#2 賭けの内容
俺は、何をやっても上手くいかなかった。人生大失敗の人間だ。
親はアル中で暴力を奮ってくるから疎遠で、連絡もまともに取ってない。
一方俺自身はと言えば浪費癖に加えて彼女なし、同期と比べてもスペックとしては劣るばかり。
小中の頃に散々いじめられて、自身の容姿に関しては超コンプレックスで、いじめられるのが悔しくてせめて勉強だけはとガリ勉だった。
それ以外は特になんの取り柄もない、ごくごく普通の会社員。
だがそんな俺でも仕事だけは。仕事だけは真面目にコツコツと頑張ってやっていたというのに。
それなのに、なぜ。なぜこんな意味不明な死神がご丁寧に俺の枕元までお迎えに来やがっているのか。
まだ二十三歳だぞ。
死ぬには早すぎるだろうが。
「賭けって何なんだよ」
「よくぞ聞いてくれた!」
むくれ顔の俺の質問に、謎の死神は嬉しそうにふふんと鼻を鳴らす。興奮しているのか、パタパタと羽もせわしなく動かしている。なんか腹立つな。
「賭けってのはつまりだな……異世界転生ってやつさ!」
両者の間に重苦しい沈黙が流れる。
「うん、もう寝るわ。睡眠薬もらったしこいつをちょっと量増やして飲めば……」
「いや、ODはダメっしょ。最近若者の中で多いけどさ〜。流行りなの? 僕たち死神の仕事が多くなるから勘弁してほしいんだよね」
呑気な奴だな……。
「まあでも生きててもお金ないんだし、あと二日で死ぬんだし。異世界転生って聞いたらもうちょっと喜ぶかと思ったんだけどな」
「いや、強制的に人生ログアウトさせられていい気になる奴がいるかよ」
「残念だなぁ、せっかく豪華な特典も用意したのに」
その言葉に、俺の耳はピクリと反応した。
「豪華な特典?」
「そう。転生者は特殊能力を得られるんだ!」
俺は頭を抱えた。死神が見える時点で現実感はとうに失われていたが、今度は異世界転生だと? しかも特殊能力付き? いよいよ、薬の効果云々で逃れられるような問題ではなくなってきた。
「……選ばなかったら?」
「その場合は、予定通りあと二日で死ぬだけだね。あ、ちなみに死因は“事故”だよ。避けようがないやつ」
「じゃあ引き籠ってればいいんじゃ? 丁度会社にも行けないんだし」
「残念ながらそうもいかないんだよね。死からは君は逃れられない。例え事故でないとしても、君の命は終わる」
「はぁ……?」
「……僕が来たからには死は逃れられない。悪いけど」
小動物の顔が初めて曇る。
「何か事情があるのか」
「ああ、あまり詳しくは言えないんだけど。でも、安心して。僕がいる限り転生した、人生二周目はやり放題さ。だって僕は死神だからね。何回でもリトライは可能だよ。君が向こうでちゃんと役目を果たしてくれれば――その時は、現代の弾祭理の将来を保証しよう」
「つまり、いっぺん死んでくれって訳か。んで、異世界に転生して、トライアンドエラーを繰り返して、成功すれば現世に返すと。そして将来の安定も保証すると」
「話が早いねぇ! そういうことさ」
と言われても。
俺の脳内は疑問でいっぱいだ。
「……彼女は?」
「それは勿論、素敵な彼女をご紹介しよう。ああ、でも君の好みが分からないから……紹介する前にタイプは聞いておきたいかも? セクシー派か清楚派かとか色々あるもんね。ちなみに祭理はどっちが好み?」
「……セクシー派で」
死神相手に馬鹿正直に答えてしまった。クソ。
「……お金は?」
「君が満足いくまで出せるよ。一億でも一兆でもなんぼでも要求してくれていい」
「……今後のキャリアは?」
「それも大丈夫。何にも心配ない」
いや、会社に行かずに異世界大冒険!で今後のキャリアが怪しくならないほうが問題だろ。
色々とツッコミどころ満載だが、俺はふぅーっと息をついて呼吸を整える。そして、切り出した。
「……じゃあ、最後に一つだけ聞かせてくれ」
俺は死神の目をじっと見据える。ずっと、小動物のような顔に、どこか人間臭い“後ろめたさ”が浮かんでいるのが気になっていた。
「お前がわざわざ俺のところに来た“本当の理由”は何だ?」
死神は黙り込んだ。耳の先がピクリと揺れる。だが、俺は意に介さない。考えてみればおかしな話だ。死神に魅入られて異世界転生なんてどこのニュースでも聞いたことがない。
それこそ、ライトノベルやネット小説などで読んだことはあったが、こんな人生あればいいなと理想として思っておく程度だった。
「色々都合のいい話ばっかだったが、どう考えても話がうますぎるんだ。死ぬのは確定、でも異世界で成功すれば現世で復活できる? そんな都合のいい話、あるわけないだろ」
「……」
「答えてくれ。死神。そうじゃなきゃ、俺はお前に協力できない。命を差し出すことなんて出来ない」




