表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/125

名前を呼ぶ距離、掴まれる距離

「おはよう!」


朝、学校に着くなり、背後から後頭部を軽く叩かれた。

振り向かなくても分かる。犯人はやっぱり田川君だった。


「おはよう……じゃないわよ!朝から人の後頭部を叩かないでくれる?」


「え?『中身が無いから、覚えたことが落ちちゃう?』って?」


わざとらしく細い声を出し、口元に手を当てて言う田川君に、


「そうそう、カラカラっておみくじみたいに――って、違う!」


思わずノリツッコミしてしまい、「しまった!」と気付いた時にはもう遅い。

隣で田川君が腹を抱えて笑っていた。


(しまった……朝から田川君のペースに乗せられた)


頭を抱えた、その時だった。

ふと視線を感じて顔を上げると、少し離れた場所に長塚君が立っている。


「おはよう」


笑顔で声を掛けたけれど、長塚君はちらりとこちらを見るだけで、そのまま通り過ぎて行った。


「何だ?あいつ……感じ悪!」


田川君が不満そうに呟く。


「長塚って、何気に女子に態度悪いよな」


「え?そうかな……?」


「本人曰く、基本ぼーっとしてるから女子の声が小さくて気付かないらしいけどさ。今のは、明らかに気付いてたよな」


同意を求められても、私は俯いたまま、


「……どうかな」


としか答えられなかった。


すると今度は、田川君が私の頭をがしっと掴む。


「ちょっと!何してるわけ?」


睨みつけると、


「悪い悪い。ちょうど良い位置に頭があったから、ボールかと思って」


と、悪びれもせず笑っている。


「人の頭を何だと思ってるのよ……」


文句を言いながら教室に入ると、


「たまちゃん、おはよう」


前の席の添田千秋ちゃん――ちーちゃんが声を掛けてきた。


「ちーちゃん、おはよう」


挨拶を返していると、田川君が首を傾げる。


「なぁなぁ、なんで田上が“たまちゃん”?」


「え?田上だから?」


不思議そうに見られて、


「小学校からの友達は“優里”って呼ぶけど、それ以降は何故か“たまちゃん”かな」


と答えた。


すると田川君が、


「玉川とかじゃないのに?」


ぽん、と手を叩いて、


「じゃあ、俺もたまちゃん?」


「はぁ?」


「俺、田川じゃん?田上と一文字違いだし、つまり俺も“たまちゃん”だろ?」


意味不明な理論を展開し始める。


「田川君は“たまちゃん”って感じじゃないと思う」


困ったように言うちーちゃんに、


「それ言うなら田上だって“たまちゃん”じゃないだろ。ハムちゃんとか?モルちゃんとか?」


顔を近付けてくる。


「はぁ?じゃあ、あんたは虎かライオン丸ね」


言い返すと、


「虎!?ネコ科の王様っぽくね?カッケェ!」


本気で喜んでいる。


呆れてちーちゃんと顔を見合わせた、その瞬間――

目の前に長塚君が立っていた。


「……ちょっと良い?」


驚く間もなく腕を掴まれ、そのまま引っ張られる。


「長塚君?ど、どうしたの?」


非常階段に出たところで、ようやく腕を離される。


「何?どういうつもり?」


突然のことに、思考が追いつかない。


「俺と付き合ってるのに」


低い声で、続けられた。


「どうして、他の奴との方が楽しそうなんだ?」


その言葉に、喉がぎゅっと詰まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ