番外編 蚕の恋~高校編①~
高校は部活動が自由だった。
私は部活に入らず、
なんとなくバスケ部の練習を覗いてみた。
経験者も初心者も、基礎から始めるらしい。
それなのに、仲良しトリオは三年生の引退を待たずに、
あっという間にレギュラー入りしていた。
(……すごいな)
物陰から眺めていると、
「ねえ、同じクラスだよね?」
声を掛けられた。
同じクラスの須藤さんと中川さんだった。
快活で明るい須藤さんと、
そんな須藤さんが大好きな中川さん。
二人は石橋君を追いかけて、
この学校に入学したのだという。
気付けば、私たちは三人で行動するようになっていた。
石橋君は高校でも相変わらずの人気ぶりで、
蝶のように、ひらひらと花から花へ移っていた。
私は受験と恋煩いで、三十キロの減量に成功した。
「ぬりかべ」なんて呼ばれることも、もうなかった。
⸻
そんなある日。
いつものようにバスケ部の練習を見に行こうとしたら、
先生に頼まれごとをされてしまい、結局行けなかった。
がっかりした気持ちのまま、帰路につこうとした時だった。
足元に、バスケットボールが転がってきた。
思わず拾い上げる。
すると体育館の方から、
「聡の下手くそ!」
笑い声と一緒に、石橋君が現れた。
「あれ? 繭花ちゃんじゃん」
そう言って、微笑む。
「……え?」
驚く私に、
「ボール拾ってくれたんだ。ありがとう」
昔と変わらない笑顔。
「どうして……」
そう言いかけた瞬間、
喉が詰まったみたいに声が出なくなった。
「痩せたね。俺は前の繭花ちゃんも……」
一瞬、言葉を選ぶように間を置いて、
「……可愛いと思ってたけど」
変わらない優しさが、胸を締め付ける。
無言のままボールを差し出すと、
石橋君の笑顔が、少しだけ悲しそうに歪んだ。
(違うの……緊張して、声が出ないだけなのに)
スカートの裾をぎゅっと握り締める。
「ごめ……ん……なさ……い」
必死に絞り出した声は、
自分でも驚くほど小さかった。
石橋君はそれに気付いて、ゆっくり近付いてくる。
「……なんで謝るの?」
首を傾げる仕草が、昔のままだ。
「前に……私、自信なくて……八つ当たりしちゃって……」
必死に話す私の顔を、
石橋君はしゃがみ込んで覗き込んだ。
「ほら。せっかく痩せて、
ますます可愛くなったのに、俯いてたらもったいないよ」
見上げる笑顔が、眩しすぎる。
石橋君は、運動も勉強も出来て、
顔も良くて、誰にでも優しい。
だから、人気があるんだ。
「……ずっと、謝りたかったの」
そう呟くと、
石橋君は一瞬驚いた顔をしてから、ゆっくり微笑んだ。
「そっか……。嫌われたのかと思ってた」
ボールに回転をかけて、
ぽん、と上に放って、受け止める。
「じゃあさ……また話しかけてもいい?」
その言葉に、私は何度も頷いた。
すると、ふわりと笑って、
「よかった」
そう呟き、
一際高く投げたボールを、軽やかにキャッチした。




