#4 異世界チュートリアル
「え、えーっと……」
俺の決死の求婚に困惑する美少女。無理もない。俺だって、こんな美人様に出会えるなんて思ってもみなかったのだから。
「気にしなくていいよ。これは、稀人種の奇行だから」
「え? あ、うん……」
おずおずと引き下がるところも全部可愛らしい。
見惚れていると、死神による強烈な飛び蹴りが俺の頬をべしこーん!!と打った。
「いてぇな!?」
「やっぱ間違えちゃったかなぁ、選定」
むむむ、と腕組みをしながら思い悩む死神。
「状況がよく分からないんだけど、この人が私を護ってくれる……っていう認識で良いのかしら」
銀鈴の声が、飛び蹴りを食らった俺には酷く心地よい。まさしく女神の如き慈愛に満ちている。
これだけでも転生した意味はあったのかもしれない。現世では何一つうまくいかなかった俺だが、こんな美少女に会えるならまあ悪くない。
「死神……俺、初めてお前に感謝したわ。サンキューな」
「僕は逆に失望したけど……」
ふぅーっとため息をつく死神。
なんだ、失礼なやつだな。
「……逸れに逸れまくった話を戻すけど、この子はニクス。雪人種なんだけど、ふかーい事情があってね。色々稀人種を選んでいるんだけど上手く行かなくて」
「なんだ、そんな事なら言い渋ることないだろ。大丈夫だ、俺が来たんだから大船に乗った気分で鼻歌でも歌ってりゃいい」
「信用ならないなぁ。大船に乗った気分ってそれ泥船の間違いじゃない? ゴボゴボ〜ってすぐ沈みそう」
いや、お前が俺の寿命を勝手に縮めて無理やりこの世界に連れてきたんだろうが。俺の同意もなしに事を進めておきながらごちゃごちゃ言うなというツッコミは心の中に秘めておくとして。
問題は。
「俺、魔法とか使えないんだよな? なのに稀人種が選ばれる理由ってなんなんだ? 正直あれだけど、この世界に来たとしてもあんまり戦力にならない気が」
自分で言うのも癪なことではあるが、実際問題そうだ。死にまくれば強くなるというのは理解できたが、そうは言ってもグーパンのみでこの美少女を守ると言われても、イマイチピンと来ない。
「あぁ、それは……むぐっ!」
「それは私から説明するわ。簡単に言うと……魔法を使えると、逆に作用しちゃうの」
「逆に作用?」
「ええ。稀人種はその名の通り、魔法が使えない人。その特異さが、この世界では良く響くのよ」
イマイチ言っていることが分からないが、つまりは。
「俺のイレギュラーさが逆に世界を助ける、って感じか?」
ふふん、と鼻を鳴らせば、またしても死神のため息が聞かれる。おい、いちいち煩いぞ。
「全部筒抜けだよ、祭理」
「何だよ、間違っちゃいないだろ」
「とにかく、ニクスについての妄想は程々にしときなね。言ったでしょ。油断してると――"大事なもの"をポンポン失うよ」
「はぁ……んで、護るというのはまあ理解できたんだが。俺はこれから何をすりゃいいんだ」
「世界の“呪い”を解いてもらいたいんだ。ニクスは頑張ってこの世界の呪いを解こうとしているんだけど……なかなか一人じゃ厳しくてね。君が死ぬたびに強くなるって話、覚えてるよね? あれ、ただの仕様じゃなくて“鍵”なんだ」
「鍵?」
不思議な物言いだ。鍵とはどういうことか。
「そう。君の死は、この世界の因果をひっくり返す“逆位相”を生む。雪人種だけでは絶対に触れられない領域に、君たち稀人種は干渉できる」
「ふむ。つまり、耐久ゲーってところか」
俺が呪いを解くのに、死んで、死んで死にまくって失敗しまくれば、干渉できる範囲も広くなるが……俺の大事なものとやらも失い続けると。
つまり、どちらかが先に果てるゲームだ。
「君の解釈のしやすい方法でいいけど。君の死はこの世界じゃ“資源”みたいなものでね。雪人種だけでは暴走する領域も、稀人種と一緒なら安定する」
「俺の命、そんな便利素材みたいに言うなよ」
「便利なんだよ。だから選んだんだよ。呪いは、普通の種族だと無理だけど、君たち稀人種なら幾らでも戦える」
死神は軽く笑っているのに、言っている内容は全然軽くない。
「おい、それって……俺、何回死ねばいいんだ?」
「さぁ……? 今まで何人もの稀人種がチャレンジしてきたけど、脱落した人がいるから君が呼ばれたんだって事……もうそろそろ理解できたよね? 言ったでしょ、成功すれば現世で一発逆転だって。最期に与えられたラッキーチャンスさ」
「ラッキーチャンスって……」
「でも安心して。君は死ぬたびに強くなる。そのうち死ぬのも上手くなるよ」
「褒められてる気がしねぇ!」
そんな俺たちのやり取りを、ニクスは不安げに見つめていた。
「……本当に、そんな危険なことをさせて大丈夫なの? アウロラ?」
「危険じゃないよ。だって彼、死んでも戻ってくるし」
「いや危険だろ!?」
死神は肩をすくめる。
「とにかく、祭理。君がやるべきことは一つだけ。――呪いを解くために戦って、死んで、死んで、死に続けること。――死んで戻ってくること。それを繰り返して、少しずつ呪いを削る」
その声音だけは、皮肉も軽口もなかった。
「君の死が、"彼女"を救う唯一の手段なんだよ」




