身体測定と性別と、誰が男子よ!
田川君とは出会いがあんな感じだったせいで、どうやら私は彼にとって完全ないじられキャラになってしまったらしい。
身体測定の用紙が配られたときのことだ。
私の用紙を覗き込み、田川君が真顔で言った。
「田上、その用紙、間違ってるぞ」
「えぇ!? 本当に?」
慌てて確認してみても、名前はちゃんと私のものだ。
「ちょっと……間違ってないけど?」
目を据わらせて言うと、
「いや、間違ってるだろ。性別が“女”になってるじゃん」
「……田川君。私、女子ですけど?」
そう返した瞬間、田川君はわざとらしく目を見開き、
「マジ? ごめんごめん。男だと思ってた」
そう言って、腹を抱えて爆笑し始めた。
(こいつ……亀ちゃんの好きな人じゃなかったら、マジで殴ってる!)
そう思ったところで担任が教室に入ってきて、身体測定に行くよう指示が出た。
田川君はバスケ部仲間の石橋君や小野君たちと行動するらしく、石橋君が呼びに来て、ようやく私から離れていく。
(あれが……理恵ちゃんの言ってた“バスケ部の三馬鹿トリオ”か)
横目で見ると、三人は本当に仲が良さそうで、楽しそうに話していた。
(いいなぁ……。私、このクラス、知り合い誰もいないんだよね)
新しいクラスには、仲の良かった子が見事に一人もいなかった。
不安はあるけど、今はとにかく――
(よし! これで田川君にからかわれず、無事に身体測定ができる!)
スキップしたい気分で体育館へ向かっていると、
「田上。ちゃんと身長測ったら、本当に百五十六あるのか見せろよ」
背後から、聞き覚えのある声。
「ぎゃあ!」
思わず悲鳴を上げると、
「いちいちオーバーだな。ほら、何センチだったかちゃんと見せろよ」
笑いながら頭を掴まれ、
「まぁ……こんな小さいんじゃ、百五十五も怪しいけどな」
とか言いながら、
「ケケケケ」
と、あの腹立つ笑い。
「田川君め……覚えてなさいよ!
このあと、ギャフンと言わせてやるんだから!」
身体測定用紙を握り締めた、そのとき。
「田上さん! 紙、くしゃくしゃになってる!」
前の席の添田千秋さんが、慌てて私の手から用紙を救出した。
「これ、三年間使うんだよ。大切にしなさいって担任が言ってたでしょ?」
そう言いながら、丁寧にシワを伸ばしてくれる。
「えぇっ!」
「どうせ、田川君とジャレてて聞いてなかったんでしょう?」
そう言われて、思わず口ごもる。
「ジャレてるって……」
「あ、ごめんごめん。嫌味じゃないの」
添田さんは、ふっと笑って続けた。
「本当に仲良さそうで、ちょっと羨ましいなって思っただけ」
「羨ましい?
私、完全に遊ばれてるだけだと思うけど……」
首を傾げる私に、添田さんは少しだけ寂しそうに言った。
「私ね、友達みんな二組になっちゃって。
このクラス、友達がいないの」
その言葉に、はっとする。
私も同じだった。
同じクラスに友達がいなくて、不安だったのに──
田川君に振り回されて、すっかり忘れていた。
(まさか……田川君、それを分かってて……?)
一瞬、そんな考えがよぎった、そのとき。
「田上、早くしろよ。
嘘がバレるのが怖いのか?」
あのバカにした「ケケケ」笑い。
(前言撤回。
アイツは普通に、嫌な奴だった!)
そう思いながら、私は全力で田川君にあかんべをしてやった。




