誰がバスケットボールよ!
「きぃー! ムカつく!」
立ち上がって田川君の腕をポカポカ叩いていると、彼は私の頭を掴み、
「ほら、立ち上がってもその高さだろ?
絶対、百六十どころか、百五十五も怪しいな」
そう言って、楽しそうに笑った。
「ひどい! ひどい! ひどい!」
半泣きになってポカスカ叩いていると、
「仲いいね。二人って、去年から同じクラスだったの?」
前の席の添田さんが、呆れたように声をかけてきた。
「違います!」
「違うけど」
私と田川君が同時に言うと、添田さんは吹き出す。
「え? じゃあ、出会って秒で仲良し? すごくない?」
「はぁ? どこが仲良しなのよ!」
「え? もう、すっかり仲良しだろ? 俺ら」
「ちょっと! “俺ら”って、一緒にしないでよ!」
「じゃあ俺、誰と仲良くしてるわけ?
……あ、もしかして田上って幽霊?」
そう言って、頭を掴んだまま笑う。
「幽霊だったら頭は掴めないでしょ!
ちょっと田川君、頭を掴まないで!」
「いや~、田上の頭、バスケットボールと同じくらいじゃね?
すげぇ手に馴染む」
「聞いてる!?
私の頭はボールじゃないわよ!」
ジタバタ暴れる私を、完全におもちゃ扱いして楽しむ田川君。
私は睨み上げて、思わず叫んでいた。
「田川君の……ハゲ!!」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、田川君は目を真ん丸にして――
「ハゲって……ハゲって……!」
腹を抱えて大爆笑した。
「お前、小学生か!
腹痛ぇ……!」
ヒーヒー言いながら、まだ笑っている。
そんな田川君を睨んでいると、
「ねぇ……二人って、本当に初対面なんだよね?」
添田さんが、戸惑いの表情で私たちを見ていた。
私はぐちゃぐちゃにされた髪を撫でながら、
「そう! 本当に初対面です!
それなのに、この扱いってひどくないですか?」
と訴える。
添田さんは、まだ笑い続けている田川君と私を見比べて、
「へぇ~。
出会ってすぐにそこまで仲良くなれるなんて、よっぽど相性いいんだね」
そして、さらっと爆弾を落とした。
「ねぇ、二人とも恋人いないなら、付き合っちゃえば?
そんな相手、なかなかいないよ。ほんと、初対面に見えない」
呆れたように言われ、私は田川君を睨みつける。
すると彼は、涙を浮かべたまま手を挙げて、
「あ、ちなみに俺。今、彼女いないから」
私はにっこり笑って、
「残念でした!
私には彼氏がいまーす!」
そう言って、あかんべをしてやった。
すると田川君は、私の頭を撫でながら、
「そうか~、彼氏いるのか~。
まぁ、見栄張りたい気持ちは分かるよ」
ニヤニヤしながら続ける。
「チビで彼氏なしとか、寂しいもんな~」
(ちょっと、亀ちゃん!
こいつのどこが良い人なの!?
誰が優しいって言ったの!?)
亀ちゃんの想い人じゃなかったら、
机からはみ出してるその足、思いっきり蹴ってるところだ。
そう思っていると、
「どうした、田上?
……あ、もっとお菓子欲しいのか?」
田川君は鞄からお菓子を取り出し、私の机に並べ始めた。
……完全に子ども扱い。
しかも、私で遊んでる。
頬を膨らませる私を、田川君は隣でゲラゲラ笑いながら眺めていた。
こうして――
私、田上優里と、亀ちゃんの好きな人である田川聡の出会いは、
私史上、最悪な形で幕を開けたのであった。




