亀ちゃんにはイケメン。私は……
亀ちゃんたちには、田川君の胸タッチ事件の話はせず、私は説明を終えた。
確かに、あれはワザとじゃなかったし、そのあと土下座でもする勢いで謝られた。
石橋君と小野君にも散々口撃されていたし、幸い、他のクラスメイトに見られてもいなかった。
(……一瞬の出来事だったしね)
だから、まあ――許してあげたのだ。
「悪い、ちょっといい?」
そんなことを思い返していると、背後から田川君が現れた。
田川君は、亀ちゃんが座っている自分の席に、亀ちゃんの横から手を伸ばして机の中を探る。
突然のことに亀ちゃんは真っ赤になって固まったけれど、すぐに「中の物を取るだけ」だと分かり、慌てて椅子を引いた。
「ごめんね、ありがとう」
そう言って、田川君は亀ちゃんに柔らかく微笑み、机からお弁当箱を取り出した。
(……ちょっと。
私には、そんな顔しないくせに)
あからさまな態度の違いにムッとしつつも、
田川君を見上げる亀ちゃんの、完全に“恋する乙女”な表情に、私は内心きゅんとしてしまう。
⸻
一年生の頃から、お昼は私、亀ちゃん、理恵ちゃん、夏美ちゃんの四人で食べている。
田川君はバスケ部で、普段は体育館で昼食をとり、そのまま昼練に行くらしい。
だからこの席になってから――
昼になると、田川君の席のまわりに、自然と人が集まるようになっていた。
……もっと正確に言うなら。
私が田川君の席を占領しているように見せかけて、
ちゃっかり亀ちゃんが、彼の席に座りやすい流れを作っているだけなんだけど。
田川君は弁当を取り出すと、ちらりと私たちを見て言った。
「俺の机、弁当で汚すなよ。特に田上、お前な」
そう言って、私の額にデコピン。
「自分の席で食べてるんだから、汚すわけないでしょ!」
額を押さえて叫ぶと、
「はいはい」
生返事のまま続ける。
「少しでも汚したら、今日一日、お前は俺の下僕な」
爆笑しながら去っていく背中を見送って、
「亀ちゃん、聞いた?
あんな奴のどこが――」
鼻息荒く文句を言いかけて、亀ちゃんを見る。
「……カッコいい……」
瞳をハートにして、田川君の後ろ姿を見つめていた。
……あれが、カッコいい?
思わず、
「眼科行ったほうがいいよ」
と言いそうになるのを、必死で飲み込む。
「見た?
『ごめんね、ありがとう』だって。
あの笑顔、見た? 見た?」
興奮気味の亀ちゃんに、私は苦笑いを返した。
(私には、魔王顔しか見せませんけどね)
でも――
亀ちゃんがあんなふうに笑ってくれるなら、
まぁ、私がいじられ役でも、悪くないか。




