ハプニングの神様、再び!
泣いて泣いて……少し落ち着いた頃、研修センターの構内放送が流れた。
『清掃の時間です。ジャージに着替えたら、各クラス、使用した研修室の清掃を行ってください』
涙はすっかり止まり、瞼の腫れも目立たない。
私は気持ちを切り替え、清掃のためにジャージに着替えて研修室へ戻った。
その途中、
「え~、別に体育着、着なくてもよくない?」
「どうせジャージ脱がないしさ」
という話になり、結局、体育着は着ずにジャージの上着だけを羽織った状態で、みんな研修室へ向かった。
――まさか、これが後に後悔することになるなんて。
この時は、誰も思っていなかった。
研修室に着くと、各班ごとの清掃場所が張り出されていて、私たちの班は研修室担当だった。
掃除用具入れからホウキを取り出し、人数が余った班員はテーブルを雑巾で拭いていく。
私は理恵ちゃんからホウキを受け取り、ぼんやりと床を掃いていた。
ラッキーなことに、長塚君たちの班は廊下掃除。
顔を合わせずに済むことに、正直ホッとしていた。
掃除が一段落し、ホウキを掃除用具入れに戻そうとした、その時。
「ギャーッ!」
突然、悲鳴が上がった。
しかも、出口近くの掃除用具入れの前に立っていた私に向かって、
女子が凄い形相で走ってくる。
何事!?と思った瞬間、察した。
――黒いヤツが出たらしい。
私も反射的に掃除用具入れの扉を閉め、みんなと一緒に逃げ出す。
「大丈夫。私が外に出すから」
そう言ったのは、色白でふわふわした、お人形さんみたいな鵜澤さんだった。
なんと彼女は、例のヤツを素手で掴み、そのまま外へ放り出したのだ。
その光景に、再び悲鳴が上がる。
鵜澤さんは何事もなかったかのように水道で手を洗いながら、
「もう大丈夫だよ」
と微笑んだ。
ドア付近では、女子たちが団子状態で抱き合い、
それを男子が呆れた顔で眺めている。
(いや、だったらお前らが何とかしろ!)
そう思った、その時だった。
「うわっ! お前らの足元に!」
誰かがふざけて叫んだ瞬間、空気が凍る。
「ギャーッ!」
悲鳴とともに我先にと逃げようとした後列の人が転び、
そのままドミノ倒しのように、次々と倒れ込んでしまった。
ドア付近にいた私は、完全にみんなの下敷きになる。
「山崎! お前の悪ふざけで大変なことになったじゃないか!」
偶然通りかかった教師が、ふざけた男子を怒鳴っている声が聞こえる。
(山崎……後で覚えてろ……)
そう思いながら、少しずつ人の重みが減っていくのを待っていると、
「痛い……」
私の上に乗っていた林田さんの声がした。
どうやら、林田さんのウェーブのかかった髪の毛が、
私のジャージのファスナーに絡まってしまったらしい。
(よりによって……林田さん!)
癖毛らしく、ゆるく波打った髪。
近くで見ると、長いまつ毛に大きな瞳、華奢な体つきの――まさに美少女だ。
「たまちゃん、ごめんね……」
困ったように眉を寄せる表情さえ、可愛い。
「大丈夫だよ。林田さんこそ、平気?」
どうやら、二つに結んだ右側の髪が引っかかっているようだった。
周囲のみんなが心配して見てくれたけれど、思った以上に絡みが強く、すぐには取れない。
髪をほどき、少しずつ、慎重に解いていく。
「その部分だけ、はさみで切れば?」
誰かの一言に、
「切るのは嫌!」
林田さんが即座に叫んだ。
……そりゃ、そうだよね。
一部分だけ短くなるなんて、絶対嫌だ。
時間をかけて、ゆっくり、ゆっくり。
ようやく髪の毛がすべて外れた。
その時、私はすっかり忘れていた。
――ジャージのファスナーが、半分ほど下がっていたことを。
ずっと胸元に林田さんの頭があった状態から解放され、
顔を見合わせた私たちは、
「やったー!」
と、思わずハイタッチ。
その瞬間――
ハラリ、と。
ジャージの前が、大きく開いてしまったのだった。




