番外編~蚕の恋
男の子は、苦手だ。
ガサツで、意地悪で、乱暴で……。
私は物心ついた頃から体格が良かった。
身長も高く、背の順で並ぶと必ず後ろ。
体格が良くて背が高いから、男子からは「ぬりかべ」なんてあだ名を付けられていた。
だからいつも俯いていて、小さな女の子に憧れていた。
でも、小学生になっても中学生になっても、私の身長は止まることなく伸び続けた。
中学生になると、女の子達は好きな人の話題で盛り上がっていた。
けれど、私にとって男の子は苦手な存在で、「好きな人」という感覚がよく分からなかった。
出会いは、中学二年生の春。
「へぇ〜、石塚さんって字が綺麗なんだね」
ノートを書いていると、突然そう声を掛けられた。
「えっ!」
驚いて顔を上げると、隣の席になった石橋君が微笑んでいた。
「字はだろう?」
他の男子が揶揄うように笑う。
すると石橋君は、さらりと
「え? 顔も可愛いよ。俺、石塚さんの顔、好きだよ」
そう答えた。
教室に爆笑が起こる。
「石橋! お前、女なら誰でも良いんだろう?」
ゲラゲラ笑う男子達に向かって、石橋君は肩をすくめる。
「お前等、本当に馬鹿だな」
他人の意見に流されず、逆に笑ってみせる姿が格好良くて、胸が少しだけざわついた。
──凄いな、と思った。
そんな石橋君を好きになったのは、球技大会の時だった。
バスケ部の小野君と田川君、そして石橋君は、バスケが除外になってバレーに参加することになった。
私は友達の夕美ちゃんに付き合って、バレーの試合を見に行った。
バスケ部の三人は圧倒的で、試合はあっという間に点差が開いていく。
普段はのんびりしている田川君が、運動になると驚くほどキビキビ動く姿に目を奪われていた、その時。
「聡!」
石橋君が手を上げて叫んだ。
田川君がトスを上げる。
次の瞬間、石橋君は信じられないほど高く跳び、鋭いアタックを決めた。
そのジャンプは──
まるで、美しい鳥が空を舞ったみたいだった。
私はその瞬間、恋に堕ちた。
でも、いつも女の子に囲まれている石橋君が、私なんか相手にするはずがない。
最初から、そう思っていた。
だから、ただ見ているだけで良かった。
それだけで、十分に幸せだった。




