逃げ場のない想い
班分けは名前順で決まっていて、うちの班はなぜか、津田君が女装して手品を披露することになっていた。
(男子って、何気に女装好きよね……)
仕切りはすべて千田君が担当してくれていて、準備は学校で既に済ませてあった。
そのため、特にやることのない班は自由時間になり、理恵ちゃんや亀ちゃん、夏美ちゃんたちは部屋で雑談をしていた。
私は気晴らしに、研修センターの散歩コースを一人で歩くことにした。
山奥にある研修センターには、いくつかの散策路が整備されている。
その中でも、小高い丘にある見晴台は距離的にも遠すぎず、気分転換にはちょうど良さそうだった。
丘を登ると、遠くに海が見え、周囲には深い緑が広がっていた。
私は近くにあった木製の長椅子に腰掛け、ぼんやりとその景色を眺める。
正直に言えば、(失恋した)好きな人と同じ空間にいるのは、思っていた以上に辛かった。
諦めなくちゃ、という気持ちと、まだ好きでいたいという気持ちが胸の中でぶつかり合い、苦しくなる。
「はぁ……」
小さく息を吐いた、その時。
背後から、人の話し声が近づいてくるのが聞こえた。
誰だろう、と振り向いた瞬間、私は息を呑んだ。
――長塚君が、同じ班の人たちと一緒に、こちらへ歩いて来ていたのだ。
このタイミングで立ち上がって戻るのは、さすがに不自然すぎる。
どうしよう、と迷っていると、
「あれ? たまちゃん、一人?」
長塚君と同じ班の長塚遥香ちゃんが、私に声をかけてきた。
「あ……うん。ちょっと外の空気、吸いたくなって」
苦笑しながら答えると、
「分かる分かる。隣、いい?」
そう言って、遥香ちゃんは私の隣に腰掛けた。
遥香ちゃんとは選択授業が一緒で、自然と仲良くなった子だ。
戻るタイミングを完全に失った私は、いつこの場を離れようかと内心そわそわしていた。
「今日のレクリエーション、楽しみだね~」
何も知らない遥香ちゃんの言葉に視線を向けると、その向こう側に、長塚君の姿が見えた。
友達と楽しそうに話していて、私の存在なんて、特に気にも留めていないように見える。
少しだけ、寂しくて。
でも、どこかホッとした。
そんな気持ちで遥香ちゃんと話していると、不意に――長塚君の視線が、こちらに向いていることに気づいた。
(……やっぱり、迷惑だよね)
そう思った私は、
「遥香ちゃん、ごめんね。私、そろそろ戻るよ」
そう言って立ち上がった。
その瞬間、長塚君と、がっちり目が合ってしまった。
ドクン、と心臓が大きく跳ねる。
一気に顔が熱くなる。
(ダメだ……。まだ、こんなにも好きなんだ)
情けなさに胸が締め付けられ、私はその場から足早に逃げ出した。
苦しくて、切なくて……。
部屋に戻るなり泣き出した私に、理恵ちゃんや亀ちゃん、夏美ちゃんが驚いていたっけ。
学校では、絶対に泣かないって決めていた。
でも、研修旅行には逃げ場がないことを、この時初めて思い知らされた。
心配をかけたくなかったのに、もう限界だった。
告白してからというもの、今までは一方通行だったはずの視線が、なぜか長塚君と重なることが増えた。
きっと……
「モブ」から、「自分のことが好きなやつ」へと、認識が変わっただけなのだろう。
でも、それは――
「好きな子」になることとは、まったく違う。
「でもさ、それって、意識されてるってことだよね!」
泣いている私に、亀ちゃんがそう言って励ましてくれた。
「まぁ、それが良い意味か悪い意味かは分からないけど」
「理恵ちゃん!」
理恵ちゃんの毒舌に、亀ちゃんと夏美ちゃんが慌てて止めに入る。




