無自覚という名前の距離
「クソ田川め! マッジでムカつく!」
昼休み。
お弁当のご飯に箸をブッ刺して叫んだ私に、亀ちゃんは乙女の顔をして、
「田川君、可愛い……」
と呟いた。
「可愛い? どこがよ! あの悪魔め!」
そう叫ぶ私に、夏美ちゃんが首を傾げて聞いてくる。
「じゃあさ、質問。それ、長塚君がやったら?」
「え? 長塚君はそんな子供っぽいことしないもん!」
「だから、例えば。あくまで“例えば”ね?」
「例えばねぇ……」
私が考え込んでいると、長塚君と同じクラスの理恵ちゃんが、
「あ、そうだ。長塚って言えばさ。あいつ普段ぼーっとしてるじゃない?
今日、入口のドアに思いっきり頭ぶつけてたよ」
と笑いながら話し出した。
「やだ! 長塚君、可愛い!
私、そのドアになりたい!」
思わず叫ぶと、夏美ちゃんと理恵ちゃんは呆れた顔で、
「どっちもどっちだよ……」
と、声を揃えた。
「でもさ」
理恵ちゃんが少し声を落とす。
「あんた、大丈夫なの?」
「え? なにが?」
お弁当を口に運びながら顔を上げると、
「あんたと田川、クラスでも“仲が良い”って噂になってるよ」
と言われた。
「あ〜……まぁ、友達?」
そう答えると、夏美ちゃんがぽつりと、
「優里がそう思ってても、田川はどうかな?」
と言った。
その一言に、私はご飯を喉に詰まらせる。
「え? なにそれ。
田川君が……私を? って言いたいの?」
思わず亀ちゃんを見ると、彼女は少し俯いてから、
「この間ね……田川君に告白した子が居たんだ」
と静かに話し出した。
「え? えぇ!?」
驚いた私に、夏美ちゃんと理恵ちゃんが「声、声」と睨む。
慌てて口に手を当てると、亀ちゃんは続けた。
「その子さ……
『好きな人が居る』って、振られたんだって」
その言葉に、二人の視線が一斉に私へ向く。
「え……?
でも、前は好きな人いないって……」
「だから」
亀ちゃんが、不安そうに私を見つめる。
「たまちゃんなのかな、って……」
「でも……私には長塚君が居るし」
そう言うと、夏美ちゃんが静かに言った。
「田川、知らないじゃん」
言葉に詰まる私に、
「優里ってさ……
無自覚に男子の気を引いちゃうところ、あるから」
そう続けられて、胸がぎゅっと痛くなった。
「……そんなふうに、思ってたんだ」
ぽつりと零すと、三人は顔を見合わせる。
少しの沈黙のあと、私は息を吸って言った。
「分かった。
田川君には、ちゃんと伝える。
私には好きな人が居るって」
一度、言葉を区切ってから続ける。
「それから……少し距離を置くよ」
そう言うと、三人は何も言わなかった。
その沈黙が、
この選択が正しいかどうかを、まだ誰も分からないことを示しているみたいだった。




