ぐんぐん牛乳てっ!!
身体測定が終わり、がっつり落ち込んでいる私の肩を、添田さんがポンと叩いた。
「ほら、元気出して。たまたまだよ、ね」
そう言われた、その瞬間。
私の手にあった身体測定の用紙が、上からスッと引き抜かれた。
「なんだ。やっぱり百五十五ないじゃん」
その声に、涙目でキッと睨み上げると――
案の定、田川君だった。
「でも、惜しかったな。百五十四・八センチ」
用紙を返されながら、
「田川君のせいだからね!
いっつも私の頭を掴んだりするから、縮んだんだよ!」
思わず文句を言うと、田川君は少し考え込んで、
「……それは、あるかもな。ごめん」
そう言って、ぺこりと頭を下げた。
「え? あ、いや……私こそごめん。
ただの八つ当たりだから、気にしないで」
急にしおらしくなった彼に慌てて言うと、
「じゃあ、お詫びに飲み物奢るから。ちょっと待ってて」
そう言い残し、走り出した。
「え!? お詫びとか要らないよ! 気にしないで!」
自販機に向かって叫んでも、相手は運動部。
あっという間に距離を詰め、飲み物を買っている。
私は戸惑いながら添田さんを見た。
「どうしよう……。
そんなに言い方、キツかったかな? 気にさせちゃったよね」
落ち込む私に、添田さんは苦笑い。
「大丈夫じゃない?
あの人、あんまり細かいこと気にしなさそうだし」
「……そうかなぁ」
そう思った、その瞬間。
ひんやりとしたものが、頭に当たった。
見上げると、田川君が牛乳パックを頭に乗せている。
「これ飲んで。来年は伸びるといいな」
そう言って、私の頭から牛乳を取って、手に渡した。
「た~が~わ~!」
「なに? お礼は要らないよ」
「お礼なんて言うか!
バカにして!」
殴ろうとすると、ひらりと軽やかにかわされる。
「避けるな!」
「やだよ」
あかんべする田川君に、
「キーッ! 田川君、ムカつく!」
地団駄を踏むと、彼はきょろきょろ辺りを見回し、
「あれ? どこかに猿がいる」
なんて言い出した。
「……あれ?
キーキー言ってたの、猿じゃなくて田上だったのか~。
ごめんごめん。小さくて見えなかった」
そう言いながら、私の頭に肘を置く。
「あれ? また田上がいない」
探すフリをして、
「田上め、逃げ足の早いヤツだな~」
独り言のように呟いたあと、
下から睨み上げる私と目が合う。
「あれ? 田上いたの?
ちょうど良い肘置きがあるな~って思ったら、田上だったんだ。
いやぁ~、びっくりびっくり」
わざとらしく驚いたフリをして、笑っていやがる。
私はプルプル震えながら叫んだ。
「田川君……!
今日という今日は、絶対に許さないんだから!」
手を振り上げると、
「きゃ~! 田上さん怖~い!」
新宿三丁目あたりで聞こえてきそうな声を出して、
田川君は逃げるように走り出した。
私は全力で追いかける。
「だから言ったでしょう?
気にしなくていいって……」
私の背中から、呆れたような添田さんの声が聞こえた。
結局──
今日も、運動部と帰宅部の体力差に、
悔しい思いをするだけだった。




