恋のキューピットは難しい
なぜか、亀ちゃんの想い人である田川君と、隣の席になってしまった私。
いざ、恋のキューピット――!
……とは言うものの。
正直、何をどうしたらいいのか、さっぱり分からない。
心の準備をする間もなく、亀ちゃんの想い人――田川君が教室に現れた。
(いや、当然なんだけど……なんか、変に意識しちゃうじゃない)
田川君の噂は、かねがね亀ちゃんから聞いていた。
亀ちゃんが田川君を好きになったきっかけは、偶然見かけたワンシーンだったらしい。
隣の席の女子が恋愛相談をしているのを、田川君が親身になって聞いてあげていたのだという。
普通なら面倒に思いそうな他人の恋愛相談。
それを最後まで聞いたうえに、泣き出したその子の頭を、優しくヨシヨシと撫でていた――
その姿に、亀ちゃんは一瞬で恋に落ちたのだとか。
誰かを好きになるきっかけなんて、本当に人それぞれ。
でも私は、その話を聞いたとき、「亀ちゃんらしいな」と、なんだか微笑ましく思った。
出会った頃の亀ちゃんは、よくこんなことを言っていた。
「私ね、恋愛って……よく分からないんだ」
恋バナに花を咲かせる私たちを、不思議そうに眺めながら、
「好きって……いつ、どうやってそう思うの?
私、男子って乱暴だから苦手。だから一生、恋愛なんてしないかも……」
どこか遠い世界の話をするみたいに、そう言っていた亀ちゃん。
私たち三人は、いつか亀ちゃんにも素敵な恋ができるといいね、なんて話していた。
そんな亀ちゃんが変わったのは、二月。
期末テストが終わった日のことだった。
解放感に包まれながら、いつものメンバーでワックに寄ったとき――
いつもは恋バナに無関心な亀ちゃんが、ソワソワしながら頬を赤らめて、
「あのね……私、好きな人ができたみたい」
そう、小さな声で呟いたのだ。
恋愛にまったく興味がなかった亀ちゃんの初恋。
私たちが盛り上がったのは、言うまでもない。
「え? 何組の誰?」
前のめりで聞く夏美ちゃん。
亀ちゃんは真っ赤な顔で周りを確認してから、
「……三組の、田川君」
そう、消え入りそうな声で答えた。
(なにそれ……亀ちゃん、可愛すぎる)
初恋に沸く私たちをよそに、理恵ちゃんだけは冷静だった。
「田川って……バスケ部の?」
「え? 田川君って、バスケ部なの?」
目を輝かせる亀ちゃんに、私は心の中でうなずく。
(そっか、恋したばかりだもんね。まだ知らないことだらけだよね)
けれど次の理恵ちゃんの一言が、空気を変えた。
「田川って、あの田川でしょ?
バスケ部の三馬鹿トリオの一人じゃん。
……どこがいいの?」
(バスケ部の三馬鹿トリオって……)
相変わらず辛辣な理恵ちゃんに苦笑いしていると、
亀ちゃんが机を叩いて立ち上がった。
「田川君は、すごく優しい良い人だよ!」
(おお……!)
普段は大人しい亀ちゃんが、理恵ちゃんに真正面から反論している。
ポテトをつまみながら、私は思った。
(恋する女の子って、好きな人のためなら強くなれるんだなぁ)
周囲の視線に気づいて、慌てて座り直す亀ちゃんを、生温かい目で見守っていると──
理恵ちゃんは、まったく気にした様子もなく話題を変えた。
「そういえば田川、最近、中学の頃から付き合ってた彼女と別れたらしいよ」
「えっ! 田川君、彼女いたの!?」
「うん。何気にモテるんだよね。背が高いからかな」
そして、さらっと続ける。
「でも今はフリー。
好きになったときに相手がフリーなんて、亀ちゃん、ラッキーじゃん」
「これ、案外運命かも!」
盛り上がる夏美ちゃんの横で、私はポテトを食べながら、ぼんやり考えていた。
(何気にモテる……田川君、か)
実はこの頃の私は、まだ田川君のことをよく知らなかった。
──だからこそ。
翌日、部活見学に行くことになったのは、私にとっても楽しみだった。




