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信じた約束、届かなかった想い

 研修旅行が終わり、ようやく日常が戻ってくる――と思いきや。


 林田さんや、他のカップルたちの間から、

「田上に恋愛相談すると、成就するらしい」

という噂が広まってしまった。


 実際、私は男女問わず仲の良い人が多く、恋愛相談を受けることも少なくなかった。

 相談されたら、片想いの相手と話す“きっかけ”を作るくらいは、よくしていた。


 だって、好きな人ほど緊張して話せなくなるでしょう?

 距離を取ってしまう、いわゆる“好き避け”。


 だから私は、

「まずは気軽に話せる関係になること」

「毎朝、笑顔で挨拶だけは続けること」

そんな、ほんの小さなアドバイスをしていただけだ。


(後から聞いた話だけど、理恵ちゃんもこの“挨拶作戦”でバスケ部の先輩を落としたらしい)


 でも、長塚君みたいに、そもそも挨拶作戦が通用しない人もいる。

 だからきっと、私がしたことは「成就させた」のではなく、

 もともと両想いだった人たちの背中を、ほんの少し押しただけなのだと思う。


 それなのに、なぜか私は女子から恋愛相談を受けるようになってしまった。


 そんなある日。

 遥香ちゃんに連れられて、中村祐子ちゃんから相談を受けた。


「……長塚君が好きなの」


 そう打ち明けられ、私は正直に答えた。


「ごめんね。私も、長塚君が好きなんだ」


 一瞬、気まずい空気が流れたけれど、私は続けた。


「でも、同じ人が好きならさ。お互い、協力して頑張ろう」


 そう言って、私たちは握手をした。


「私、二人を応援するよ!」


 遥香ちゃんもそう言ってくれて、

 その場で私たちは約束した。


 ――正々堂々と、長塚君が好きな者同士、協力し合おう。


 だから私は、自分が知っている長塚君の情報を、祐子ちゃんにきちんと伝えた。


 林田さんや千田君から聞いた話――

 中学は私立の男子校だったこと。

 幼稚園から中学まではあるけれど、高校がないため、うちの学校に進学したこと。


 でも、祐子ちゃんからは、何の情報も返ってこなかった。


 それでも私は、

 祐子ちゃんは大人しくて交友関係が狭いから仕方ない、そう思っていた。


 それに私は、

 長塚君を“秘かに想って、諦めなくちゃいけない立場”。


 好きな気持ちに嘘はないからこそ、

 祐子ちゃんとも、長塚君が好きな者同士、誠実に向き合いたいと心から思っていた。


 ――そんなある日。


「たまちゃん。長塚君の住所、書いた紙……祐子ちゃんから見せてもらった?」


 突然、遥香ちゃんにそう聞かれた。


「え? 何の話?」


「この前ね。長塚君も英検受けるから、受験票に住所と電話番号が書いてあって……。私、必死に覚えて、祐子ちゃんに『たまちゃんと二人で見てね』って渡したんだよ」


 驚いた顔でそう言うと、遥香ちゃんは祐子ちゃんのところへ駆けて行った。

 しばらく話したあと、戻ってきて、ぽつりと呟く。


「今日は、その紙忘れたから、明日持ってくるって……。私ね、二人のために必死に覚えたのに……たまちゃんに教えてないって、正直ショック……」


 けれど結局、

 長塚君の住所と電話番号が書かれた紙を、私は一度も見ることはなかった。


 祐子ちゃんは「忘れた」を繰り返し、

 二週間ほど経った頃には、遥香ちゃんも察したようだった。


 ――あえて、持ってきていないのだと。


「ごめんね、たまちゃん……。まさか、祐子ちゃんがそんなことするなんて……。私、もう住所覚えてないし……」


 涙目で何度も謝る遥香ちゃんに、私は苦笑して答えた。


「気にしなくていいよ。それより、遥香ちゃんの気持ちが嬉しかった」


 そして、そっと言った。


「……このこと、もう忘れよう」

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