番外編~繭花ちゃんの結婚式③~
まだ、高校生だったあの頃。
気が付けばいつも、私の隣には田川君が並んでいた。
どんな時も、いつでも私の隣に寄り添ってくれていた。
そんな田川君とだから、この先もずっと……
私は歩いていけると思えたのだ。
カードには、こう書かれていた。
『ずっと、二人が寄り添う姿に憧れていました。
おじいちゃんとおばあちゃんになっても、
ずっと二人で寄り添っていてください。
石橋健太&繭花』
涙が込み上げる私に、田川君が
「お前、ハンカチいくつあれば足りるんだよ」
と言いながら、また私にハンカチを差し出す。
「そういえば私って、聡にハンカチ借りてること、多くない?」
と呟くと、
「今さら?」
と、呆れた顔をされた。
あの日──
長塚君と、初めてきちんと別れ話をした日。
タオルを顔に投げつけて、
何も言わず、ただ私の隣に座ってくれていた田川君。
多分、あの時から……
こうなる運命だったのかもしれない。
そんなことを、ふと思ってしまった。
すると今度は、ち~ちゃんが自分の席札を見て泣き出した。
きっと参列者一人ひとりに、その人との思い出の写真が
席札として用意されているのだろう。
そんなち~ちゃんに、そっとハンカチを差し出す小野君。
私は、その様子を見逃さなかった。
小野君がち~ちゃんを見る目は、今も優しい。
二人が別れたり、くっついたりを繰り返しているのは、
研究者になりたいち~ちゃんの夢を応援して、
あちこち飛び回る彼女を自由にするためだと、
私たちは知っている。
この二人の未来も、
いつかひとつに繋がればいいのに……。
そう願ってしまうのは、我儘なのだろうか。
そんなことを考えていると、
会場の照明が落ち、モニターに映像が流れ始めた。
赤ちゃんの石橋君と繭花ちゃんが、交互に映し出される。
中学で出会い、高校二年で付き合い始め──
そこから、私たち六人の写真が現れた。
繭花ちゃんの隣には石橋君。
小野君とち~ちゃん。
そして、私の隣には田川君。
どの写真でも、田川君は私を見ていた。
まだ私が長塚君を好きだった頃から、
ゆっくり、ゆっくり恋人になっていく過程。
少しずつ縮まる、私と田川君の距離。
私を見つめる田川君の写真から、
並んで笑う二人の写真へ──。
(あぁ……私は、こんなにも愛されていたんだ)
映像は、涙で滲んでいく。
「あいつら、わざとあの写真選びやがったな……」
隣で苦々しく呟く田川君の手に、そっと触れて
「ずっと、好きでいてくれてありがとう」
と伝えると、
恥ずかしそうに顔を逸らして
「ば~か」
と呟いた。
その横顔は、高校生の頃に何度も見た、あの横顔だった。
やがて画面は、
私たちの結婚式で二人と写った写真へと変わる。
『大好きな二人のような夫婦になります』
その文字と共に、
今の石橋君と繭花ちゃんが笑う写真が映し出された。
私と田川君は、顔を見合わせた。
その時、ゆっくりと会場に明かりが灯り、
司会者の明るい声が響く。
「新郎新婦の入場です!」
大きな拍手の中、
二人が幸せそうに歩いてくる。
ふと隣を見ると、
目を真っ赤にした田川君がいた。
「あれ? 聡? お前、泣いてんの?」
通りすがりに、石橋君が悪戯っ子のように笑ってからかう。
「な……泣いてねぇし!」
そう叫んだ田川君の隣で、私は号泣。
「たまちゃんは……まだ泣いてるの?」
呆れた顔の石橋君。
その隣で、繭花ちゃんが幸せそうに微笑んでいる。
その姿を見て、また滝のように涙が溢れた。
「お腹が大きいのに、来てくれて本当にありがとう」
繭花ちゃんの言葉に、
私はひたすら頷くしかなかった。
──気分は、完全に花嫁の母。
私たちのテーブルに一礼して、
二人はゆっくりと高砂へ向かっていった。




