番外編~蚕の恋 高校編②~
この日以来、廊下でも、体育館でも。
石橋君は私を見かけると、必ず声を掛けてくるようになった。
するとある日、
「最近さ、石橋君、よく声掛けてくるよね」
と須藤さんが言い出した。
「ねえ、なんでだと思う?」
中川さんに振ると、
「え~!そんなの、公ちゃんのことが好きだからに決まってるじゃん!」
そう言って、二人同時に私の顔を見る。
私は何も言えずにいると、
須藤さんがぎゅっと私の手を握ってきた。
「石塚さん!もしさ、この中の誰が石橋君と付き合っても、友達でいられるよね?」
「……う、うん」
頷くと、
「良かった~!」
と、心底安心した顔で笑う。
(……そうか)
その瞬間、妙に納得してしまった。
(石橋君は、須藤さんと近づきたくて、私に声を掛けてきたんだ)
確かに須藤さんは、石橋君の歴代彼女たちと同じタイプだ。
明るくて、好き嫌いがはっきりしていて、美人。
しかも、ボン・キュッ・ボンの抜群のスタイル。
私みたいに、全部が真っ平らなのとは違う。
「公ちゃんって、バービー人形みたいだよね」
須藤さんが大好きな中川さんがそう言ってから、私の方を見て、
「でも、石塚さんも可愛いよ!コケシみたいで」
にっこり微笑んだ。
(コケシかぁ……ぬりかべからは、だいぶ出世したな)
思わず嬉しくなって、
「ありがとう」
と答えると、なぜか二人は微妙な顔をした。
その時。
「ま~ゆ~か~ちゃ~ん!」
階段の上から、ひらひらと手を振る石橋君が見えた。
私たちが見上げると、
「相変わらず仲良しだね」
と微笑む石橋君の隣には──新しい彼女が並んでいる。
(……何人目?)
驚いて見ていると、
「健ちゃん、早く行こ!」
彼女が石橋君の腕に絡み、先を促した。
「またね~」
手を振る石橋君。
……なんだか、チャラさが増している気がする。
その後ろで、いつもの田川君と小野君が、こちらをちらりと見て軽く手を上げた。
(相変わらず、三人組なんだな……)
そう思って手を上げかけた瞬間、
須藤さんと中川さんが勢いよく手を振っているのに気付く。
(……あ。二人に手を振ったのか)
恥ずかしくて、思わず赤面していると、
「公ちゃん、どうする?もしかして、二人にも好かれてるんじゃない?」
「やだ~!」
きゃっきゃと盛り上がる二人。
(いや……田川君、ちっちゃい子が好きだから、須藤さんはタイプじゃないと思うけど)
心の中でそう呟いていると、
「ねえねえ!あの三人の友情、公ちゃんのせいで崩れちゃうかもよ~!」
「もう!やめてよ~!」
ますます盛り上がる。
「石塚さんは、どう思う?」
期待MAXの視線を向けられて、
「……田川君、女子校に通ってる彼女いるよ」
思わず、素直に答えてしまった。
その瞬間。
須藤さんと中川さんの笑顔が、すっと消えた。
「……だから?」
中川さんにそう言われて、
「あの……田川君、ちっちゃい子が好きだから……」
と返すと、
「あっ!そうか!田川君、あややが好きなんだよ!」
須藤さんがぱっと明るく言った。
(中川さん、確かに小さいけど……)
そう思いながら、
田川君の歴代の彼女を思い出す。
どちらかと言えば、明るくてちょこまかした小動物系。
中川さんは小柄だけど、顔立ちは結構キリッとしている。
ぼんやり考えていると、
「やだ~!石塚さんったら!」
なぜか、さらに盛り上がっている。
「じゃあさ!
公ちゃんと石橋君、
私と田川君、
小野君と石塚さんで、みんなで遊びに行きたくない?」
気付けば、
勝手に“グループ交際の図式”が完成していた。
(田川君、付き合うと長いんだよな……。今の彼女、簡単に別れないと思うけど)
(小野君も、確か彼女いたはずだし……)
心の中でそう呟く。
まあ、中学から知ってる私だから分かることだし、
余計な波風は立てないに限る。
──この時の私は、
それが後々、面倒な事態を引き起こすなんて、
思いもしなかった。




