蚕の恋~たまちゃんとの出会い~
私と石橋君が付き合い始めると、須藤さんと中川さんは、あからさまに私を無視するようになった。
そうなる覚悟は出来ていたから、私は特に気にしていなかったけれど……。
田川君は、かなりショックを受けていたようだった。
「あんなに仲良かったのに……」
ぽつりと、そう呟いていた。
その後、中川さんは田川君に告白したものの、
「好きな人が居る」
そう言われて振られた。
その結果、私は完全に“悪者”にされた。
須藤さんから石橋君を奪い、
田川君と中川さんの仲を引き裂いた――
そんな噂が、いつの間にか流れていた。
(田川君が好きな人、か……)
無自覚に田川君の肩をバシバシ叩きながら笑っている、
“たまちゃん”と呼ばれている彼女を見る。
普段は寡黙な田川君が、彼女と一緒にいると驚くほど饒舌になる。
楽しそうに笑う田川君を見て、人の恋愛だとこんなにも冷静に見られるものなんだな、とぼんやり思った。
「なぁ、繭花。俺、聡のために一肌脱ごうと思うんだ。協力してくれないか?」
意を決したような顔で言う石橋君に、私は頷いた。
そして、田上さんのところへ歩いて行く。
「なぁ、田上と添田。俺らと同じ班にならないか?」
添田さんと抱き合っている田上さんに声を掛けると、
「……ら?」
きょとんとした顔。
「そう、俺ら」
石橋君はそう言って、私のことも指差した。
(あぁ、だから『協力して』なんだね)
そう思っていると、隣で寝ていた田川君がむくりと起き上がり、明らかにソワソワし始めた。
けれど、そんな田川君の様子にまったく気付かない田上さんは、
「え? 別にいいけど、男子は石橋君だけ?」
と、なんとも素っ気ない返事をする。
その言葉に笑顔を浮かべて、
「そんなわけないじゃん。聡と俺と、小野っち!」
そう答えた瞬間、田上さんの顔が一瞬だけ引き攣った。
その後、真顔で考え込み、
「……もしかして、迷惑?」
と、石橋君が思わず聞いてしまうほど、真剣に悩んでいた。
(田川君……全く脈ナシか……)
そう思って石橋君の隣に立っていると、田川君のソワソワ度が明らかに上がっていく。
しかも何故か私に向かって、「お前からも言え!」と言わんばかりの空気を出してくる。
笑いを堪えるのに必死だった。
「え? 何で? そんなことないよ」
田上さんがそう笑顔で答えると、石橋君は心底ホッとした表情を浮かべ、
「良かった~」
と言ってから、
「田上たちなら、繭花を任せられるから」
そう微笑んだ。
その瞬間だった。
「田川君、足!」
ピシャリ、と田上さんが田川君の太ももを叩いた。
「貧乏ゆすり、やめなさいっていつも言ってるでしょう!」
そう言いながら、バシバシと太ももを叩いている。
「痛てぇな!」
そう言って、田上さんの額を軽く叩き返す田川君は、どこか楽しそうだ。
好きな子に太ももを叩かれて、明らかに嬉しそうな田川君を見て、
私は思わず生温かい視線を送ってしまった。
田上さんは、気付いているのだろうか。
田川君が、こんなふうに親しげに触れるのは、田上さんだけだということを。
そして――
田上さんを見る田川君の眼差しが、いつだって「大好きだ」と語っていることを。




