番外編~蚕の恋 高校編③~
2年になって、クラス替えがあった。
石橋君と同じクラスになり、名前順で隣の席になる。
その時、後ろの方から、
「田川君、田川君。背が高いね。身長いくつ?」
という声が聞こえた。
振り向くと、田川君好みの小動物系の女子が話しかけている。
田川君の表情を見る限り、悪い気はしていなさそうだ。
「おっ、聡に新しい春が来たか?」
石橋君が、からかうように呟く。
「え?」
「最近、彼女と別れたんだよ。あいつ」
こっそりと耳打ちされる。
「え!そうなの?長かったよね?」
「ん~、三年くらいかな」
「え~!どうして?」
私の記憶では、田川君の前の彼女は、可愛くて性格も良い子だった。
「女子校に行ってから性格が変わったらしいよ。
学校に迎えに来て欲しいとか、彼氏なら部活より自分優先が当たり前とか、毎日言われて……うんざりしたらしい」
「あ~……田川君、自由人だもんね」
「ちなみに、俺も今フリーなんだ」
にこっと笑われて、
「え!珍しいね」
思わず本音が出た。
「ねぇ、繭花ちゃん。俺と付き合ってみない?」
一瞬、本気にしそうになる。
「はいはい。どうせすぐ、綺麗な彼女ができるんでしょう?」
軽く流すと、
「そっか……俺、そんな風に見えてたんだ……」
石橋君が、ぽつりと呟いた。
「あ……ごめん。失礼だったよね」
慌てて謝ると、
「ぜ~んぜん。繭花ちゃん、気にしすぎ」
そう言って、優しく頭を撫でられた。
⸻
「石塚さ~ん!すごい!石橋君と隣の席なんて!」
同じクラスになった須藤さんと中川さんが大騒ぎする。
「ついに、あの計画が実行される日が来たのね!」
(あの計画?)
首を傾げていると、それが“グループ交際計画”だとすぐに分かった。
それから須藤さんを中心に、六人で遊びに行くことが増えた。
マラソン仲間だった流れで、なぜか連絡係は私。
石橋君も田川君も、須藤さんたちに直接連絡先を教えたがらなかったからだ。
四月の終わり頃。
「ねぇ、なんで俺の隣が石塚なの?」
小野君に、ぽつりと聞かれた。
「あっ、迷惑だった?」
慌てて尋ねると、
「石塚ってさ、健太が好きなんだよね?」
そう言われて、顔が一気に熱くなる。
「だったら、おかしいだろ?」
「え?」
「石塚さん、健太を振ったんだよね?」
「……え?何の話?」
すると小野君は頭を抱え、
「マジか……!」
と叫んだ。
「なぁ、あのバカ、『俺、今フリーだから付き合わない?』って軽~く聞かなかった?」
「あ、それは言われた!よく分かったね!」
思わず拍手すると、小野君は深く、長い溜め息を吐いた。
「それ、マジなやつだから」
「……え?」
「健太さ、ちゃんと告白したことないんだよ」
言葉を失う私に、小野君は続ける。
「本命に、どう言えばいいか分かんないんだろうな。
聡もああだし、基本、協力しないだろ?
正直、見てて……もどかしいんだよ」
頭をぐしゃぐしゃとかきむしる。
「でも……石橋君が、私なんか……」
否定しようとした瞬間、
「あのさ!」
小野君の声が、言葉を遮った。
「あいつ、バカでアホで、すんげぇ最低なんだよ」
あまりにも率直で、唖然とする。
「でもな、たった一人にだけは、ずっと優しい」
その言葉に、胸が締め付けられる。
「俺が知る限り、あいつが褒める女の子は、ずっと一人だけだった」
視界が滲んだ。
「字が綺麗で、本が好きで、可愛い顔してるのに、いつも俯いてて勿体ないって……
それに当てはまる女子、石塚しかいないんだよ」
涙が溢れて止まらなくなる。
「石塚。健太が好きなら、逃げないで向き合ってやれ」
その時。
「小野!お前、なに繭花ちゃん泣かせてんだよ!」
石橋君が駆け寄ってきた。
小野君の胸ぐらを掴む腕を、慌てて掴み、
「違うの!」
必死に叫ぶ。
「違うの……」
泣きながら訴える私に、石橋君はそっとハンカチを差し出した。
パンツのポケットから出したのか、少しクシャクシャだ。
思わず、笑ってしまった。
そして私は、石橋君を真っ直ぐ見つめる。
「石橋君。……実は私も、今フリーなの」
一度、深呼吸をして。
「付き合ってみない?」
あの日、流してしまった言葉を、今度は私から伝えた。
石橋君は目を見開き、
それから、くしゃくしゃな笑顔を浮かべて──
「……喜んで」
そう言って、私を強く抱き締めた。




