ、 祈るように手を合わせた。 自分を見つめる、 純粋な驚愕と尊敬に満ちた瞳。


 他人と目を合わせることを、 ずっと避けてきた元社畜にとって、 それはどんな攻撃よりも破壊力がある。 逃げ場のない「肯定」の光を浴びて、 内なる自意識が爆発した。


 直後、純白だったマローの全身が、 ボフッという音と共に、 鮮やかなピンク色に染まった。


「……わぁ。 マロー様、桃色になりました……。 とっても、きれいです……」


 フィオナが頬を赤らめて呟く。 その可愛らしい発光体に、 彼女は恐怖を忘れ、 そっと手を伸ばしたくなる。


「ち、違う! これはただの光学的現象だ!」


「光学的……げんしょう?」


「そう! 気象条件とか、その、 光の屈折率が変わっただけで……」


「マロー様、 ぷるぷる震えています……」


「わ、笑うな! 笑ってないか。 とにかく、照れてるとかじゃない!」


 最強の光神。 しかしその内側には、 自分をどう扱えばいいか分からない、 小心者の男が困惑したままいた。


「マロー様、 どうか、私たちの街を……。 暗闇に沈んだ、 みんなを助けてください。」


「助ける……。 俺が、誰かを……?」


 かつて、夜の街灯の下で、 誰にも見られず消えた男は、 少女の小さな手を取るように、 ふわりと宙に舞い上がった。


「わかった。 約束する。 俺が、もう二度と闇を許さない。」


 闇のない理想郷を築く叙事詩は、 この神々しくて、 ちょっぴり照れくさい光から、 今、ここに開幕したのだった。

もしよろしければブックマークや評価などで、応援よろしくお願いします。

メジャーデビューした時に、「私、最初で最古の推し」と自慢して下されば幸いです。


深夜残業の帰り道、孤独死した俺が転生したのは――一粒の「光」でした。

最強の光子エネルギーによる【修復】と、元社畜の【建国】。

二度と夜を許さない、光のマローによる圧倒的叙事詩、開幕です!

(※でも、照れるとすぐピンクに光っちゃいます。ご容赦ください)

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