番外編~蚕の恋⑥~
「健太と、なんかあった?」
突然、田川君に言われて驚いた。
「……なんで?」
「いや、なんとなく。健太、ちょっと落ち込んでる気がしたから」
そう言われて石橋君の方を見るけど、
相変わらず綺麗な女の子たちに囲まれているだけで、
いつもと変わらないように見える。
「そうかな……?」
首を傾げる私に、
「石塚ってさ、健太のこと好きなんだよね?」
どうしたんだろう。
普段はあまり喋らない田川君が、今日はやけに多弁だ。
「……どうしたの?」
思わず聞くと、
「いや。ちょっと気になっただけ」
そう言ってから、
「まあ、お節介は性に合わないし……いっか」
と呟き、机に突っ伏して眠ってしまった。
バスケ部は朝も放課後も練習が厳しくて、
田川君は昼休みは練習か、練習がない日はほとんど寝ている。
私は机から本を取り出し、ページをめくった。
活字を追っていると、不思議と心が落ち着く。
沈んだ気持ちを持ち上げるように、本の世界へ意識を沈めていると──
「繭花ちゃん」
名前を呼ばれて、慌てて顔を上げた。
立っていたのは、石橋君だった。
「先生が呼んでたよ」
「……ありがとう」
本を閉じて席を立つと、
「あのさ……」
石橋君が、何か言いかけた。
私が不思議そうに見上げると、
彼は小さく笑って、
「ごめん。なんでもない」
とだけ言った。
──これが、中学時代、
私が石橋君と交わした最後の会話になった。
⸻
ほどなくして席替えがあり、
田川君とも石橋君とも席が離れて、正直ほっとした。
三年生になり、クラス替え。
石橋君とは別のクラスになり、受験に追われる毎日が始まった。
いつかこの気持ちも、消えていくのだろう。
そう思っていた。
けれど、受験会場でバスケ部の三人組を見かけてしまう。
そして春が来て、入学式で、またあの三人を見つけてしまった。
離れれば忘れられると、信じていた。
でも、想いは薄れるどころか、募るばかりだった。
もう、あの頃のように笑い合う日々は戻らない。
そう、思っていた。




