蚕の恋~恋人になった二人~
色んなことがあって、田上さん――たまちゃんと田川君が付き合い始めた時は、本当に嬉しかった。
実を言うと、クラスでもほとんどの人が、田川君の恋を応援していた。
(みんな田川君の気持ちに気付いているのに、唯一気付いていないのが、たまちゃんっていうのがね……)
思わず苦笑いが零れる。
二人の距離がゆっくりと近付き、いつしか並んで歩くのが自然になった頃。
私は、偶然にもその瞬間を目撃してしまった。
その日は、石橋君が進路相談で放課後に担任へ呼び出されていて、私は図書室で本を読みながら時間を潰していた。
ふと窓の外を見ると、渡り廊下を歩くたまちゃんの姿が見えた。
本を返却し、何となく彼女が向かった方へと足を向ける。
すると――
「きゃあ!」
たまちゃんの悲鳴が聞こえ、慌てて声の方へ駆け寄ると、田川君が後ろから彼女を抱き締めていた。
「びっくりした!」
驚くたまちゃんに、
「ちょっと、こっち来て」
そう言って、二人は実験室へと入って行く。
(お邪魔しちゃ悪いよね……)
そう思って図書室へ戻ろうとした時、隣に並んだ石橋君が、
「何してんの?」
と声を掛けてきた。
驚いて振り向いた、その瞬間――
「ちょっと! ダメだって!」
「大丈夫だよ。こんな時間、誰も来ないって」
「ちょっ……ダメだって!」
ガタガタと、何やら物音がし始める。
(え!? まさか、学校で……!?)
石橋君と顔を見合わせる。
――いくら大好きな二人でも、それはさすがにけしからん!
そう思ってそっと中を覗くと、窓側の席で、田川君が後ろからたまちゃんをすっぽりと抱き締めて座っている――らしい背中が見えた。
(“らしい”なのは、私たちからは田川君の背中しか見えないから)
「優里、ちょっと充電させて」
「私は電気か!」
相変わらずのやり取りが聞こえてきて、思わずホッと肩の力が抜ける。
石橋君と目配せをし、そっとその場を離れようと歩き出した、その視線の端に――
窓から逆光を浴びた二人が、ゆっくりとキスを交わす姿が映った。
思わず立ち止まり、見入ってしまう。
上手く言葉に出来ないけれど……
宝物に触れるみたいに、大切に、大切に重ねられるキスがあるのだと思った。
他人のキス現場なんて、正直言えば見たくない。
それでも、その二人は、まるで映画のワンシーンのように美しかった。
「……はぁ」
胸いっぱいになって、思わず溜め息が零れる。
二人は人前でベタベタしないから、
「友達と恋人の境界線って何だろう?」
そんな余計な心配をしていた。
きっと、それはたまちゃんなりの、亀ちゃんへの配慮なのだと思う。
石橋君なんて、隙あらばすぐに腰を抱いてくるのに、
たまちゃんと田川君は、並んで歩くだけ。
しかも、その距離は――
友達だった頃と、ほとんど変わらないままだ。




