バレンタインデーは、やっぱり女子の味方
そして月日は流れ、二月十四日がやって来た。
長塚君とは、相変わらずの距離感のままだった。
話すこともなく、近づくこともなく、ただ同じ教室にいるだけ。
二年生になれば、クラス替えがある。
もしクラスが分かれてしまえば、もう長塚君と話すきっかけは、きっとゼロになる。
――だから、私は覚悟を決めた。
今日は、女の子が勇気を出していい日だ。
そう自分に言い聞かせ、チョコを忍ばせて、放課後の長塚君を呼び出した。
何も言わずに来てくれた彼を前に、
私はチョコを差し出し、叫ぶように言おうとした。
「今まで迷惑をかけてごめんなさい!
せめて、挨拶くらいは交わせる関係になりたいです!」
――その言葉を口にする前に。
「友達から、始めてみない?」
長塚君が、そう言った。
「……え?」
思わず顔を上げると、
長塚君は少し恥ずかしそうに、はにかんだ笑顔を浮かべていた。
「俺、彼女とか初めてだからさ。
とりあえず、友達から関係を作っていくのでも……いい?」
(……これって、夢?)
呆然と彼の顔を見つめていると、
不安になったのか、長塚君が付け足す。
「やっぱり、恋人じゃないと……だめかな?」
私は思いきり首を横に振った。
「うれしい! 本当に?」
気づけば、渡すために差し出したチョコを、ぎゅっと握り締めていた。
長塚君は困ったような顔をして、
「えっと……これは、くれるんだよね?」
と、チョコを手にしたまま固まっている。
「あっ、ごめんなさい!」
慌てて手を離すと、
長塚君はチョコを受け取り、私に手を差し出した。
「じゃあ、これからよろしくね」
――夢にまで見た、長塚君の大きな手。
私はそっと、その手を握った。
「ありがとう!
私、頑張るから。彼女になれるように、頑張るから!」
溢れて止まらない涙を拭いながら、そう告げると、
長塚君は多くを語らず、ただ、
「うん」
と、何度も答えてくれた。
私はこの先、幸せな未来が待っていると、疑いもしなかった。
――でもそれは、
理想と現実の違いを、思い知らされる始まりに過ぎなかった。




