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第十二話 光

携帯の電源を立ち上げ、目の前の彼と見比べる。

盗撮画像であるため画像は鮮明ではないほか、光の当たり方や顔の向きは違うため画像と目の前の人間の印象は異なっていたが、その独特な髪の色と制服から同一人物だと予測できた。


僕は心の中で歓喜する。待ち望んでいた来訪者が目の前にいた。目の前の少年は沈痛な表情で俯き、何かを考えているようであった。僕は彼の視線の先をたどり、彼の足元を見た。そして僕は目を細め考えた。


なるほど、状況は少しつかめた。

後は、あちらがこちらを信頼するように話を持っていくだけだ。


僕は慣れた手つきで口角を持ち上げる。笑顔の仮面はかぶった。

さぁ、駆け引きの始まりだ。



――――――



僕の名前は光里光みつり ひかる。なんてことない、ただの中学1年生だ。

・・・そう言えたらよかったんだけど。


「はぁ・・・」


ため息をつく。

今日は親が家に帰ってくるまで自分は家に帰れない。いつも20時を過ぎるまで親は返ってこないため、それまでどこかで時間をつぶさなきゃいけない。そこで通学路の途中にあった公園のベンチに座ってみたが、やることもない。暇な僕は暇を潰すために携帯を触る。


適当に動画サイトでも漁ろうかな、でもあんまり外で音を出すのもあれかな。イヤホン持ってないし。そう思いながら周りに人がいるかどうかを見るために顔を持ち上げ、左に顔を向けると、隣に座っていた人と目が合った。


その人は僕より少し年上そうな顔で、髪は僕と似た色をしていた。どこか陰のあるような目つきをしていたような気がしたが、僕と目が合ったのを機にその表情はやわらかく、優しいものになっていった。その一瞬の変化に僕は同性にもかかわらず見惚れてしまっていた。


そこで数秒じっくりと見つめ合った後、自分はなぜ初対面の人と見つめ合っているのだろう。この人に失礼なのではないのかと思い、あわてて目線を逸らす。


すると隣の方から軽く笑うような声が聞こえてきた。隣の彼が笑っているのは明白だった。その理由が気になってもう一度彼の方に顔を戻すと、先ほどよりも少し崩した笑顔で僕を見つめていた。


「ごめんね。君がいい反応するから」


そう言って彼は足を組み替えた。


そして彼はそのまま僕の方に体を少し向けて話をつづけた。


「暇なら少し話さない?」


年も近いし、話も合うと思うんだ。

そう言い、僕の様子を伺う。僕はその申し出に乗ることにした。暇であったのもあるが、この人と話せば、何かが変わると感じたからだ。



―――――――――



しばらく話してわかったのは、この人は僕と似ているな、ということと、とても博識なことだった。僕が何か話題を提供すると、その話題が何であろうと詳細な知識とスマートな持論を持ち、僕との対話を盛り上げてくれた。知識の出し方も相手に見せつけるようなものではなく、あくまで話を盛り上げるように自然と小出しにされるそれは僕の好奇心を擽り、彼の話を聞きたいと思わせたし、彼に自分の考えを話してどのように返してくれるのかという期待に満ち溢れるものであった。


久しぶりの会話がこんなに楽しいものになるなんて!


僕の中にぽっかり空いた孤独という落とし穴が、この人との会話で少しずつ埋まっていくような感じがした。この人ともっと話していたい。このまま別れるなんて嫌だな。


おおよそ初対面の人間に思うようなことではないことを考えながら僕たちは会話を楽しんだ。


そしてふと、彼は気が付いたように僕に行った。


「そういえば、君はなんで上履きを履いているのかな」


僕は自分の足に目を向ける。そこには靴ではなく、上履きが自分の足に収まっていた。現在いる場所は公園で、それを履いているのは間違っているだろう。


僕はおしゃべりの楽しさから忘れていた現実を思い出し、一気に陰鬱な気分になった。そうだ、僕は今日靴を隠されてしまい、帰れなくなっていたのだ。しかも、最悪なことにその日は放課後に校舎一斉清掃がされる予定であったため、いつもより早い時間に生徒は学校からでなければいけなかった。


僕は時間の限り靴を探したが、限られた時間の中、焦りもある中で捜索はうまくいかず、結局間に合わなかった。


困った僕は上履きのまま、校舎の外へ出た。砂利を踏む感覚が上履き越しに届き、運動部が走る横で歩く。その時の羞恥心と悔しさは時間がたっても忘れられるものではなかった。


一度家に帰ったが、玄関に上履きを残すわけにもいかず、かといって、上履きを隠したら帰ってきた親に「なんで帰ってるのに玄関に靴がないの?」と言われてばれてしまう。考えなしに帰ってしまった僕がとった行動の巻き返しとして考えた計画はこうだ。


親が帰ってくるまでどこかで暇を潰し、翌朝、親より早く家から出る。


そのためにこの公園に来ていたが、さっきまでそのことを忘れてしまっていた。

親が帰ってくるまでまだ1時間以上ある。それまでこの人がここにいてくれるわけでもないだろうし、それまで一人で上履きのまま待ち続けるのは本当につらいと思った。


急に落ち込み始めた僕の様子を見てどう思ったのか、彼はある言葉を掛けた。


「僕も昔、良く隠されたものだよ」


思わず顔をあげて彼を見ると、その表情は自嘲するような、どこか哀愁を感じさせる顔をしていた。


僕が言葉の真意を確認する前に彼は言葉をつづけた。


「靴、隠されたんだろう。わかるよ。僕も昔、隠されることが良くあったんだ」


ほほ笑みながら言葉を続ける彼に僕は問いかけた。


「なんで、あなたみたいないい人が?」


そう言ったのは無意識だった。彼と話した時間は短いが、それでもこの人はとても人思いで賢くて、話をしていて安らぐ人だということを感じさせた。なんでそんな人が靴を隠される必要があるのだろう。そう単純な疑問であった。


間抜けた顔で僕が答えを待っていると、彼は軽く前髪をつまみ「この色のせいかな」なんて言った。

その顔は微笑みを保ったままであったが、悲痛な表情をありありと伝えてきた。


僕と同じだ。


僕もそうだ。染めてなんかいないのに、色素の薄い髪の毛はそこにいるだけで悪目立ちした。学校には自毛証明書を出していたので問題はなかったが、悪意あるクラスメイトは僕の髪色を理由にはぶったり、僕の髪の毛の色がうつるといわれたりした。


髪の毛の色がうつるもんか。腹の中から苛立ちが湧くような気がした。クラスメイトの笑い声が頭の中で繰り返される。嫌だ、やめてほしい。そんなこと言っても無駄だってわかっていてもそういうしかなかった。悔しかった、なんでこんなことをされるのか理解できなかったし、いいようにされるのがつらかった。


唇をかみしめながら両手を握っていると、そこに男性の手が覆いかぶさってきた。

その手は僕の両手を優しく包み込み、慰めるようにゆっくりと擦った。


僕がその様子を黙ってみていると、隣から声が聞こえた。


「つらかったね。よく耐えてきたね」


その言葉を理解した瞬間、耐えていた涙が零れ落ちた。そうだ、僕は誰かにこの辛さを理解してほしかったんだ。そう気が付くと涙は止まらずに出てきた。


隣の彼は泣き出した僕の背中に手を優しく乗せてきた。じんわりとした温かさと優しさが身に染みるような気がした。


その時、光は知る由もなかった。光にやさしく寄り添う彼が、薄ら笑いを浮かべたことを。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

ここだけ切り抜くと主人公めちゃくちゃ悪い人みたいですね。


次回の更新は明日になると思いますが、筆が乗ればこのまま今日中に1話あげられるかもです。

頑張って書くので応援よろしくお願いします。

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