スカイツリーとペロペロキャンディ
翌日。
体育館で部活の練習をしているらしい田川君を、いつものメンバーで覗きに行ってみた。
すると、一つ年上のバスケ部のキャプテンが、こちらに気づいて歩いてくる。
めちゃくちゃ背が高くて、爽やかイケメン。
(えっ!? なんで?)
驚く私たちをよそに、理恵ちゃんが小さく、
「……げっ」
と呟いたのを、私は聞き逃さなかった。
「理恵、珍しいな。練習を見に来るなんて」
爽やかすぎる笑顔に、私、亀ちゃん、夏美ちゃんの三人は一斉に固まり、理恵ちゃんの顔を見る。
「友達と一緒にいる時は、来ないでって言ったでしょう!」
「え? じゃあ、なんで来たの?」
「なんでって……」
そのコソコソしたやり取りで、すべて察した。
――あ、これ、彼氏だ。
理恵ちゃんは秘密主義で、自分のことをほとんど話さない。
ただ、好きなタイプは「背が高くてイケメン」とだけ言っていた。
……うん、納得。
一つ年上で爽やかイケメンの彼氏がいたら、同級生なんて相手にしませんよねぇ。
私たちのニヤニヤした視線に気づいた理恵ちゃんは、
「もう! 私のことはいいから、さっさと練習しなさいよ!」
と、怒ったように言った。
するとキャプテンは、そんな理恵ちゃんを軽くかわして、
「可愛い彼女のために、カッコいいところ見せないとな」
なんて言い残し、颯爽とコートへ戻っていった。
――その背中を見送っていたとき。
「川上先輩」
別の背の高い男子が、キャプテンに近づいていくのが見えた。
「……田川君」
私の腕を掴み、亀ちゃんが小さく呟く。
視線の先には、がっしりしたスポーツマンタイプの男子。
一重で少し垂れ目。
厚めの唇に、やや大きめの口。
黙って立っていると、正直――
無愛想で、ちょっと怖そう。
「ねぇ、亀ちゃん。彼、本当に優しいの?」
こっそり聞くと、亀ちゃんは即答した。
「うん。優しいよ。友達思いで、すごく良い人なんだ」
田川君が好き、という気持ちを全身で訴えるような声。
女の子は、恋をすると本当に可愛くなる。
「……そっか」
私は田川君を見つめる亀ちゃんの横顔を見ながら、
この初恋がどうか成就しますように、と願わずにはいられなかった。
■■■■■■
……ってことがあったのを、
この時の私は、すっかり、うっかり忘れていた。
黒板の座席表を確認し、こちらに向かってゆっくり歩いてくる田川君を眺めながら、私はふと、その日のことを思い出す。
窓の外では、まだ少しだけ、桜の花びらが舞っていた。
(まずは田川君と仲良くなって……
さりげなく、亀ちゃんのことを勧めていこうかな?)
あれこれ「恋のキューピット計画」を考えていると、
隣の席の椅子が引かれる音がした。
(仲良くなるには、まず挨拶からよね!)
意を決して顔を上げた私は──
その瞬間、固まった。
……背、高っ!!
体育館で見たときも大きいとは思ったけど、まさかここまでとは。
目の前に立たれると、もう壁。
いや、壁というより建造物。
東京タワー?
スカイツリー?
そんな単語が頭をよぎるほどの迫力だった。
私は三人きょうだいの長女だけど、家族みんな身長は高くない。
だから余計に、田川君の大きさが際立つ。
絶対、百八十センチは超えている。
見上げていると、垂れ目がちな一重の目と目が合った。
田川君は、じっとこちらを見る私を不思議そうにしながら、
「おはよう。えっと……田上さん?」
黒板の座席表を指さし、私の名前を呼ぶ。
私が頷くと、ぬりかべみたいに大きな彼は、人懐っこい笑顔を浮かべた。
その笑顔につられて、私も口を開く。
「おはよう、田川君。背、大きいね。身長いくつ?」
「そんなに大きいかな? たぶん、百八十二くらい」
「え、やっぱり! やっぱ大きい!」
「田上さんは?」
「え?」
「身長」
「百五十五。……でも今年は百六十になるかもしれない!」
ガッツポーズを決めた瞬間。
「それは無理じゃない?」
「測ってみないと分かんないでしょ!」
「いや、なんとなく分かる」
「なんでよ!」
「ねぇ、質問してもいい?」
「なに!」
「本当は、何センチ?」
「百五十五ですっ!」
「嘘ついても、身体測定でバレるけどね」
……くっ。
こいつ、想像以上に口が達者!
プクッと頬を膨らませると、田川君はクスクス笑いながら、
「ごめんごめん。背の低い子って、だいたい実際より高く言うだろ?
だから、つい……」
まだ笑ってる。
(ちょっと亀ちゃん!
どこが“良い人”なのよ!)
私がプイッと横を向くと、
「怒るなって。ほら、お詫びにこれ」
と言って、私の手に棒付きの飴を握らせた。
「やっぱ田上、童顔だからペロペロキャンディ似合うと思ったんだよな」
……いつの間にか「田上さん」じゃなくなってるし。
頭を軽く撫でられながら言われるとか……何なの、この距離感。
「……ありがと」
そう言いながらキャンディを受け取った私は、心の中でため息をついた。
(ちょっと亀ちゃん。どの辺が“良い人”なのよ。
めちゃくちゃ意地悪じゃない!)




