ハプニング女王と、芽生えた友
――ハプニング女王の私。
その瞬間、閉じていたドアが勢いよく開いた。
現れたのは遥香ちゃんと、その背後にいた長塚君を含む男子たち。
ぱっくりと開いたままの私のジャージに、ドア付近の人たちが一斉に固まる。
「たまちゃん!」
林田さんがすぐさま私のジャージのファスナーを引き上げると、キッと遥香ちゃんの背後にいる男子たちを睨みつけ、
「何見てるのよ! 遥香ちゃん、ドア閉めて!」
そう叫んだ。
事態を理解できず固まっていた遥香ちゃんが、慌ててドアを閉める。
その一瞬――私は見てしまった。
長塚君が目を見開き、慌てて視線を逸らした、その瞬間を……。
(神様仏様……あなたは、私のことがそんなに嫌いですか?)
よりによって、長塚君に見られてしまうなんて。
「たまちゃん、ごめんね……」
しばらくしてドアを開けた遥香ちゃんが、何度も何度も謝ってきた。
「大丈夫だよ。不可抗力だもん」
そう言って笑ったけれど、それからというもの、偶然長塚君と目が合うと、彼は必ず視線を逸らすようになった。
――散々な研修旅行だった。
けれど、この出来事がきっかけで、林田さんとは驚くほど仲良くなった。
実はこの後、研修旅行での一件について、
「男子の気を引くために、わざとやったんじゃないか」
そんな噂が、陰で流れてしまったらしい。
どうやら私は、一部の女子からあまり良く思われていないようだった。
夕飯を理恵ちゃんたちと食べていると、
「ちょっと! いい加減な噂流してるんじゃないわよ!」
突然、怒鳴り声が響いた。
噂話を耳にしたらしい林田さんが、怒りを隠さず叫んでいた。
「あれは、私の髪がたまちゃんのジャージに絡んだだけ! 不可抗力なの!」
そして、食堂中に聞こえる声で、
「見てた人もいるでしょう? どうして陰で悪口言うかなぁ!」
その言葉に、食堂は一気に静まり返った。
「次に私の耳に入ったら、言った人、絶対に許さないから!」
――美少女の睨みは、顔立ちが整っている分、想像以上に怖い。
庇われている私まで、思わず背筋が寒くなった。
林田さんはそのまま私に抱きつき、
「たまちゃん、ごめんね……私のせいで……」
と、半べそをかいている。
「え? 林田さんのせいじゃないよ」
「いや……私のせいだよ。私、前から色々言われてるから……」
その言葉で、私は気づいた。
林田さんは、可愛いがゆえに、女子の友達が少ない。
千田君のグループは男女三人ずつの六人組で、全員が驚くほどモテる。
羨望や嫉妬の対象になりやすいのだろう。
実際、私も――
「可愛いから男子をはべらかしてる」とか、
「思わせぶりで男を翻弄してる」とか、
心ない噂を聞いたことがあった。
(美少女は美少女で、大変なんだな……)
そう思っていると、
「たまちゃんさ。前に私の噂を聞いて、『私は信じない』って言ってくれたでしょう?」
林田さんが、少し恥ずかしそうに続けた。
「だから……友達になりたかった。でも、結局迷惑かけちゃったね……」
しょんぼりする林田さんに、私は微笑んで言った。
「私も林田さん、好きだよ。庇ってくれて、ありがとう」
すると林田さんは、目元に涙を浮かべながら、ふわっと笑った。
本当は、とても素直で優しい人なんだと思う。
千田君のグループは目立つから、一般人の私はあまり関わる機会がなかった。
千田君とは席が隣だから話すけれど、他の人とはついで程度。
だからこそ、林田さんと仲良くなれたのが、素直に嬉しかった。
その夜。
林田さん、長内さん、津山さんの三人が私たちの部屋に遊びに来て、恒例の恋バナ大会が始まった。
林田さんは千田君が好きで、
私と千田君が仲が良いから、付き合っているのではと勘違いしたこともあったらしい。
恋バナで盛り上がっているうちに、千田君たち男子も乱入してきて、
消灯時間まで、久しぶりに心から楽しい時間を過ごした。
そして翌日――
いつの間にか、林田さんと千田君が付き合い始めていた。
私の知らないところで、いくつかのカップルが誕生していたらしい。
「たまちゃんがきっかけなんだよ」
そう林田さんは言ってくれたけれど、私は少し複雑な気持ちで二人を見ていた。
もし、
――長塚君が林田さんを好きだという噂が本当だったとしたら。
長塚君も、今、失恋して傷ついているのかもしれない。
誰かのものになるのは見たくない。
でも、傷ついてほしくもない。
そんな矛盾した感情を抱えたまま、私は自分の気持ちを持て余していた。




