第十一話 探偵
あの後、僕たちは食事もそこそこに帰った。曙には過去の詳細は言わなかったが、僕の反応からある程度勘づいているのだろう。詳細を聞くようなことはしなかった。そして、僕もそれに対して訂正もなにもしなかった。どちらも何もしゃべっていないが、それが答えであるということはお互いがわかっていた。
その夜、寮に戻った僕は次のターゲットの復讐の計画を立てていた。
「まずは、手がかりを探さないとな」
相手の勤務先や行動理念はわかっている。あれから何年もたっているわけでもないからある程度の行動範囲や行動基準、動機なども大差ないだろう。そう思い、相手のプロファイリングをする。詳細な住居や勤務勤続、趣味などは後日、曙から送られてくる手はずになっているため今回はざっくりとした相手の現在と行動の予測、そして断罪への道のりを考えるだけだ。
新しいノートを引き出し、そこに鉛筆で書いていく。
ターゲットの人柄、役職、どのようなことをしているか、
・・・・・・僕に何をしたか。
書き進めていくうちに眉間にしわが寄っていくが、それをほぐしながら一通り書き終える。
本当に気持ちが悪いやつだ。
予測になるが、あいつのことだ。吃音症は治っていなかったし、クラスメイトのからかいはあの後も継続して行われていた。この数年で劇的に改善しているとは考えにくい。今も周囲に不満を持ちながら日常を過ごしているだろう。
そうすればどのように人は動くのか、そこまで思考を伸ばす。僕の養父の場合だとパチンコかスロットに行くだろうが、ターゲットはどちらかというとそういう、うるさい場所を嫌う傾向にあるだろう。それに金銭的な余裕もなければ、誰かに借りたり、借金をしたりする度胸もないだろう。だとすれば、発散方法は金のかからないものになるだろう。
人の汚さなんて見ようとしなくても見てきたものだから、見つけようと思うといつもと違う部分の脳みそを使っているような感じがして疲れてくる。
一つ伸びをして、鉛筆をノートに軽く打ち付ける。
そこで、奴が言っていた言葉を思い出す。
「天使、か」
僕は一つの仮説を立て、そのまま計画を立て始めた。
――――――――――
1週間後、僕の手元には曙が依頼したターゲットの捜査資料が届いていた。中にはターゲットの住所や行動範囲、趣味や1日のルーティーンなど様々な個人情報が載っていた。現在の状況に関しては僕の見立てとほぼ同じらしく、生徒になめ腐った態度を取られており、職員の中でもあまり好かれていないようだ。はは、笑える。
ちなみに資料の受け取り方は、曙に指示された場所に行き、そこで探偵らしき風貌の人に手渡しされる感じであった。相手もプロのようで、僕に対して「なんだこのガキは」なんて思いはおくびにも出さず、資料を渡してくれた。正直、こんな小説みたいな経験は初めてだったのでとても緊張した。
さっきのことを思い出しながら地図に〇をつけていく。空地、河川敷、公園。5つほど囲んだ中に、なじみのある、あの公園があることに舌打ちをしながら計画を進める。ここ1週間ほどの行動の中に不審な動きは見られなかったが、たかが一週間だ。たまたま何も出なかっただけの可能性は大いにあり得る。それに、これから起こるかもしれないのだ。
引き続き、曙には探偵を付けることを頼んでいるが、自分にもできることはしようと思い、携帯を出す。今いるところから一番近い場所でも、自転車で40分はかかる。時計を見るが、現在18時。今から行って間に合うかどうかだが、少しでも動きは早い方がいいだろうと思い、僕は外に出る支度をし始めた。
――――――
やっと着いた目的地に自転車を邪魔にならないところで止める。壊れて川に放置されていたものを簡単に自転車屋で直してもらったものだが、まだ使えるな。そう思いながら近くのベンチに座る。
目の前には小さな遊具が3つだけしかない、ほぼ空き地のような公園だった。そこでは数人の小学生と思われる子供が走り、騒いでいた。その子供以外に人の影はなかったが、せめて1時間ほど待とうと思い、自宅から持ってきたペットボトルを開ける。そして一口飲み、一息つくと、そのまま携帯を開き、最近通うようになったサイトに行く。
それは僕の中学校について載っているサイトであった。
このサイト自体は学校の評判や、偏差値、通ってみた感じを投稿しあうサイトであるが、掲示板機能もついているらしく、そこでは割と活発的に交流がされていた。まさか物語によくある裏サイトのようなものがあるとは思っていなかったが、こんなところにコミュニティが築かれているとは思わず、惰性で調べていた僕は見つけた時とても驚いた。
そこでは定番の七不思議の話や、むかつく担任の話、仲間内での男の取り合いの沙汰、私を誰か当ててみろといったように自由な感じであった。そこで僕は目的の単語が出てこないか複数のスレッドを見るが、お目当ての情報は得られない。しばらく眺めているうちに日も暮れていき、小学生たちはいつの間にか帰っていった。
門限のことも考えると、今日はこのぐらいにした方がいいだろう。僕は何も収穫が得られなかったことに肩を落としながら考える。
「しばらくはこんな生活を続けなきゃいけないのか」
成績を落とさないようにしなければな、と思いながら自転車にまたがった。
――――――
自分の〇の付けた場所に行き、携帯で情報収集をすること5日目。壊れた自転車で市をまたぎながら移動する生活に疲れが出ながらも、スマホを動かす手は止めない。2週間前までは手に持ったことの無い機械にかかりつきになっている自分ははたから見れば依存者に見えるのかな、と思いながらスレッドを見る。
あくびをかみしめながらスマホをスクロールし続けるが、ある言葉で目がとまる。
“てか、あいつまだ学校来てるの受けるw”
その一言とともにそのスレッドではとある男子生徒の悪口で盛り上がっていた。内容自体は下品の一言であり、趣味が悪いものであったが、その内容に僕は釘付けになり、内容を目で追っていく。
曰く、貧乏で臭いらしい。曰く、毎日何かしらものを隠されているらしい。曰く、背が低くてなよなよしているらしい。
そう書かれていく男子高校生の特徴に僕は夢中になってスレッドを下にスライドしていく。そして、そこには目当ての情報が書いてあった。
「てか、この前下呂にかばわれててマジでキショかったわ~」
下呂、その名前を目にした瞬間、思わず手を握りしめた。僕を苦しめた、そしてまた一人の人間を苦しめようとしている人間。そして今回のターゲット。そいつの名前だった。
やっと見つけた手掛かりに喜んでいる間にもスレッドは賑わっていたらしい。ある一枚の写真が投稿されていた。
見た目は幼い少年だ。中学生ぐらいだろうか。前髪が長く、髪の色素が薄いためか、反射していて目はよく見えない。スレッドではグロ画像だのなんだといわれているが、客観視そこまで悪い容姿には見えない。内容から察するに、この色素の薄い髪がいじめの原因の一つらしい。自分の髪を見ようとして、短くしたことに気が付き、触るのをやめる。色が薄いのは自分のせいじゃないのにな。そう思いながら写真の中の彼を見つめる。
すると隣に誰かが座る気配を感じた。
あまり人に見られてうれしいサイトを開いているわけではない自覚があったので、慌てて携帯の電源を落とす。
そして無意識に隣の様子を見て、僕は驚いた。
新しめのブレザーに身を包み、前髪で目を隠した彼は先ほど見た写真の中と同じであった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。評価やレビュー、ブックマークなどがあれば喜びます。
今回は探偵ごっこをする主人公でしたが、いかがでしょうか。勘のいいひとは主人公がどのような計画を立てているのかわかっている人もいるでしょうか。
最後の着地点や途中で挟みたいシーンは決まっているのですが、まだ細かいことは決まっていないので頑張って書いていきたいです。