蚕の恋~憧れの二人~
お互いを呼び合う名前が、
「たま」「田川君」から、
「優里」「聡」に変わった――
それくらいの違いだと思っていた。
そうだよね。
恋人、だもんね。
そんなことを考えながら、うっとりしている私に、
「他人のキス現場見て、何でそんな顔してんの?」
と、呆れた声で言う石橋君。
……私たちには、あんな可愛い時代、無かった。
――たぶん。
「健ちゃんは、少し田川君の純情を分けてもらって来なさい!」
目を据わらせて言うと、
「はぁ? キスはキスだろ?」
とか言ってる。
(私、ファーストキスでいきなり舌入れられそうになって、あんたを引っぱたいたよね!?)
ギロリと睨み上げると、
「繭花。男なんてみんな……中身は一緒」
ぽん、と肩を叩かれて、思わず溜め息が漏れた。
――どうして、こんな遊び人を好きになってしまったんだか。
それでも、石橋君なりに私を大切にしてくれているのは、ちゃんと分かっている。
……分かっては、いるんだけど。
でもさ。
女の子なら一度くらい、あんなふうに――
大切に、大切に扱われてみたいよね。
泣いてばかりいたたまちゃんが、今は毎日笑っている。
「私も、あんなカップルになりたかったなぁ……」
思わず呟いた私に、
「じゃあ、俺たちもあんな感じにする?」
そう言って、いきなり腰を引き寄せられ、キスをされた。
――ここ、廊下。
いつ誰が通るかも分からないし、
ロマンチックの欠片もない。
その瞬間、小野君の言葉が脳裏をよぎる。
『あいつ、バカでアホで、すんげぇ最低なんだよ』
……そうだね、小野君。
勉強が出来るのと、人の感性は、どうやら別物らしい。
「はぁ……」
今度は、完全に落ち込んだ溜め息。
「なんだよ!」
「もういいよ。健ちゃんにロマンチックを求めた私がバカでした」
そう呟くと、石橋君は何やらブツブツ文句を言っていたけれど……。
それでも。
私にとって、あの二人は憧れのカップルだ。
お互いを大切に想い合い、自然に寄り添う二人。
――ずっと、ずっと。
そんな二人でいて欲しい。
心から、そう願わずにはいられなかった。[完]




