これからの私たち
そんな田川君が可笑しくて、お腹を抱えて笑っていると、
「笑い過ぎ!」
そう言って、頬を摘まれた。
左右の頬を横に引っ張られ、今度は田川君が吹き出す。
「ブッサイクな顔」
「ひどい!」
「悔しかったら、俺の身長を抜いてみろ!」
階段を上りながらギャアギャアと言い合っているうちに、ふと名案が浮かんだ。
あと数段で階段を上りきる、というところで、
「田川君、そこで止まってて!」
そう言って、私は最後の数段を駆け上がる。
「ふふん! これなら私の方が背が高い!」
ドヤ顔で振り向くと、田川君はゆっくりと階段を少しだけ上り、同じ高さになる。
次の瞬間、ぎゅっと抱き締められた。
「田上、好きだ……」
掠れた声と、抱き締められた瞬間に鼻腔を掠めた田川君の匂いに、心臓が大きく跳ねる。
そっと背中に手を回すと、田川君の身体がびくりと揺れた。
「……うん」
ぽつりと呟いて頷くと、田川君の腕が少しだけ強くなる。
見上げた田川君の瞳が、切なそうに揺れていた。
そのまま黙って見つめ合っていると、大きな手が私の両頬を包み込み、そっと唇が重なる。
時間にしたら、きっとほんの一瞬だったと思う。
それなのに、鳥の鳴き声も、下の道路を行き交う車の音も、すべてが遠のいた。
静かな世界が、私と田川君だけを包み込んでいた。
ゆっくりと唇が離れると、田川君は私を強く、強く抱き締める。
無音だった世界に、田川君の心臓の音が戻ってきた。
『ドッドッドッ』
早鐘を打つその音が、私の鼓動と重なっていく。
ほんのりとした汗の匂いと、田川君の香りに包まれながら、
(あぁ……やっぱり、田川君の傍は安心するな)
そう思った。
私も背中に回した手に力を込め、ぎゅっと抱き締め返すと、田川君が私の肩に額を預けて、
「田上……心臓、吐き出しそう」
と呟いた。
一瞬きょとんとしてから、思わず吹き出す。
すると田川君は、さらに強く抱き締めてきて、
「やっと捕まえた」
そう言って、微笑んだ。
その笑顔は、今まで見た田川君の笑顔の中で、いちばん輝いて見えた。
[完]




