蚕の恋~田川君~
私は、修学旅行の班がきっかけで、彼女が好きな人のことで悩んでいると知った。
いつも明るい彼女が涙を流すのは、長塚君のことだけだった。
そんな彼女を何度となく慰めながら、
抱き締めたくて上げかけた手を、片方はぎゅっと握り締めて下ろし、
もう片方をそっと彼女の頭に置いて、切なそうに、けれど無理に笑う――
そんな田川君の姿を、私は何度も目にしていた。
(早く……早く気付いてあげて……)
それはもう、祈りに近い願いだった。
田川君を見ていると、まだ石橋君と付き合う前の、自分自身を見ているような気がした。
修学旅行の前日、みんなで買い物に出掛けた時もそうだった。
田上さんと長塚君が楽しそうに会話しているのを、田川君は切なそうに見つめていた。
フードコートでも落ち着かず、ずっと貧乏ゆすりをしている。
「そんなに気になるなら、迎えに行けば?」
そう呟いた石橋君の言葉に、田川君は勢いよく席を立つと
「お! お迎えですか?」
と、からかう小野君。
田川君はムッとした顔で、
「便所だよ!」
そう言いながら、なぜかトイレとは逆方向へ足早に向かっていった。
「やっぱり……田川君って、たまちゃんが好きなんだね」
そう悲しそうに呟いたのは、田上さんの友達グループの一人だった。
――恋の神様は、時に残酷だ。
全身で、長塚君が大好きだと語っている田上さん。
そんな田上さんを、可愛くて仕方がないという目で見つめる長塚君。
あんな光景を見せつけられて、落ち着いて座っていられない気持ちも分かる。
そして同時に、そんな田川君を好きな彼女の気持ちも、痛いほど理解できた。
「でも、田上って面食いだったんだな」
ぽつりと呟いた小野君に、
「聡だって……!」
と言いかけた石橋君は、
「身長しか勝ってないな」
と苦笑いを浮かべた。
するとその時、ぎゃあぎゃあと言い合いながら、田上さんと田川君が戻ってくる二人が見えた。
……本当に、田上さんが傍にいると、よく喋るよね。
田川君。




