番外編~蚕の恋④~
「はぁ……」
翌日、田川君と及川さんが別れた、という噂が一気に広まった。
それだけなら、こんなに溜め息は吐かなかったと思う。
問題は、その原因だった。
──私と田川君が、及川さんに隠れて付き合っていたから。
……という、意味不明な噂までセットで付いて回っていたのだ。
当の田川君はというと、我関せずといった様子で、相変わらず飄々としている。
「田川君……ごめんね」
思い切って声を掛けると、
「何が?」
きょとんとした顔で返された。
「何がって……私と田川君が恋人って話になってて……」
小さく落ち込んで呟くと、
「あぁ……別に。言いたい奴には言わせとけばいいし」
そう言ってから、少しだけ表情を緩めて、
「逆に、石塚まで巻き込んでごめんな」
と続けた。
(……田川君、良い人すぎない?)
そう思ってしまった自分に、内心で苦笑する。
でも、「人の噂も七十五日」とはよく言ったもので、
その噂もいつの間にか、自然と消えていった。
私は図書委員で、部活は文芸部。
いわゆる完全な“本の虫”だ。
だから当然、運動は超がつくほど苦手。
マラソン大会の季節が近付くと、それだけで気分が沈む。
「今年のマラソン大会も、俺が勝つ!」
石橋君が楽しそうに宣言すると、
「勝ち負け関係なくないか?」
田川君が、呆れたように返している。
田川君が隣の席になってからというもの、
休み時間のたびに石橋君がやって来て、二人で楽しそうに話していた。
「繭花ちゃんも、マラソン大会楽しみだよね?」
突然話を振られて、
「えっ、私? マラソン大会、苦手なんだけど……」
苦笑いで答える。
「ふ〜ん。じゃあさ、一緒に練習しない?」
(……練習? マラソンの?)
走るのが嫌いなのに、なぜ練習まで……と戸惑っていると、
「いいね!健太、私も入れて!」
夕美ちゃんがノリノリで乗っかってきた。
「じゃあさ、コース的に……」
石橋君が簡単な地図を書き始める。
それぞれの家の近くを通りつつ、
マラソン大会と同じ距離――1500メートルになるコース。
(女子は1500メートル、男子は2000メートルだから、
私達に合わせてくれたらしい)
しかも、朝と夜の二回。
四人でLIMEを交換していると、
違うクラスの小野君も参加することになり、
最終的に五人で、そのマラソンコースを走ることになった。




